協力してくれる人が居るって素晴らしい
あと何かあっただろうかと部屋の中で考えていると、クールなメイドさんから来客があると伝えられた。
誰だろうと呼んでもらうと、現れたのは青い長髪の十代後半くらいの女性。
恰好から冒険者だと思うが……誰だっけ? 見た憶えがある。
「その顔。私のことを憶えていないって感じね」
「まあ、ここら辺くらいまでは出かかっている」
首の辺りを指し示す。
こういう時、あと一押しが中々出なくて困る。
「……一度しか会っていないから仕方ないわね。ネウよ。ソウマとキアの来孫の」
「あ、ああ!」
そうそう、と手を叩く。
「それで、どういった御用で?」
尋ねると、ネウさんはどう切り出すべきか……と少し考えてから口を開く。
「あなたが『蒼空の剣』ではなく『暁の刃』の方を気にしているのが気になって、私も少し調べたのよ。といっても、私のおばあさま――ソウマとキアからみればひ孫に当たる人に」
「そうなのか。ありがとう。こうして来たということは、何かわかったのか」
「ただ一つだけ。お祖母さまも一度尋ねたことがあったそうよ。『暁の刃』について。けれど、おかしいの」
「おかしい?」
「抜けたという五人目について、何も語られなかったって。まるで、五人目は最初から居なかったように」
「……は? なんだそれ」
「わからないけれど、何か変でしょ? 普通は抜けた五人目についても何かしらの話が聞けるはずなのに。聞いた相手は当事者なのよ」
「それはそうだ」
「お祖母さまも、今思い出してみると、尋ねた時の様子はいつもと違って何かおかしかったような気がするって。それで、ちょっと調べてみたの。結果は、やっぱりおかしい。五人目については名前しかわからない。『ヒスト』って名前しか記録が残ってないの。お墓どころか家族すら、居たかどうかすらわからない」
お墓がないのは、まあ火のヒストさんの記憶に当てはめるのであれば、大穴に落ちて死体すらないから、と言えなくもない。
まあ、実際は生きている……スケルトン状態をそう言っていいのかわからないけれど、少なくとも死体がないのは事実。
といっても、それを知っているのは俺だけだし、そもそも名前しか記録はないっていうのも変だ。
ここまで聞くと、まるで誰かが火のヒストさんの存在自体をなかったことにしたいように感じる。
それをやったのは、実際に手を下したソウマ――いや、「蒼空の剣」全員か……。
考えても答えは出ない。
もう少し調べれば何かわかるかもしれないが、今は――。
考え込む俺に、ネウが話しかけてくる。
「あなたの現状は理解しているわ。自由に動けないのでしょ? だから、私の方でこのまま調べ続けてもいいわ」
「本当か!」
「ええ。といっても、付きっきりではなく、手が空いた時に、だけど」
「それでも充分だ。ありがとう」
「お礼はいいわ。私自身が少し納得いっていないだけだから。ただ、私は冒険者よ。そして、これは依頼と言える。だから、協力するにあたって報酬を望んでもいいかしら?」
「報酬? どんな?」
内容によるんだが。
俺が用意できるモノとなると限られる。
「私はもっと強くなりたい。Aランク……いえ、Sランクになりたい。でも、今のままではいずれ限界がくる。だから」
「確かソロで魔法剣士だったよな。なら、パーティメンバーか? もしくは、俺になれとか?」
それは困るんだが。
「違うわよ。私とあなたとでは力に差があり過ぎて、私の方が付いていけない。それにパーティメンバーが必要なら自分で探すわ」
「だったら、何を?」
「私が限界だと思うのは、このまま独学で強くなることが、よ。だから、師となる者が欲しい。あなたくらい強ければ、そういう人に心当たりはないかしら?」
「……居ないな」
強いて言うのであれば、無のグラノさんたち、ラビンさん、カーくんだが、魔法はともかく剣は思い付かない。
「そう。でも、これから出会う可能性はあるわよね。だから、出会ったらでいいわ。それで駄目なら、金でももらうわよ」
「わかった。それでいいのなら」
スッと右手を差し出す。
ネウさんと契約を交わすように握手をした。
―――
――出発する前の日の夜。
見送りは要らないと伝えている。
それに、早朝――陽が出ると共に出る予定なので、その時はまだみんな寝ているだろう。
だから――。
「明日は早い。アブさんも寝られる内に寝ておいた方がいいぞ」
「某、『絶対的な死』になってから一度も寝ていないが?」
「え?」
「え?」
「もしかして、睡眠必要ないのか?」
「不死系統は基本的に寝ないと思うが」
それもそうか。
納得しながらアブさんを見ていると――なんか妙にソワソワしているように見える。
「なんか落ち着きがないけど、どうかしたのか?」
「いや、なんというか、こう……今日は妙に冴えているというか、実際落ち着けないのだ」
「………………もしかして、アレか? 言ってしまえば、ここはまだダンジョンからそう離れていないが、明日からは完全に遠出だ。それで……緊張してる?」
「緊張……これが緊張か? まったく落ち着けない」
「そこはまあ、何度も大きく深呼吸をする……は、そもそも呼吸を必要としていないか。となると、無理矢理開き直ってみるとか?」
「……無理っ! なんか無理! アルム! 頼むから、落ち着くまで某と会話してくれ!」
「……寝たいんだが」
「あれはそう、某がまだリッチであった頃の話――」
「話し始めているし……」
眠れない夜を過ごし、結局一睡もできないまま出発することになった。
見送りは大丈夫だと言ったのに、部屋を出たらクールなメイドさんからまた来訪することを心待ちにしておりますと言われ、王城のテラスからクラウさんたちが手を振っていて、王都の門にはシャッツさんとリユウさん、「煌々明媚」と「堅牢なる鋼」の人たちから肩を叩かれたりする。
また来ようと思いながら、竜杖に乗って大空に舞った。




