ちなみに、自分も人の多さは得意ではありません
再び、森の国・フォレストガーデンに向かう。
といっても、そのまま直行する訳ではない。
俺自身の知識としてはまったくと言っていいほど知らない国だが、光のレイさんの記憶が色々と教えてくれる。
まず、森の国・フォレストガーデンは他国と比べると国土としてそう大きくはないが、その国土の大半は森だ。
それも、巨大で一つの森。
その中でエルフたちが住み暮らしている。
森の中には王都と呼ばれる場所もあるが、その一か所に集まっているという訳ではなく、いくつかの氏族に分かれて、という感じで森の中に氏族の集落が点在しているようだ。
王都は、氏族とかが関係なく集まる場所で、そこに世界樹がある。
世界樹については、光のレイさんも詳しくは知らないようだ。
いや、知る前に森の国・フォレストガーデンを出たというか……。
それでも概要はわかる。
この世の悪しき力に対抗しうる神聖なる力の一つ――とのこと。
エルフはその世界樹を守り、その代わりに世界樹から加護を与えられている存在――らしい。
よくわからん。
そんな森の国・フォレストガーデンだが、国土が森と言っても過言ではないため、当然そのまま森には入れない。
これは世界的な協定として定められている。
無断で入れば問答無用で侵犯として扱われ、最悪殺されてもおかしくない。
それに、光のレイさんの記憶によると、世界樹の加護は森の全域に及んでいるようで、無断侵入をとめることはできないが、エルフたちに直ぐ察知されたり、王都や氏族の集落にも辿り着けずに迷い続けて、運が良ければそのまま森の外に出るようになっているようだ。
凄まじい、と思うが、それが世界樹ということなのだろう。
このままだとエルフ以外は受け付けない、という感じだが、そうという訳ではない。
入れない手が、ない訳ではないのだ。
森と外を繋いでいる唯一の場所があって、そこはエルフと交易できる場所でもある。
そこは、森の国・フォレストガーデンと同盟を結んでいる隣国・メドの領土内にある町――、「ウッドゲート」。別名「唯一エルフと接触できる町」。
森の国・フォレストガーデンへの玄関口であり、そこでエルフは外の情報を知り得て、各種アイテムを手に入れ、偶に依頼を出したりもしているそうだ。
といっても、それは一方的に、ではない。
ウッドゲートはエルフとの交易場。
つまり、エルフ側が提供している物があるのだ。
それは、魔道具使用時に必要となる加工された魔石。
魔法使用に魔力が必要なように、魔道具使用には加工された魔石が必要になる。
加工していない魔石でも魔道具を使えることは使えるが、加工したモノと比べると、消耗具合やら何やらが段違いらしい。
エルフはその魔石加工技術が優れていて、他種族でもできなくはないが、サイズとか効率とか、他のとは一線を画した技術力を有しているのである。
所謂、一級品というヤツだ。
何しろ、魔道具を大切に長く使いたければ、エルフによる加工魔石を使え、と言われるくらいである。
その加工魔石を、エルフは交易品として出しているのだ。
今、そこに向かっていた。
―――
遠くに地平線だけではなく視界を埋め尽くすような広大な森――それと、その森の中に一つ突き出している巨大な大樹が見えてくる。
あそこが、森の国・フォレストガーデンだと思われる。
同時に、森の横に大きな町が見えた。
そこがウッドゲートだと判断して、頃合いを見て下りて徒歩で向かう。
ここからは人の目があってもおかしくないので、アブさんも半透明になり、俺に話しかけてくることもない。
一応、光のレイさんの記憶の中にあった森の国・フォレストガーデンについて振り返るのと同時に伝えているので、そのままふらっと森の中に入ることはない……と思う。
ウッドゲートは……大きな町だった。
また、唯一エルフと交易しているところでもあるので、厳重であると示すように、まるで王都かと思えるような高い壁に囲まれている。
国土的には半々のようだが、森の国・フォレストガーデンと隣国・メドが共同で守っているのだろう。
重要な場所なのは間違いない。
大きな門には門番が駐在していて、商業ギルドカードの方を見せて中に入る。
冒険者ギルドカードもあるが、ここが交易場なので、商業ギルドカードの方がやりやすいと思ったからだ。
中は――大いに賑わっていた。
呼び込みだけではなく、活気があるという感じである。
まるで休日の市場のように人で溢れ返っていた。
これは……。
「大丈夫か?」
こそっとアブさんに確認。
溢れ返る人の多さは駄目な気がする。
「………………」
アブさんは無理無理と首を横に振って、上に居ると空を指差したあと、上昇していく。
……風に当たりに……また一体化するのか?
夜になれば戻ってくると思うが、俺を見つけることはできるのだろうか?
そこが気になる。
………………。
………………。
まあ、魔力で識別したとか、そういうので戻ってくるだろうし、わざわざ俺に付き合わせて人の多さで調子を崩す訳にはいかないと思い、好きにさせることにした。
一つ頷き、俺も行動を開始する。




