相手の動きからヒントをもらうと突破口になる
火のヒストさんから記憶と魔力を受け継いだあと、出発する時にもらった物。
竜杖。ローブ。マジックバッグ。その中にある各種。
そのどれもが有効な物だった。
もちろん、それはラビンさんが用意してくれていた本も。
あれの中身は物語ではない。
記憶と魔力を受け継いだあと、それだけに終わらないよう――さらなる強さを身に付けるために必要なことが書かれているのだ。
今回やろうとしているのは、その内の一つ。
これまで読んでいるだけで実践したことはない。
それでも、できなければ負ける可能性が高いというか、もっとも得意となっている火属性は効かないだろうし、光属性も効果としては期待以上ではないと思う。
せめて火属性に対抗できる水属性があれば……いや、今はない以上、あるモノでどうにかしないといけない。
炎魔獣に対して、火属性と光属性のどちらが効果は高いかは、当然光属性。
その光属性の効果をさらに高め――。
「アルムッ! 炎魔獣が何かするつもりのようだ!」
アブさんの声で思考が途切れる。
今は思考に没頭している場合ではないとわかっていても、ついつい考えてしまうのは、それだけ緊張しているのかもしれない。
試みに失敗すると、下手をすれば俺は一気に魔力を失うからだ。
「見えている!」
「GURUWA―!」
まずは集中と意識を向けると、炎魔獣が咆哮を上げる。
何が起こるかは見ればわかった。
炎魔獣の全身が炎に包まれる――まるで、巨大な火炎球である。
距離が離れているのに熱が伝わってきそうなほどだ。
いや、実際俺は汗をかいている。
熱による暑さからか……魔力、もしくは体力が消耗し過ぎているからか……緊張からか……あるいは、その全部か……。
自身を炎で包んだ炎魔獣が俺に向かって突っ込んでくる。
その速度は先ほどまでと違い過ぎるくらい速い。
――上等!
竜杖にさらなる魔力を注ぎ、速度を上げて動き始める。
炎魔獣にあとを追われつつ、炎の玉四つが俺の動きを阻害するように動いてきた。
そのすべてを避けながら、俺は魔力を練り上げていく。
といっても、俺はそこまで器用ではない。
炎魔獣を気にしつつ、炎の玉四つを避け切ることができているのは、アブさんのおかげだ。
「挟み込むように左右から炎の玉が来るぞ!」
「わかった!」
速度を上げ、下降しながら回避するが、直線上に王都があるのは不味いと上昇する。
またアブさんから次のお知らせが届き、空中で一回転するようにして炎魔獣の突進をかわした。
「助かるよ、アブさん」
「そうだろう! そうだろう! もっと感謝してくれていいぞ!」
胸を張るアブさん。
いや、本当に感謝しているから、きちんと周囲を警戒して欲しい。
同じダンジョンで生み出されたモノ同士で手を出せないアブさんだが、口は出せる。
そのため、魔力練り上げ中の俺は注意力が落ちているので、そこをアブさんが補ってくれていた。
だからこそ、やるべきことに集中できて、準備は整う。
練り上げた魔力を解放する。
基軸となるのは、利き手である右。
右手――総量的に右腕にまで光属性の濃密な魔力を纏わせる。
次いで、左手に火属性の魔力を纏う。
「ほう。器用なことをするな」
アブさんはこれが何か知っているようだが、今はそれに答えられない。
少しでも集中を切らすと、練り上げた魔力がたちまち霧散するような、それくらい神経を使う魔力操作を行っているのだ。
もっと魔力操作が上手くなれば楽にできるのだろうが、今は無理。
長くも持たないので、早々に決める。
光り輝く右手の上に、燃える左手を重ね置く。
これが、ラビンさんの本で学んだことの一つ――合成魔法である。
「『白輝赤燃 呪縛を断ち切り 螺旋炎獄を巻き付かせ 戒めを解き放つ すべてを浄化する 眩く白き輝刃 燃える意思が結ぶ 光斬剣・火炎纏い』」
光り輝く剣が現出して、握る。
同時に、その剣全体に螺旋を描きながら炎が纏わりつく。
別属性を同時に行使する合成魔法。
消費魔力が飛躍的に大きくなるが、その分以上の飛躍的な高威力――超威力を誇る。
相手となる炎魔獣に火属性は効果が薄いというのはわかっているが、使える属性が火と光だけなので、超威力くらいでないと一気に倒せない。
それに、この魔法の基礎となっているのは光属性。
火属性は光属性を強化している補佐的な位置であり、これでなら炎魔獣に対して充分な効果がある。
といっても、このままでは駄目だ。
単純に大きさが足りない。
なので、さらに魔力を注いで巨大な剣にまで――炎魔獣を両断できるだけの大きさにする。
「ア、アルム! それ以上は!」
アブさんから心配するような声が上がる。
それもそのはず。
合成魔法は超威力である分、反動も大きい。
ラビンさんの本では、身体強化魔法を併用しないと肉体にダメージが現れると書いてあった。
けれど、未熟な俺はまだそこまで魔力を制御できず、発動・維持させるだけで精一杯であるため、肉体にダメージが出ているのだ。
強い光量と熱量によって、既に右手右腕の皮膚の一部が焼け焦げ剥がれていく。
当然痛むが――今は無視。
火炎を纏う巨大な光り輝く剣を、炎魔獣に向けて構える。
炎魔獣にも、俺が次で最後にするつもりだとわかったようだ。
「GURU……」
一鳴きして、四つの炎の玉を自身の周囲に戻して漂わせる――だけでは終わらず、四つの炎の玉から網目状に火が先へと伸びていき、騎馬兵が持つ騎槍のような形状に変化する。
同時に、炎魔獣が纏う炎の火力が上がった。
向こうも決める気のようである。
「はあ、ああああああああああっ!」
「GURUWAAAAAAAAA!」
同時に前へと飛び出し、火炎を纏う巨大な光り輝く剣を突き出す。
炎魔獣の炎の騎槍の先端と衝突し、目を眩ませる閃光のような火花が散り……拮抗する。
俺が未熟であるだとか、属性的な相性によるとか、色々と理由は思い浮かぶが、結局のところ押し切れない。
炎魔獣は驚きの表情を浮かべていたが、直ぐに獰猛な笑みを浮かべる。
「くっ」
「それでは駄目だ! アルムよ! 火属性があっては駄目だ! 炎魔獣には火属性を吸収する力があるのを忘れたか!」
これで拮抗するのなら、さらに力を足せば、相手を弱体させればいいと、炎魔獣は巨大な光り輝く剣が纏う火炎を吸収し始める。
「大丈夫だ! アブさん! これが狙いだ!」
なんだかんだとこれまで主力として使ってきた分、火属性の扱いはある程度慣れている。
炎の槍は知らなかったから吸収されたが、そうされるとわかっているのなら、やりようはある。
巨大な光り輝く剣を纏う火炎は、剣先に向かう螺旋状だ。
それを――逆にする。
剣の後方に向かう逆螺旋のように動かし、溜めていく。
今は炎魔獣が吸収するために繋がっているので、ついでにそっちからも火属性の力を奪う。
「GA、GAAAA!」
炎魔獣が戸惑い、抵抗するが、それは隙であり、こっちはもう準備万端だ。
こう使うこともできると、炎魔獣――お前が教えてくれた。
巨大な光り輝く剣の後方に溜めた火属性の力を、炎魔獣が足元で噴出させて飛んでいるように――一気に噴出させる。
「はああっ! 『白輝赤燃 光斬剣・火炎纏い・発火』!」
巨大な光り輝く剣の後方から巨大な火が噴き出し、体がぐんと引っ張られたかと思うと、そのまま一気に炎魔獣を両断して突き抜けた。
同時に、もう限界だと右手右腕に激しい痛みが走り、その痛みで巨大な光り輝く剣は消え去る。
けれど、炎魔獣はもう倒したから、あとは――というところで視界が暗転した。




