居て良かったと思う時はいつも不意に
人望のない指揮官でよかった。
下手に人望があるというか、優秀な人が来ていたら、抵抗されて戦闘になっていただろう。
まあ、それでも負ける気はないというか、負けないけど。
矢も魔法も届かない上空から火の雨を降らせる、あるいは、今は光属性が使えるようになったので、その練習がてら光線の雨を降らせて、一方的にやっつけることができたのは間違いない。
だから、負けない。
その分、被害が甚大ではないというか全滅レベルだっただろうから、そうならずに少しばかり安堵する。
あとは、捕らえた人望のない指揮官をクラウさんに引き渡して、どの辺りで軍隊を足止めしたかを伝えれば、あとは対応を任せて終わりだ。
――と思っていたのだが、王都に近付くと異変に気付く。
王都内から黒煙が立ち昇っていた。
それも一つではなく、いくつもの黒煙が立ち昇っている。
「何やら色々なところで襲撃が行われていないか?」
「みたいだな」
アブさんも異変に気付いている。
やはり、おかしいのだ。
黒煙が上がるとしても、それは一か所――ダンジョン入口周辺だけのはず。
見た限り、黒煙は王都内の四方八方からだ。
「何が……いや、何かが起きているようだ。それも、良くない方向で」
「急いだ方が良くないか?」
「わかっている」
速度を上げて王都に急ぐ。
近付き、王都上空付近に辿り着くと、内部の様子が少しだけ見えた。
王都内の至るところに多種多様な魔物が出没している。
逃げる者、戦う者――対応は様々だが、緊急事態だということは見てわかった。
何故そうなったとか、理由を考えるのはあとだ。
まずはクラウさんが居るだろう王城に向かいつつ、目下に居る魔物に向けて魔法を放って倒しながら進む。
それでも魔物はどこからか次々と現れているため、効果としては薄い。
どうしてこうなっている? と言いたくなる。
王城に向けて進んでいると、ダンジョン入口付近が見えた。
ここが一番激しく、次々と現れる魔物を合同部隊がどうにか抑え込んでいる、といった感じだろうか。
ここが手一杯であるため、合同部隊は王都内に現れている魔物に対して多くの人員を割くことができていないようだ。
それを目で確認していると――。
「新手だ! 踏ん張れ!」
誰かがそう言った瞬間、ダンジョン入口から魔物がワッと出てくる。
先ほどまで出て来ている数の倍は一気に現れ、このままでは合同部隊でも抑えきれないかもしれない――と思った瞬間、体が動く。
「『赤燃 貫き穿つ 振るわれる一突きは 燃え上げ突き刺す灼熱の猛火 炎槍』」
下手に加減すると焼き尽くすことができずに、魔物が溢れ出すのをとめられない。
今は魔力をガンガン注いで大きさと威力を上げていく。
掲げるように上げた手の先に、超巨大な――建物すら貫けるだけの炎の槍が現出する。
「い、けえ!」
ダンジョン入口の階段に向けて超巨大な炎の槍をぶっ突き刺す。
その場に居た魔物と出て来ようとしていた階段上に居た魔物――それと階段の一部をすべて焼き尽くし、ダンジョン入口は超巨大な炎の槍が突き刺さったまま埋まる。
「今の内に!」
俺の声が聞こえたかどうかはわからない。
ただ、今が立て直す機会だと判断したのか、合同部隊が一気に攻め入り、地上に居る魔物たちを掃討していく。
これで大丈夫だと超巨大な炎の槍を消すが、直ぐにダンジョン入口から新たな魔物が出て来ようとしている。
「まだ出てくるのか!」
再度同じ魔法――超巨大な炎の槍でダンジョン入口を塞ぐ。
「アブさん! 中に居る魔物がどれくらいかわかるか?」
「少し待て。確認してみよう」
アブさんが、ムムム……と睨むようにダンジョンを見始める。
ダンジョンマスターが共に居て助かった。
ついでに「魔物超大発生」をとめて欲しいけど、それは無理な話。
とりあえず、このままダンジョン入口を塞いでおけば――と思っていると、下から声がかけられる。
「アルム! こっちだ!」
クラウさんが居た。
傍には騎士団長のカヴァリさんも居る。
魔物を一時的に掃討して余裕ができたのか、こっちに来いと手招きしているので向かう。
王さまなのに前線に出そうだな、とは思っていたが、まさか本当に出ているとは思っていなかった。
合同部隊が立て直しを行っている中、魔法を維持したまま、ゆっくりと下りていく。
そこで、クラウさんもあることに気付いた。
「いや、待て! なんでここにアルムが居る! こちらに迫っている領軍と隣国の軍隊はどうしたんだ!」
「それは足止めしたから大丈夫だ」
「大丈夫って……それに、その吊るしているのはなんだ? 誰だ?」
「あっ、これは来ていた軍隊を指揮していたヤツで――」
地面に下り、軍隊の方をどうしたのか簡単に説明する。
「……軍隊規模を魔法で足止めか。すげえな」
「楽しそうにしないでください、陛下。普通は無理ですし、騎士団長としては頭の痛い話です。まあ、味方である分には非常に頼もしいですが」
楽しそうなクラウさんに、最後はニヤリと笑みを浮かべる騎士団長のカヴァリさん。
軍隊の方は、クラウさんたちに任せて大丈夫なようだ。
指揮官を引き渡し、尋ねる。
「それで、こっちはどうなっている? どうして王都中に魔物が? そもそも結界は?」
「すまない。エフアト伯爵の手の者によって、結界の核となるミスリル鉱石(極大)が砕かれてしまったのだ」
クラウさんが苦々しい表情を浮かべた。




