新たに加わるって大変
ラビンさんが直立不動なままのアブさんを隣に立たせる。
「はい。という訳で、ボクたちの新たな仲間となった……なんだっけ?」
「あっ、はい。『絶対的な死』です」
「そうそう。それそれ。長いからアルムくんと同じように略称で、アブくんです。他のダンジョンのダンジョンマスターだからといって、除け者にしないように。みんな、仲良くね」
ラビンさんがニッコリと笑みを浮かべる。
「よろしく、お願いしまーす!」
アブさんが90度腰を曲げて一礼する。
無のグラノさんたちがアブさんを取り囲んで挨拶をし始め、次いで母さんとカーくんも行うようだ。
あと、本命というか最後に控えているのが、リノファ。
今は新しい骸骨ということで、欲望を隠せない人のように少しばかり興奮している。
あの人……俺の故郷の王女さまなんだぜ。
少なくとも、テレイルには見せられない姿のような気がする。
いや、もしかして知っているのだろうか?
確認しづらいので、確認しないでおこう。
今はアブさんの方だ。
口調がいつもと違うし、態度も変なのは……見ればわかる。
ガッチガチに緊張しているな、アブさん。
「あっ、はい」と答えるので精いっぱいで、まともな受け答えができていない。
それでも、これまでのアブさんを考えると、かなりマシだ。
少なくとも、即死魔法を撃とうとすらしていない。
というか、なんか恐怖に包まれているように見える。
あれ? 俺的には、見た目は同じ骸骨だし、無のグラノさんたちと仲良くなると思っていたのだが。
不思議に思っていると、ラビンさんがこちらに来るので尋ねる。
「あれ、なんかアブさんが怖そうにしているのは、ラビンさんが何か言ったから? それとも、ダンジョンの大きさを肌……骨で感じて、格差を感じて恐縮しているとか?」
「僕は普通に見定めただけだよ。このダンジョンの敵であるか、アルムくんの害になるか。問題ないからこうして連れてきただけ。ダンジョンの格差は感じているかもしれないけど、それはああなっている理由ではないかな。多分アレは、別の格差を感じているんだよ」
「別の格差?」
「ヒストくんとレイさんはアルムくんに魔力を受け継がせたから、言ってしまえばそこらのスケルトンとそう大差ないように感じるだろうけど、それ以外のみんなはまだ魔力持ちだからね。アブくんよりも圧倒的に多い魔力持ちがそこらに居てのを感じている上で囲まれているから……それが原因じゃないかな?」
「………………んん?」
「言ってしまえば、今は新人冒険者がSランク冒険者パーティに囲まれているような感じかな」
「なるほど。………………なるほどで済ませていい状況ではない!」
急いでアブさんを助けに向かった。
―――
アブさんが俺を盾にするようになった。
常に俺の背後を陣取り、片時も離れようとしない。
本当に憑かれている感じで……なんか怖い。
「アブさん。大丈夫だって。手を出さなければ、誰も襲ったりしないから」
「そんなのわからないだろ! と、とにかく、ここに居る間は某を守ってくれ! アルムだけが頼りだ!」
……まあ、頼られるのは悪くない。
みんなとは俺越しの会話になっているが、会話もできているので問題ない。
けれど、リノファの熱視線が向けられるので、勘違いしそうである。
とりあえず、アブさんは無事に迎え入れられた。
「アルムよ……某は世界を知ってしまった……世界は、広いのだな……」
なんかアブさんが悟ったようなことを口走っているが、大丈夫だ。
世界の広さを知った。
それはいいことのはず。
そんな結果になったが、アブさんのことも紹介し終わったので、一応冒険者の国・トゥーラでの出来事は大体伝え終わった。
追加でラビンさんには、合成魔法についてお礼を伝えたが、その結果で自身が傷付くのはまだまだ制御が甘いと、火のラビンさんと光のレイさんの時と同じように注意を受ける。
本当に、魔力を受け継いでもまだまだなんだと実感するばかりだ。
ただ、みんなに伝えたこととは別に、個別に伝えておかないといけないことがある。
深夜――だと思われる時間。
少なくとも、母さんとリノファが眠ったあと、俺はみんなにお願いして、火のヒストさんと二人きりにしてもらう。
アブさんも、この時ばかりは気を遣ってか――。
「アルムー! アルムゥー!」
みんなに強制連行されていってくれた。
いずれ俺から巣立つだろうから、その時のための練習だと思えばいい。
そして、俺は火のヒストさんに――現在知り得たことを伝える。
余計なことだったかもしれないけれど……。
「あっはっはっはっはっはっ! そうかそうか! そんな風になったのか!」
伝え終わると、火のヒストさんは豪快に笑った。
「えっと、怒るとか、そういうのは? 少なくとも、余計なことをすんな、とか」
「あっ? そんなことを気にしていたのか。別にアルムが気にすることじゃねぇよ。それに、アルムに記憶を受け継がせるにあたって、そこら辺のことは俺たちの中で既に話が終わっている。好きにすりゃいい。記憶を受け継がせるのは、言ってみりゃ、人生の追体験だ。それを押し付けたのはこっちだ。アルムの好きなようにすりゃいいんだよ」
骸骨だから表情はわからない。
けれど、雰囲気から、なんとなく本当に吹っ切っているような気がする。
「何しろ、俺たちはレイはちっとわからんが、他にアンスス以外、全員自分が人として生きた時間より、こうしてスケルトンで居る時間の方が長いんだぜ。もうこっちの方が主体。主軸だ。だから、今で追体験するアルムが調べたいのなら、調べればいい。俺たちはそれを受け入れるだけだ」
……なんというか、器の大きさを感じる。
それだけ長い時間を過ごしたということだろうけど、火のヒストさんがどこかカッコ良く見えた。
いつもカーくんと筋肉筋肉言っているだけではないんだな。
そう思っていると、火のヒストが少し考えて、ポツリと呟く。
「それにしても、キアとソウマがねぇ……」
「何か気になることでも?」
「いや、さすがに本心までは知らねえが、キアはソウマを毛嫌いしていたはずなんだがな。まっ、俺の前でだけかもしれねえが」
まっ、心変わりすることでもあったんだろ、と火のヒストさんは結論付ける。
「あと、そのネウってのが強くなりたいのなら、ここに連れて来ても構わないぜ。ラビンには俺から言っておくからよ」
「いいのか?」
「構わねえさ。ただ、魔法はともかく、剣を教えることはできねえな。ただ、修行場としては絶好だぜ。何せ、そこらで見ないような強い魔物ばかりだからな」
それは間違いないだろうな。
とりあえず、ネウさんへの報酬の最終候補として憶えておこう。
そのあとは王都の昔と今についてで盛り上がったあと、みんなのところに向かった。
良いお年を。




