ふかふかベッドは正義だと思う
クラウさんがダンジョンマスター代理を受けるかどうかは、さすがにこの場では決められないと一旦お持ち帰りになった。
ただ、感触としては受けると思う。
得られるモノが大きいから。
一旦持ち帰ったのも、聞いていた人たちの中にシャッツさんとリユウさんが居たからで、この国の商業ギルドと冒険者ギルドが、それにどう関わっていくかを話し合うためだろう。
国、商業ギルド、冒険者ギルドによる舌戦が繰り広げられそうだ。
……怖い舌戦になりそうだと思うのは、きっと俺だけではないと思う。
といっても、俺とは関係ない話なので、そこを深く考えるのはやめた。
それに今は休む時。
右手、右腕は痛むし、魔力もまだ完全に回復していないような感じがする。
しっかりと休息を取ることに――あっ、部屋変えてもらうのを忘れていた。
……もういいか。
今から変えてもらうのも手間だろうし、ベッドがふかふかなのは悪くない。
―――
気が付いてから数日が経った。
休息を取ることを優先しているので、特にこれといった行動は取っていない。
一応、何かあった時のためにいつでも動けるようにと心構えはしていたが、特にそういったことは起こらなかった。
なので、基本的には寝て過ごし、起きている時はアブさんと話をしたりして過ごす。
その中で、ふと思ったことを尋ねた時もあった。
「クラウさんが代理を断ったらどうするつもりなんだ?」
「ふむ……アルムが親友である某を差し置いて仲良くしている、あの商人とやらに頼むかな。あれも代理として上手く努めそうだ」
アブさんはそう答えた。
商人……シャッツさんか。
シャッツさんには冒険者辞めた時に助けてもらったから、恩人のようなモノだ。
だから、どちらかと言えば仲良くしているというよりは、恩を返しているだけだ。
でもまあ……シャッツさんなら確かに上手くやりそうだ。
寧ろ――。
「ただ、あの者に任せた場合、某よりも上手く管理しそうで、某の立場がなくなりそうで怖い」
それな。
あと、偶にだが面会に来る人も居た。
クラウさんたちは忙しいのかあの日以来会っていないが、その代わりという訳ではないが、「煌々明媚」や「堅牢なる鋼」は会いに来てくれた。
俺が落ちるところを見ていたのか、大丈夫なのかと心配されたり、今は英雄扱いされていることをからかわれたりと、楽しい一時を過ごすことができたと思う。
だからアブさん。
誰かと話している間中、部屋の隅でいじけるのはやめて欲しい。
あと、予想外の人物も現れた。
「どうも~!」
「帰れ」
と言っても「爆弓」は帰らなかった。
聞こえていない訳ではないのに、普通に中に入ってくる。
これはアレかな。
俺にしばかれる覚悟ができた、ということだろうか。
「違うよ」
「……何も言っていないが?」
「あの時のことをやり返してやる、て顔をしていたよ」
しまった。表情に出ていたか。
残念。警戒を与えてしまったようだ。
「それに、本当に何もするつもりはないから安心してよ。ただ、お礼を言いに来ただけだからさ」
「お礼? お前が? 俺に?」
俺も警戒。
「あはは。まあ、そうなるよね。でも、これは本当だから。何しろ、あのまま伯爵に付いているとロクなことにならないと思っていたからね。抜ける機会を窺っていたんだけど、そこで運良く潰してくれたから助かったな、と」
……嘘っぽい。
「いやいや、本当だよ。なんかいつも誤解されるんだよね」
本当に困ったものだよ、と肩をすくめる「爆弓」。
そういう仕草や雰囲気のヤツなのでもしかしたら本当は――いや、ないな。
こいつはアレだ。
自分がそういう風に見られていることを理解している上で、それすらも利用している気がする。
ただ、今回ばかりは本当にお礼だけを言って、「爆弓」は去っていった。
俺は訝しむが――。
「ああいうのはアレだな。こちらがそういう風に思っているのをわかっていて、それを楽しんでいそうだな」
アブさんの言葉でなんか馬鹿らしくなったので、そのまま考えるのはやめて寝た。
―――
そうして数日間の休息を取っている内に、「魔物超大発生」は終息した。
ダンジョン内の魔物の数は通常に戻り、こういう言い方もどうかと思うがダンジョンに平穏が戻る。
終息に合わせて、王都各地にあった穴も塞がれた。
けれど、穴に関しては噂も含めてかなり知れ渡っているらしい。
状況が状況だけに、仕方ないと言えば仕方ない。
また掘られて利用されるかもしれないので、新たに厳罰化する予定だそうだ。
「王都騒乱罪」という罰に組み込んで、相当厳しいモノになるらしい。
といっても、実際はもう掘れない。
アブさんがダンジョンマスターとして少し弄ったらしく、掘っても繋がらないようになっているそうだ。
休息を取っている時にアブさんから直に聞いたので間違いない。
それと、終息したことで回復薬と回復魔法使いが用意されて、俺の右手と右腕も癒されて完治したので、これで漸く休息は終わり、俺も自由に動けるようになった。




