つまり、浄化作用があるってこと
魔法陣に乗って、ラビンさんのダンジョン最下層に辿り着く。
慣れ始めた道を通って、まずはボス部屋へ。
「いいか! 何事にも体が大事だ! 頑丈な体があればこそ、きつい鍛錬にも耐えられるようになり、その効果は飛躍的に上昇する! 一に筋肉! 二に筋肉! 三も四も五も六も七も筋肉だ! 寧ろ、筋肉があればなんでもできる!」
「はい、カー師匠」
「たとえばの話をしよう。敵は数多くの死霊系。聖属性持ちであっても、今の魔力量ではすべてを浄化することはできない。どうすればいいと思う?」
「効率、的な、聖属性の、行使、でしょうか?」
「答えの一つと言えるだろう。だが、それでも足りない数であったなら? それに、予測不能の出来事はいつだって起こるモノ。余力を持って終わらせたとしても、安心はできない。なら、最後に頼るべきはなんなのか! それを問うている」
「……己の、肉体、でしょうか?」
「その通りだ! つまり、筋肉! 筋肉があれば死霊系であっても倒せる! つまり、筋肉は浄化作用があり、すべてを叶え、凌駕すると言っても過言ではないということだ!」
「は、はい! 筋肉――ではなく、カー師匠!」
「よおし! 今のは実に筋肉的な返事だった! その調子だ! 頑張れ! 今、筋肉が喜んでいるぞ!」
筋肉的な返事ってなんだ?
それに、筋肉が喜んでいるって、カーくんはそんなところまでわかるのか?
そんなよくわからない会話をしているのは、ボス部屋の中で腕立て伏せをしているリノファと、それを見守って応援しつつ、なんだかよくわからないことを口走っているカーくんの二人。
母さんと無のグラノさんたちも居て、その様子を見守っている感じだ。
いや、俺も見守っている場合ではない。
「ちょいちょいちょいちょい!」
そう声をかけながら進入。
やめよう! リノファが筋力を付けるのは別に構わないが、それは筋力であって筋肉ではない。
リノファがムキムキになってしまうと、任せてくれた責任から申し訳なく思うし、最悪テレイルがキレる。
いや、別に筋肉が悪い訳ではない。
女性の割れた腹筋とか、少し指を這わせてみたいと思わないでもないが、リノファにはなんか合わないというだけだ。
「おお、帰ってきたのか、アルムよ」
カーくんがそう言って、他のみんなも同じように言って出迎えてくれる。
……帰ってきた、か。
確かに、今ここには母さんが居る。
帰ってきた、という感覚が強い。
「ただいま。それで、今何をしていたんだ?」
「うむ。弟子であるリノファを鍛えていた。だが、体がそこまで強くなくてな。ここに来た時のアルムよりは幾分マシだが、今のままでは満足に『聖属性』を鍛えることができない。よって、『聖属性』の前に、まずは土台となる体の方を鍛えているという訳だ」
「……体、鍛える意味あるのか?」
「当たり前だ! 単純な話。一日に一時間鍛錬できるのと、一日に二時間鍛錬できるのでは、その後が大きく変わるだろう。単純に結果は倍だ」
「まあ、言いたいことはわかるが……」
その結果でテレイルから文句を言われるのは俺なのだが。
「大丈夫です! 頑張ります!」
むん! と両拳を握ってやる気を見せるリノファ。
その姿はどこか可愛らしくあるので……まあ、大丈夫だろう。
それに、いざという時は母さんがとめるだろうし。
「師匠! 掃除が終わりました! 確認を!」
「瓦礫を隅に追いやることを掃除とは言いません。やり直しをお願いします」
「師匠! 炊事が終わりました! 味見を!」
「味見は構いませんが、まず食材をきちんと切ることを学びましょう。繋がっていますよ」
「……師匠! ……洗濯、終わりました! ……確認を!」
「まず、柄物を交ぜない。あと、物によっては縮みますので分別を。それと、干すまでが一連の動きです」
母さんは、女性陣への指導に忙しそうだ。
とめてくれるだろうか……心配。
「ところで、帰ってきたということは、また何かあったのか?」
無のグラノさんの問いに首を振って答える。
「いや、何かあったからではなく、何か終わったから、かな」
そう前置きして、光属性を受け継いでからのことを簡潔に話す。
クラウさんたちは話が通じそうとか、元伯爵や元ギルドマスターの行いに憤慨したりしてくれたが、炎魔獣に関しては完全に俺の鍛錬不足が指摘される。
「炎魔獣だかなんだか知らないが、制御さえしっかりしておけば、吸収されるなんてことはないし、それに俺の魔力であればたとえ相手が火属性特化であろうとも、そのまま焼き尽くすくらいはできるぜ」
「……ワタシの光属性だけでも充分だった。それなのに、ヒストの魔力と合成するなんて……冒涜」
主に火のヒストさんと光のレイさんから、もっとしっかり使えるようになれ、と感じのことをしっかりと伝えられる。
記憶があるからこそ、それが事実だとわかるので何も言えない。
あとは、他のダンジョンのダンジョンマスターであり、今は外でラビンさんが面談しているアブさんに、みんな興味を抱いたようだ。
特に――。
「新しい骸骨の方ですか!」
パアアアアアッ! とリノファの周辺で花が咲いたような幻覚を見る。
そういえば、骸骨好きだったな、リノファって。
そうして話している内に、ラビンさんがアブさんを連れて戻ってきた。




