やってみないと意外とどうにかならない
対峙している炎魔獣の様子を窺っていると、炎魔獣の口を開き、そこに光が――炎が凝縮していく。
「何を――」
「いかん! 避けろ! アルム!」
アブさんの警告が飛んでくるが、何が危険かわからない。
瞬間――ゾワッと危機感が迫り、本能が逃げろと訴える。
が、駄目だ。避けられない。
炎魔獣が何をしようとしているのかわかった。
凝縮されたモノを光線状に吐こうとしているのだ。
けれど、俺に避ける選択肢はない。
何故なら、俺の後ろには町が――王都がある。
無人ではなく、ほとんど人が残っている王都が。
普段から大きな魔法を放っているからわかるのだ。
凝縮された光線は、間違いなく射線上のモノ――王都の建物をすべて焼き尽くし、それだけではなく壁にも大穴を開けるのは間違いない。
受け止められるかどうか――。
「何をやっている! アルム! 狙いはお前なのだぞ!」
そんなアブさんの声が聞こえたかと思えば、視界が一気に動く。
アブさんに掴まれて、上空に引っ張り上げられたようだ。
炎魔獣の頭部がそんな俺を追尾するように動き、凝縮された光線が放たれる。
ビカッ! と光り、俺の横を通り過ぎて、さらに上空にある雲の一部を掻き消す。
「あっぶな! 助かったよ、アブさん」
俺だけではなく、王都にも被害がなかったのは、直前でアブさんが引っ張り上げてくれたからだ。
「感謝してくれるのなら、そろそろ自分で浮いてくれないか? 見ての通り某は骨だ。筋肉はない。ポッキリいきそう」
それは不味い。
俺を掴んでいる手がもうプルプルしているし、いつ放されてもおかしくない。
急いで竜杖に――て、その前に放さないでくれ!
ギリギリで竜杖に乗って飛翔する。
「アブさん……助けてくれたのは本当に感謝だが、もう少しだけ掴んでいて欲しかったよ」
「すまん。物理的なことには弱くてな。それよりも」
「わかっている」
地上を見る。
至るところでダンジョンから出てくる魔物を相手に、合同部隊が戦っている。
炎魔獣はそちらを一切気にせず、ジッと俺を見ていた。
「あいつ……なんであんなに俺を目の敵のように」
「さてな。あの炎の槍に思うところでもあったのではないか?」
「思うところって?」
「ふむ。炎を司る魔獣として、あの炎には負けていられないとか、あるいは吸収していた訳だし、もっと寄こせと強請るためか」
本当に迷惑な存在だな。
「まあ理由を聞いても答えてはくれないだろうし、今はどう倒すかだな。幸い空には来られないだろうから、このまま様子を見て」
どうにか――しようと思ったのだが、何やら様子が変だ。
俺ではなく、炎魔獣の方が。
何やら力を溜めているような――。
「GUUUUUU!」
炎魔獣の叫び声と共に、その四肢から煙が一気に噴出し続ける。
「……あれ? なんか浮いてないか?」
「そうか? ……いや、確かに浮いているように見えるな」
アブさんと一緒に確認していると――突然炎魔獣が上空に飛び立つ。
俺よりも高く上がり、その四肢――足元部分から炎が噴出しているのが見える。
「……飛んでる、よな」
「飛んでる、な」
炎魔獣は四肢の足元部分から噴出し続けている炎を巧みに動かし、空中に留まって俺を見る。
「GURU」
勝ち誇るような笑みを浮かべられた。
「お前! こっちより高く飛んだだけで勝ったつもりか! こら!」
カチンときたから言ってやった。
「GYAU! GYAU!」
炎魔獣が吠え、その周囲に炎の玉が四つ出現して、俺に向かって放たれる。
竜杖を操作してその射線上から逃れ、炎の玉はすべて俺から通り過ぎ、王都へ――向かわずに、ぎゅんと方向を変えて再び俺の方に。
「追尾か!」
当たらないように空中を飛び回る。
それでも炎の玉は追ってきた。
このままでは、逃げるだけで手一杯だ。
そうならないように、どこまでも追って来そうな炎の玉から逃れつつ、どうにかして炎魔獣を倒さないと――甘かった。
炎の玉に気を取られ過ぎた。
炎魔獣は俺との距離を詰めていて、大きく口を開けてその牙を俺に向けている。
「こなくそっ!」
このローブなら防げるかもしれない。
けれど、そのローブに覆われていないところだと意味はない。
炎魔獣が俺の動きに合わせて勢いよく口を閉じるが、瞬間的に無理矢理竜杖を動かして体をずらす。
大きな牙が俺の頬を掠めて出血する。
痛みより、避けられて、生きていることを喜ぼう。
痛いことは痛いけどな!
後ろから炎の玉が追って来ているし、まずは距離を取ろうとしたが、その前に炎魔獣が四肢の炎を巧みに動かし、勢いを付けた体当たりを行ってきて、俺はまともに食らって吹き飛ばされる。
竜杖との繋がりがなければ、多分手を放して落ちて終わっていた。
ダメージはローブで防げたようだが、衝撃はまともに食らったので、頭がくらくらする。
「アルム! とまるな! 動け! 動き続けろ!」
アブさんの声に反応して、無意識で竜杖を動かして前へ。
炎の玉四つが後ろを通り過ぎていく。
いつの間にか隣を飛んでいるアブさんが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫か? アルムよ」
「声がけ、助かったよ、アブさん。
「それはいいが、いけそうか? なんなら逃げるのも」
「いや、逃げるのはなしだ。アレを放置すれば本当に王都が終わる。ただ、アレに生半可なのは通じないだろうから、やるなら一気にやらないと」
「できるのか?」
「……手段がない訳ではない」
初試みだから失敗するかもしれないが。




