表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
125/614

初心な反応を見ると優しくなれそうな気がする

 朝。母さんに起こされ、寝起きで寝ぼけたまま連れていかれ――促されるまま椅子に座る。

 座っているのは俺だけではない。

 俺の隣にラビンさん、無のグラノさん、火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさんの順に横一列で座っている。

 カーくんがそんな俺たちのうしろに陣取っていた。

 母さんがラビンさんとは逆の位置――俺の隣に席を一つ用意。

 アブさんの席のようだ。

 どうも、と母さんに向けて会釈しながら、アブさんが座る。

 そして、そんな俺たちの前に大テーブルが置かれ、対峙するように女性陣スケルトン・レディース、母さんとリノファが立っていた。

 女性陣とリノファはそれぞれ大きなトレイを持ち、トレイの上は金属製の丸い覆い――クローシュが置かれ、中身が何かわからない。


「………………」


 ………………。

 ………………。

 しまった! 嵌められた!

 意識がハッキリしたことで、危機的状況であると判断する。

 以前の記憶――料理を食したことが蘇って……舌が朝からそれは無理だと訴えてきた。

 いや、正直なところを言えば、朝だけではなく昼も夜も無理だ。

 見れば、ラビンさんと無のグラノさんたちはげんなりしているが……逃げる様子はない。

 逃げても無駄だ、と悟っているようだ。

 でも、俺は諦めない。


「か、母さん!」


「どうかしましたか?」


「これから何をやろうとしているのかはわかる。スケルトンでも味わえる新作料理――その試作、試食会……だよな?」


「ええ、その通りです。説明しなくても理解してくれるとは……さすがは愛しのマイ息子・サン


 現実を思い出させないでくれ――という視線を、ラビンさんとカーくん、無のグラノさんたちから向けられる。

 今は見なかった。気付かなかったことにしよう。


「だったら、別に俺が参加しなくてもいいのでは? 重要なのは、スケルトンが感じられるかどうかだし」


 俺の意見に対する反応は二つ。

 一つは、その通りだ。よくぞ言ったと、ラビンさんとカーくんが同意見だと頷く。

 俺がこの理由で逃れれば、自分たちも同じ理由で抜けられるからである。

 一つは、いいや、そういう訳にはいかない、という無のグラノさんたち。

 逃がすつもりは一切ないと、目の奥が光っているように見える。


「……なるほど。確かにその通りかもしれません」


 俺、ラビンさん、カーくんが見ている景色が輝き出す。


「ですが、これは試作・試食会です。意見は多い方が今後のためになります。結果として、より素晴らしいモノを作れるようになるでしょう。なので、その要請は却下します」


 俺、ラビンさん、カーくんが見ている景色が再び暗く包まれた。

 無のグラノさんたちは喜んでいない。

 共に苦楽――苦だけなので苦行を味わおうな、と仲間意識を感じさせる雰囲気でこちらを見ている。

 絶対逃がさない……逃がす訳ないだろ、という闇の意識を隠しながら。

 どうやら逃げられないようだ、と意気消沈する。

 ふと、反対側を見れば、アブさんがソワソワしていた。

 スケルトンでも味を感じられる料理――の試作と聞いて、ドキドキワクワクしているのかもしれない。

 現実を知らない初心な反応に、こちら側は誰しもが優しい目をアブさんに向ける。

 新しい仲間ができるのだ。

 喜ばしいこと、この上ない。

 大丈夫だ、アブさん。

 ただ、口を動かせばいいだけだから。

 最初は無理かもしれない。

 でも、数をこなせば、無心で咀嚼できるようになるから。

 そうすれば、あとはすべてを悟って飲み込むだけで終わりである。

 蘇生もバッチリだから、安心。大丈夫だ。

 共に生きて――生き抜こうな、とこちら側の誰もが思った。

 いや、まだ諦めるのは早い。

 母さんが指導しているのだ。

 奇跡的なことが起きて、劇的に腕が上達し、せめて食べられるモノになっているかもしれない。


     ―――


 奇跡は起きなかった。

 わかっていたことである。

 何かがプラスに働いたとするのなら、こちら側はさらに絆が深まったことだろう。

 最早、戦友である。


「………………」


 アブさんは何やら燃え尽きたような真っ白な状態で椅子に座ってピクリとも動かない。

 仕方ない。

 今回が初回だし、アブさんの復活は遅くなりそうだ。

 既に何度か経験している俺たちですら、まだ椅子から立つことすらできていない。

 それでもこうして意識があるのは、女性陣の腕が上がったのか……それとも、こっちの耐性がより高まっただけなのか。

 耐性なら嫌な耐性である。

 話すだけの余力はあると、ラビンさんが尋ねてくる。


「……それで、また戻るの?」


 ラビンさんを見ると、逃がさないよ? と言われているような気がした。

 目と雰囲気から、少しばかりの本気を感じる。

 でも、言いたいことはわかった。


「いや、しばらくは戻らないと言って出てきた。もう人に囲まれるのは勘弁だからな。今度は別のところに向かうつもりだ。記憶を受け継いだし、次は森の国・フォレストガーデンに」


 記憶の主――光のレイさんは、水のリタさんと土のアンススさん、リノファと共に、母さんから試作料理の評価を聞いていた。

 できれば、次回はその評価を反映したモノになっていて欲しいモノだ。


「そっか。フォレストガーデン……世界樹の様子を見に行くんだね」


「ああ。表面には出していないけど、気にかけているからな」


 料理にもそれだけ気を配って欲しいと思うのは贅沢だろうか。

 そのあとは、立てるようになるまで他愛もない話をし、未だ燃え尽きたままのアブさんを、苦を共にした戦友たちで介抱した。


明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ