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賢者巡礼  作者: ナハァト
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直前でも忘れることはざらにある

「……アルム」


 呼ばれた気がしたので目を開ける。

 いつの間にか眠っていたようだ。

 ゆっくりと顔を上げると――。


「ふんっ!」


「むんっ!」


 上半身裸のゼブライエン辺境伯とシュライク男爵が並び、俺に向けて筋肉を魅せるようなポーズを取っていた。

 本能が拒否反応を示し、瞬間的に燃やして証拠隠滅を図ろうとしたが、ギリギリで理性が絶える。


「いつまで寝ているつもりだ、アルムよ」


「そうだ。遂に時が来たのだ」


 何を言われているのかさっぱりわからないが、どうやら本能で何かを察して、すらすらと口から言葉が出る。


「この世の終わりが?」


 ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵がポーズを変える。


「何を言う。この世の終わりではない」


「いや、ゼブライエンよ。既存の世界が終わり、新世界が始まるという意味では、この世の終わりと言えるのではないか?」


「確かにその通りだ! そう、遂に始まるのだ! 筋肉の筋肉による筋肉のための世界きんにくが!」


 喜びを露わにするポーズを取るゼブライエン辺境伯とシュライク男爵。

 何を言っているのだ? と頭が理解を拒絶した。

 というか、二人共そんな筋肉至上主義だったか? と疑問に思っていると、別の方向から声をかけられる。


「そう! 遂にこの時が来た! 地下深くで雌伏の時を過ごすのは終わりだ! 地上に出て、筋肉が世界を統べるのだ!」


 筋肉を誇らしげに見せるポーズを取っているカーくんだった。

 いや、ますます意味がわからない。

 そもそも雌伏という理由で地下に居た訳ではなかったはずだが?


「共に歩もう! 筋肉ロードを!」


「共に育もう! 栄光なる筋肉を!」


「共に生きよう! 神なる筋肉を!」


 ゼブライエン辺境伯、シュライク男爵、カーくんが横一列に並び、揃って筋肉を大いに見せるようなポーズを取る。

 駄目だ。頭が破壊されそう。

 心なしか、頭ではなく右手と右腕が痛い気がする。

 何故?

 いや、それよりも誰か状況説明を行って欲しい。

 まったく心当たりがないし、意味がわからない。

 それに、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵は、いつの間にカーくんと知り合ったんだ?

 誰か! と救いを求めると、テレイルが現れた。


「助かった!」


 思わず縋り付く。

 テレイルはそんな俺に対して首を傾げて、合点がいったように頷く。


「ああ、超筋肉大帝国建設の予算を気にしていたのか? 大丈夫だ。今や筋肉至上主義は世界中に届いている。既に多くの国で貴族主義などという脆弱な主義は淘汰され、筋肉至上主義を掲げ、超筋肉大帝国への恭順の意を示している」


「……は? 何を言っている? テレイル」


「超筋肉大帝国は世界一の国になるぞ、アルム。いや、アルム帝よ」


「………………ん? え? アルム、てい?」


 本当に何を言っているのかわからない。

 テレイルがおかしくなった。

 それに、さっきから右手と右腕の痛みが増している。

 テレイルは、俺に向けて優しい表情を浮かべた。


「帝王として、世界の筋肉覇者として君臨することに緊張しているのか。だが、安心しろ。アレを見れば、落ち着くだろ?」


 テレイルの指し示す方に視線を向ければ――。


「「「バンザーイ! バンザーイ! アルム帝、バンザーイ!」」」


 万歳と言いながら、万歳ではなく言葉の調子に合わせて筋肉を魅せるポーズを取り続けるゼブライエン辺境伯、シュライク男爵、カーくんが居た。

 え? いや、え? あれ? もしかして、アレか?

 周囲が異常だと思っていたが、異常なのは俺の方なのか?

 俺が何か間違えている?

 こうなった経緯を思い出せないだけ、なのか?

 ただ、そんな思考を邪魔するように右手と右腕の痛みが強くなっていき――テレイルも参加しての重なる万歳の声を聞きながら――。


     ―――


 目を開けると真っ白な天井が見えた。

 ………………。

 ………………。

 ん? 何か変なモノ――頭が痛くなるような何かを見ていたような気がする。

 けれど、それがどういった内容なのかは思い出せな――。


「いたっ!」


 右手、右腕に強烈な痛みが走った。

 強い痛みは一瞬だったが、ズキンズキンと継続して痛みが走っている。

 何が、と視線を向ければ、自分が真っ白なベッドに寝ていることと、右手、右腕に包帯が巻かれているのが見えた。

 えっと……直前のことが思い出せない。

 それに、ここはどこだ?

 周囲を確認すると、ここが豪華な客室のようだと思う。

 置かれている物はどれも高価そうで、そこらの宿には……というか、王城とかそういったところに置いていそうな物ばかりだ。

 そんな調度品ばかりが置かれている中――部屋の隅に、この部屋の雰囲気に似つかわしくない黒い外套を纏った骸骨が、床をいじいじと触っていた。


「……アブさん?」


「……っ! 起きたのか! アルム!」


 声をかけるとアブさんが反応して、俺の側までやってくる。

 そこで思い出した。

 直前まで何をやっていたのかを。


「アブさん! どうなった! 『魔物超大発生ハイ・スタンピード』はどうなったんだ!」


 炎魔獣イフリートは確かに倒した。

 合成魔法で一気に魔力を消費してしまい、魔力を使い切って気絶してしまったが、倒した手応えは痛みと共にある。

 だが、結局のところ、「魔物超大発生ハイ・スタンピード」からすれば魔物の一体でしかないのだ。

 どうなったのか――無事に乗り切ったのかを知りたい。


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