人によって落ち着く場所は違う
現状を聞き終えてから気付く。
「そういえば、ここどこだ!」
安心してベッドに体を預けている場合ではない。
アブさんならわかるはずだ。
「ん? ここは城の中にある一室だ。某が即死魔法を我慢しながら、どうにかこうにかして一等の部屋をもぎ取ったのだ!」
えっへん! と胸を張るアブさん。
一等? 最上級ってことか? 王城の?
……正直聞かなければ良かった。
なんというか、聞いたあとだと落ち着かない。
ベッドがふかふかで素晴らしい感触なことに否はないが、なんというか分不相応である。
綺麗過ぎる部屋だとどこか落ち着かないのと一緒だ。
多少は汚れているというか、生活感のようなモノがあった方が落ち着く。
できれば別の部屋に変えて欲しいが……それはそれで失礼に当たりそうで嫌だ。
当方の用意したモノに納得いただけないと? と貴族とか妙な理屈で難癖を付けてくるから面倒だ。
王族なんてその貴族の最たるモノだし。
いや、クラウさんなら言えば笑いながら変えてくれそうな……と思ったところで、ベッドの脇に置いてある台の上に、持ち手付きの鈴が置かれていることに気付く。
「ああ、それを鳴らせばメイドか執事が直ぐに現れるらしい。いや、すごいな。人の世は」
感心するようにそう言って頷くアブさん。
まあ、アブさんが居たところにはなかったことだし、新鮮な反応を見ることができたのはいいが、俺は益々居た堪れない。
従者付きの部屋とか、元従者としてなんかこう……ああっ!
持ち手付き鈴を手に取って鳴らす。
チリン。チリン。
人が来る気配を察して、アブさんが半透明状態になる。
「起きられましたか。英雄さま」
直ぐに部屋のドアが開けられ、なんか仕事ができそうなクールな感じのメイドさんが姿を見せて一礼する。
執事連中に高嶺の花だとモテそうなメイドだな、と思った。
「直ぐにク……えいゆう? ん? まあ、いいか。クラウさんに起きたので話がしたいと取り次いでもらえないか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
クールなメイドさんが行動するためにドアを閉める。
「ぶはあっ! 人を呼ぶのならそう言ってくれ。いきなりで驚いたぞ」
「ああ、悪い。というか、ぶはあって、別に息をとめる必要はない……いや、その前にアブさんに呼吸は必要ないだろ」
「様式美だ。様式美」
大事なことなのだ! とアブさんが念押ししてくる。
意味がわからない。
―――
クラウさんとの面会は、直ぐに用意された。
別にアブさんを疑っていた訳ではないのだが、「魔物超大発生」が終息に向かっているのだと実感する。
直ぐに面会できるだけの余裕がある、ということだ。
ただ、俺としては前に集まった部屋に向かうのだと思っていたのだが、何故か向こうから来た。
クラウさん、宰相のリヒターさん、騎士団長のカヴァリさんに、シャッツさんとリユウさんも居る。
秘密の話し合いの面々勢揃いという感じで、クラウさんが人払いをすると、一度姿を見せているということもあってか、アブさんも半透明状態から姿を現した。
クラウさんたちは俺に向けて「無事で良かった」とか「心配していた」とか温かい言葉をかけ、アブさんにも「色々と助かりました」とか「ミスリル鉱石(極大)の件。ありがとうございます」と一礼しながら、俺が寝ているベッドの周囲を囲むような形で立つ。
全員立っている中で俺だけがベッドで半身を起こしたままというのは精神的によろしくないので、立ち上がろうとするがクラウさんにとめられる。
「別にこれは公式ではないし、堅苦しいモノではない。そのままでいい」
俺以外の全員がそういう感じなので、大人しくそうすることにした。
「さて、起きて直ぐだろうが、こうして呼んだということは、『魔物超大発生』について聞きたいということでいいのか?」
「一応、アブさんから概要は聞いたが、もう少し詳細がわかるのなら聞きたい。途中で抜けたような形だからな。それに、留めておいた軍隊の方もどうなったのかを」
別に隠すつもりはないと、詳細を語ってくれる。
「魔物超大発生」に関してはアブさんから大体聞いているが、知らなかった部分がいくつかあった。
結界が消えたという状況であったにも関わらず、こちら側の被害がそれほどではなかったそうだ。
事前に準備を終えていたのが功を奏した形である。
それと、途中でこちら側に下ったAランク冒険者たちの奮闘が大きかったらしい。
今後のことを考えて相当頑張ったそうだ。
まあ、あの伯爵のせいでどこからも印象が悪いだろうから、てことだろう。
中でも「爆弓」は相当活躍したようで、爆発する弓矢による援護のよって助けられた人たちがかなり居るそうだ。
上手くやりやがって、と思うのは、決して俺だけではないはず。
Aランク冒険者や合同部隊は、今も王都各所にある穴に張り付いて魔物を掃討し続けていて、「魔物超大発生」が終わり次第、その穴はすべて閉じる予定だそうだ。
その穴に関しても、何故そんなのがあるのかわかった。
アブさんが人為的と言っていたが、その通りである。
またもあの伯爵が絡んでいて、協力していた貴族だけではなく、闇ギルドと呼ばれる所謂犯罪集団とも手を組んでいて、そこからの情報でダンジョンに向けて穴を掘れることを知り、これまでそこを利用して、自分たちにとって不都合な存在を葬っては証拠隠滅としてダンジョンに捨てていたそうだ。
魔物が処分してくれるし、アブさん曰く、ダンジョンは様々なモノから糧を得る――吸収するから証拠も残らない、と。
それが露見し、さすがに看過できないとその闇ギルドを潰す予定――ではなく、速攻で潰したそうだ。
ここら辺の情報は「爆弓」によるモノ。
本当に上手くやっているな、とここまでくると寧ろ感心……しないな。やっぱり。
なんか「爆弓」は、このまま国の裏で生きていきそうな気がする。
宰相のリヒターさんが悪い顔しているし。
ただ、そんな「爆弓」よりも活躍した人が居た。
俺。
炎魔獣との戦いをバッチリ見られていた。
合同部隊だけではなく、王都に残っていた人たちからも。
まあ、空中でバチバチにやり合っていたし、見られていたのは仕方ない。
その結果、今俺は王都の中で英雄扱いされているそうだ。
………………。
………………。
もう一度聞き返したが、聞き間違いではなかった。
外を出歩く時は囲まれないように気を付けろ、と注意を受ける。
これまで経験したことないので、ピンとこない。
あと、俺が留めておいた伯爵領軍と隣国の軍隊だが、合同部隊の一部が様子見に向かうと、俺が気絶したことで魔法は解けていたようだが大人しく待っていて、そのまま投降――というより、伯爵領軍は庇護を、隣国の軍隊は亡命を願いでてきたそうだ。
どちらもこれまで酷い扱いを受けてきたのだと察することができる。
一応裏取りはするそうだが、受け入れるつもりのようである。
それと、ここまでのことを仕出かした伯爵は極刑対象で、他の関係者もどこまで関わっているかを調査したあと、見合った刑を執行するそうだ。
その伯爵は今地下牢に入れられているそうだが、その隣に俺がここまで運んだ隣国の指揮官が居て、毎日責任の擦り付け合いをしていてうるさいと、見張りの兵士から苦情が上がっているらしい。
どこに行っても迷惑をかける存在である。
そうして一通り聞いたあと、これで話は終わりかな? と思っていたが、そうではなかった。
「とりあえず、これで『魔物超大発生』を乗り切れる目途は立った。あの時の話の続きをしたいのだが?」
そう言うクラウさんが、アブさんを見た。




