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賢者巡礼  作者: ナハァト
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関係なくても疎外感って抱かない?

 エルフが攫われ、アブさんがそれを見ていたということもあって、そこまで案内することになった。

 牢屋から出ると、竜杖、マジックバッグを返してもらう。

 何もされていないか確認。


「……危険だから手を触れないように厳命しておいたから大丈夫よ」


 フードを目深に被った者からそう言われて――安心できる訳もない。


「信じられるか!」


 そもそも、お前のせいだからな。お前の。

 しっかりと確認して、大丈夫だったと安堵する。


「というか、そもそも危険ってなんだ。危険って。ただの杖とバッグだぞ」


 俺の言葉に、フードを目深に被った者の頬がひきつったように見えた。

 まるで、そんな訳ないだろ、と言いたげに。

 ついでに、竜杖の装飾の竜が、こころなしかニヤリとしたような……いや、気のせいだな。

 ラビンさんが用意してくれたモノなのだから、危険性なんてある訳がない。

 竜杖を持ち、マジックバッグを身に付け、詰め所から出る。

 変わらないはずの外の空気が美味しく感じるのは何故だろう。

 そして、半透明のアブさんが空中で方角を指し示してくれる。

 あちらだ、と。

 半透明なのは、まだウッドゲートは賑わっているから、だけではなく、俺一人の行動ではないからだ。

 俺の他に、フードを目深に被った者と、三十代の兵士さんに、他にも数名の兵士が共に行動をするからである。

 情報が事実であればそのまま行動を起こすつもりであるし、もし虚偽の場合は俺をそのまま捕らえるつもりなのだろう。

 いや、実際アブさんが目撃しているので確定情報なのだが……その説明はさすがにできない。

 まあ、向かえばわかることだと、アブさんの示すままに進んでいく。

 そうして進みながら、他の者には聞こえないように、アブさんに気になることを小声で尋ねる。


「……アブさん。なんであいつはアブさんのことが見えているんだ?」


 あいつ、とはフードを目深に被った者。

 今も、俺から目を離さないようにしつつ、話すために俺の頭上に移動してきたアブさんをチラチラと見ている。


「うむ。あれは見えているな。某の行動を目で追っている。おそらく『魔識眼ましきがん』の持ち主なのだろう。初めて見た」


 アブさんが見るモノは、大抵初見だと思う。


「『魔識眼』? なんだそれは?」


「簡単に言えば、魔力を形として識別できる眼。普通、魔力自体は目に見えん。まあ、可視化できるほどに圧縮した濃密な魔力を発現できるのであれば別だが、そのようなことは普通できない。そもそも前提として人の身を超えた魔力量が……まあ、アルムは別だが」


 人の身を超えた魔力は、既に二人分持っている。


「こほんっ。ダンジョンで得た知識だが、鍛錬で魔力を察することはできる。気配を察するのと同じくな。ただし、それはそこにあるなし程度であって、形としてはぼんやりとしたモノ。慣れれば個別判断もできるが、『魔識眼』はそれで終わらないらしい。魔力をしっかりとした形で捉えることができるだけではなく、魔力に色が付いているそうだ。それも一人一人僅かではあるが違う色が。鍛えれば魔力の流れる揺らぎだけで感情もわかるようになると言われている。ちなみに、某はもっておらん。目がないからなっ!」


 どっ! と声なき声で笑い出すアブさん。

 え? もしかして、今のは笑いどころだったのか?

 どこに?

 気付いてやれなくて申し訳ない気持ちになる。

 でも、相当すごい眼であるということはわかった。

 それでアブさんも見えているのだろう。

 しかし、これは困ったな。


「そうなると、アブさんの存在は隠せないのか?」


「察知程度であればいくらでも誤魔化せるが、『魔識眼』は言ってしまえば看破なのだ。それも、完全レベルのな。特殊ユニークスキルに該当するのだ。防ぐ術がない訳ではないが、一度視界に捉えられてしまっては、もう今更というモノだ」


「そうか」


「ただ、アルムにとっては朗報かもしれないぞ。何しろ、『魔識眼』はある種族の中でもさらに限られた者にしか発現しないと言われている」


「それって……」


 続きを聞こうとしたところで、アブさんが両手を使ってそこを指し示す。

 どうやら着いたようだ。

 そこは、ウッドゲートの中心部、それと出入り口からも外れた場所。郊外。

 住居のような建物が並んで建てられていて、その内の一つ――赤い屋根の家をアブさんは指し示していた。

 気配とかはわからない。

 けれど、赤い屋根の家の中からこちら窺うような視線を感じるような気がする。

 いや、あそこがそうだと言われたから、そう感じているだけなのかもしれない。


「……とまらないで」


 フードを目深に被った者からそう言われ、そのまま家屋を通り過ぎて、そこから見えなくなったところで物陰に隠れる。


「あそこね?」


 確認されたので頷く。

 アブさんが見えているのだからわかっているだろうに、と思ったが、他の兵士たちに教えるためだろう。

 あれ? そうなると、俺がここに居る意味は?

 俺、必要?

 アブさんが見えているのなら、そのまま案内してもらえば……いや、アブさんを俺が居ないところに放り込むと大変なことになる。

 包み隠さず言うのであれば――即死だ。

 俺が居る今ですら、どうしたものかと空中でオロオロしているし。

 自分がここに居る意味を見出している間に、フードを目深に被った者と兵士たちはこれからどう動くかの話し合いを始めていた。

 別に仲間でもなんでもないし、捕らえられてもいたが、こうして俺抜きで話し合いが始まると、それはそれで疎外感を抱くのは何故だろう。

 俺も交ざっていいのだろうか?


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