大丈夫。きっといいことだよね
ラビンさんのダンジョンがある中立国が中心に描かれている世界地図で位置を確認して、森の国・フォレストガーデンに向かう。
場所的には、東方の少し南寄り。
そこに向かって、竜杖に乗って飛んでいく。
その隣で、アブさんも飛んでいた。
「ああ、この風を切る感じ……某、今、風と一つになっている」
訳のわからないことを口ずさんでいる。
いや、実際両腕を広げて気持ち良さそうに飛んでいるのは間違いない。
けれど、俺には風との一体感というより、ラビンさんのダンジョンから出られた開放感……いや、解放感のように思えてしまう。
「まあ、どっちでもいいが、とりあえず、町か村が近くなったら姿を隠してくれよ」
「わかっている。その辺りに抜かりはないわ」
姿を現している方が切る風をより実感できると、アブさんは姿を隠していない。
誰かに見られないかと少しヒヤヒヤする。
いつだって、不測に起こるからこそ不測の事態は――。
「すみませーん! 誰か……誰かあー! あっ、骸骨が飛んでる! 助けてくださーい!」
起こり得るのだから、て待って。
何か今……。
「アブさん」
「んー、どうした? アルムよ。今、某は風と一体になるのに忙しいのだが」
「いや、風とイチャイチャするのはそこまでにして、今、声をかけられなかった?」
俺の言葉に、すぅーっと姿が薄くなって半透明になるアブさん。
そのままあわあわし出して、真剣な雰囲気で詰め寄ってくる。
「見られたのか? 目撃者は消すしかあるまい」
「いきなり物騒だな。見られたかどうかはわからないが、助を求めているような声だったような……」
「ふむ。助けか……」
………………。
………………。
行ってみることにした。
少し戻って、声が聞こえた辺りをウロウロしていると――。
「戻って来てくれたんですか! こっち! こっちでーす!」
気のせいではなかったようで、呼びかけられる声に従って向かう。
すると、そこに居たのは――その場にぐしゃりと崩れたようなスケルトンだった。
地面に置かれているスケルトンの頭部と目が合ったような気がする。
「おっと、まさかの人間。これはマズい。『へっへっ。こいつはいいところに出くわしたもんだ。既に弱っていやがる。いい経験値、それと間抜けなスケルトンとして話のタネになるぜ!』的な感じで倒されるに違いない。……でも、それはそれでいいかもな。動くこともできない状態なら、いっそ倒されて誰かの経験値になった方が、この生命にも意味があったということになるかもしれない」
そこまで卑屈になられると逆に倒しにくいと思うのは俺だけだろうか?
いや、別に率先して倒すつもりはないが。
それに、普通は喋るスケルトンとか驚くのだが、無のグラノさんたちやアブさん、これまでいくつか喋る魔物と相対してきたので、普通に受け入れてしまう。
「ふむ。スケルトンか……どうやら、いくつかの骨がなくなり、立つことすらままならないようだな」
「そうなのか?」
見ただけでは……うん。骨しかない。
俺にはわからないな。
「どこからか声が! それともあなたさまですか? 渋い声だけではなく、見事な洞察力ですね」
「媚びを売るな。媚びを」
すると、害意はないと判断したのか、アブさんが姿を見せる。
「な、なんてお強そうな骸骨! あの、助け――」
アブさんにも助けを求めるかと思いきや、崩れたスケルトンはアブさんと俺を交互に見て――。
「助けてください!」
俺に助けを求めてきた。
まあ、実際は対等だと思うが、構図的には俺がアブさんを従えている、もしくは使役しているように見えなくもない。
だから、最終決定権は俺にあると判断して、助けを求めてきたのだろう。
「いい性格をしているな、こやつ」
「まったくだ」
それがわかっていてそれで済ませる辺り、アブさんは大物だと思う。
「それで、助けて欲しいと言われても……まず、具体的にどうなってそうなった?」
希望の光を見たのか、崩れたスケルトンが話し出す。
「実は自分、元々はぐれと言いますか、特に住処を持たない魔物なのです。なので、どこか安住の地はないかと彷徨っていたのですが……あっ、といってもそこまで強くはないですよ。寧ろ、弱い方。骨密度的に」
ドッ! と笑い出すアブさんと崩れたスケルトン。
え? 何今の? 笑うところあった?
スケルトンだけに通じる何かだろうか?
わからない俺は少しだけ疎外感。
……今度、無のグラノさんたちを相手に言ってみようかな。
「それで?」
「あっ、すみません。それで、彷徨っているときに運悪く狼の魔物の群れに出会いまして……必死に逃げたのですが、あいつら目の色変えて追ってきて、かなりの本数の骨を奪われてしまい、今に至ります。今も度々現れては持っていかれ、もうどうにも……」
うっ、うっ……と泣き出す崩れたスケルトン。
ちらり、とアブさんを見ると、首を横に振る。
どうやら、その狼の魔物は近くに居ないようだ。
つまり、取り返すこともできない、と。
これはどうすることもでき――。
「……仕方ない」
アブさんがそう言って右手を前に出すと、黒い渦が現れてその中に突っ込む。
「それは?」
「『空間収納』。無属性の一種だ。物を出し入れできて便利だぞ」
なるほど。
確かに便利そうだ。
無のグラノさんの記憶と魔力を受け継いだら絶対使おう。
そして、アブさんはその中から大小様々な骨を次々と取り出していく。
「それは?」
「ダンジョンで手に入る骨だな。特別使い道はないが捨てるのもな。と思って取っておいたのだ。これで、こやつの新たな体を組み上げる。構わんか?」
「敵意はないようだし、お好きにどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてアブさんによって始まった崩れたスケルトンの修復作業。
どうやら、なんでもいい訳ではなく、合う合わないがあるらしく………………組み上がったのは翌日。
一部が大小様々、色取り取りなスケルトンが立っていた。
「うおおおおおっ! 内から力が溢れます!」
「うむ。色々な魔物の骨を使った影響だな。もうただのスケルトンではない。『カオス・スケルトン』と名付けよう」
「ありがとうございます!」
この世に新たな――新種の魔物が誕生した瞬間だった。
のちにこの魔物――カオス・スケルトンは、「骨を守れ! 我らの骨は噛まれるためでも、煮込まれて出汁になるためにもある訳ではない!」と彷徨っている内に様々なスケルトンを従え、骨保険と銘打って様々な骨を集めることで恐れられる一大集団の長に――いや、飛躍し過ぎだな。
なんてことを考えている内に、件のカオス・スケルトンは俺とアブさんにお礼を言って去っていく。
……俺は別に示した訳ではないのだが、いつか辿り着くかもしれない魔物の村で再会しそうな気がした。




