親切な人が世の中にもっと増えればいいと思う
どこでも門前払いを受ける。
エルフに会うことができない。
エルフと交易している場・建物はウッドゲートの中にいくつかあるのだが、どこも初見お断りなだけではなく、そもそもメド国からの紹介がなければ中に入ることすらできなかった。
どこも入口は兵士が守り、エルフたちの移動は護衛付きであるため、外で近寄ることすらできない。
実際、目の前の出来事として、近付こうとする者が居たのだが、兵士たちが即座に対応――問答無用で無力化して連行。
事情聴取後、解放されるかどうかが決まるそうだ。
「――という訳で、迂闊に近付くだけでああなるという、いい見本だ」
いくつかの交易場を回り、その中で一番大きな建物で門前払いされたあと、思い切って入口を守る三十代くらいの優しそうな兵士さんにどうにかならないかと聞いてみた結果である。
連行されていく人の背中を見ながら尋ねる。
「そもそもFランクの商人には無理ってことか」
「そういうことだ。一応言っておくが、馬鹿な真似はしないように。こちらも余計な仕事を増やして欲しくないからな」
「それはもちろん。ただ、随分と厳しいんだな、と」
「まあ、交易相手はエルフだからな。攫おうとする馬鹿があとを絶たない」
「魔石加工を狙って?」
「それもそうだが、エルフは見目麗しいからな。一昔前は奴隷にしようと考えるヤツが何度も現れていた……いや、それは今もだ。まあ、大半の理由はその二つだな」
なるほど。
ここはメド国の国土内だから、ここでの問題はメド国の問題になる。
エルフの誘拐が起これば、それはそのままメド国の信頼問題にもなるってところかな。
それは厳重にもなって、メド国が認めた者でなければ直接会えないというのも納得できる。
そうなるとメド国がエルフ製加工魔石の流通の元締めみたいなモノだが……これまで特に悪い噂は聞いていない。
エルフ製加工魔石も、高いことは高いのだが、高過ぎるという訳ではなく……所謂、適正価格できちんと扱われている。
いい国、かどうかはともかく、悪い国ではないのだろう。
だからこそ、エルフも同盟国として認め、交易・流通を任せているのかもしれない。
ただ、問題が一つ。
その辺りがわかったところで、俺がエルフに会えるという訳ではないのだ。
寧ろ、より難題になったと言える。
………………。
………………。
不適切だが、誘拐犯でも現れないだろうか。
それで誘拐される前に俺が颯爽と助ければ……それで機会くらいは……。
「言っておくが、誘拐犯が現れたとして、そこから救出したとしても無理だぞ。立ち合いの下で面会はできるだろうが商売の話は無理だ」
何かしら顔に出ていたようで、三十代の兵士さんがそう言ってくる。
「……何故? と聞いても?」
「その誘拐犯とグルという可能性もあるからな」
「ああ。確かに、そういう風に取られることもあるのか」
「過去に実際にあったからな。一応、申請は常時受け付けているが、精査し始めて結果が出るまでには数か月から年でかかるし、常にそれなりの人数が精査待ちだ。今からだと、いつ許可が出るかはわからないな」
時間がかかりそうだ。
まあ、別に急いでいる訳ではないから申請してもいいし、精査されて困るようなことは……あるにはあるが、さすがにラビンさんのダンジョンを調べることはできないだろう。
いや、待てよ。
確か国の力が必要になれば、ラビンさんのダンジョンがある中立国の王さまに頼ればいいと手紙にあったな。
今がその時……いや、やっぱりやめておこう。
それは最終手段として取っておかないと。
まずは他に手段がないか模索するか。
……あるいは、申請して、あとは体を鍛える方に時間を費やして新たな記憶と魔力を受け継ぎ、そっちに行くのもアリかもしれない。
……申請が通れば、だけど。
とりあえず、色々と教えてくれてありがとう、と三十代の兵士さんに一礼して、ウッドゲートの中を何かないかとぶらつく。
上を見れば、アブさんが飛んでいた。
ただ、俺を探しているようには見えないが、それでも何か目的を持って飛んでいるように見えたのだが、直ぐに建物に遮られて姿が見えなくなったので確証はない。
戻った時にでも聞けばいいかと思いつつ、再度ウッドゲートの中をぶらついていると……なんか視線を感じる。
勘違いかもしれないが念のためにと周囲を窺ってみれば、建物の陰に身を隠して頭をフードですっぽりと覆った者が、俺が見るとバッと隠れた。
………………。
………………。
いやいや、まさかね。
あんな間抜けを絵に描いたような行動をする訳がない。
しかし、そのままジッと見ていると、それはそーっと頭を出して、俺の視線に気付くと再度引っ込めた。
………………。
………………。
いや、もしかすると、俺ではなく、他の誰かを見ているのかもしれない。
再度ぶらつき――頃合いを見てバッと振り返る。
「………………」
それは戸惑ったかのように口をパクパクさせたかと思うと、慌てて建物の陰に隠れた。
……なるほど。
ウッドゲートに来たのは初めてである。
そんなに知り合いも居ない。
目的がわからないので……聞けばいいと判断。
近寄ろうとすると逃げるので……仕方ないと人気のない方をあえて選んで進んでいき、路地裏のような細い通路を抜けると、建物に囲まれた空き地のような行き止まりに辿り着く。
「ふふふ。どうやら無事に誘い込めたようね」
それが姿を現す。
いや、俺が誘い込んだんだが。
それでもわかったことが一つ。
声の調子から、女性だとわかった。




