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賢者巡礼  作者: ナハァト
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本当だとしても俄かには信じられない時もある

 竜杖に乗って、示された方角を一直線に進んでいく。

 何事にも予想外、予定外はあり得るので、「魔物超大発生ハイ・スタンピード」の方も心配だが、あっちはこっちと違ってこれまでに色々と準備期間があった。

 それに、今はAランク冒険者も協力してくれる……「爆弓」だけは降参する前に一発殴っておけばよかったと思うが、それでも元々敵味方がわからなかったので、計算の中に入れなかった戦力だったから、直前で戦力が増したのはいいことだろう。

 あとは、俺がきっちりと、王都に迫っているという伯爵領軍と隣国の共同軍をどうにかするだけで終わり……だといいな。


「何やら余裕そうだが、何か策でもあるのか?」


 不意に声をかけられるが、誰だかは見るまでもない。

 それに、わき見移動は危険だ。


「アブさん。付いて来たんだな」


 それでもチラリと見れば、俺の隣で飛んでいる。

 本当に憑かれたんじゃないかと思ってしまう。


「当たり前だ! 某一人を残してどうする! 誰とも話すこともできず、オロオロするだけで終わり! あるいは、即死魔法を広範囲に放っていたぞ!」


「そんな堂々と言っていいような内容ではないな。何も言わなかったのは悪かったよ。ちょっと余裕がなかったようだ」


 余裕がないと視界の幅が狭まる。

 そうなると普段は取れる対応が取れなくなるため、失敗しやすい。

 その失敗が、取り返しがつかないような致命的なモノにならないとは限らないのだ。

 こういう時こそ、落ち着かないと。


「まあ、個人で軍隊を相手にしようとしている訳だからな。軍隊というのは某でも知っているぞ。何しろ、やろうと思えばスケルトンの軍隊を召喚することもできるからな。それなら、余裕がなくても仕方ない。だが、安心しろ。どれだけ数が居ようとも某が手伝って」


「いや、出る時にも言ったが、実際に経験があるから、そこは問題じゃない」


「……え? 本当にあるの? 安心させるための強気発言とかではなく?」


「ああ。本当にある」


「でも、アレだろ? 共に戦う仲間が居たとか、そういう感じの」


「いや、一人で敵陣深くに突っ込んで、味方が来るまでやり合ったな」


 正確には、軍隊というよりは、その中の数部隊と騎士団だけって感じだけど。

 普通はそんな相手どうしようもないけど……いやあ、無茶したな。


「嘘……ではなさそうだな。……そうか! ……そうだったのか」


 アブさんは骸骨なので表情はわからないが、それでも雰囲気でなんとなく察することはできる。

 無のグラノさんたちと接してきた経験によるモノかもしれない。

 それによると、なんとなくだが……同情的というか、仲間意識を持たれているような……。


「……いや、別に友達とか仲間は居るぞ。一人で敵陣に突っ込んだのも、俺は単独の方が動きやすかったというだけだからな」


 あの時は魔力操作がまだ甘い――大甘の時期だった。

 ……火属性はまだしも、光属性はまだ怪しいが。


「大丈夫だ、アルム。偽らなくていいのだ、アルムよ。もうこれからは某が付いている。某が共に居よう」


「いや、嘘じぇねぇから」


 勝手に仲間意識を持たないで欲しい。

 すると、アブさんは少しだけ考えたあと、閃く。


「そうか! ということは、その逆――これからは某にアルムが共に居てくれるということだな!」


「……まあ、そういうことになるな」


 別に涙は出ていないが、アブさんが目の部分に腕を持っていって泣き真似をする。

 きっと嬉し涙だろう。

 アブさんが泣いていないけど泣き終わって落ち着くまで待つ。

 それほど時間はかからずに、アブさんは落ち着きを取り戻した。


「……それで、これからどうするのだ? いくら経験があるとはいえ、相手は軍隊だろう?」


「大丈夫だ。策はある」


「策? ……皆殺しか? 手伝おうか? 即死魔法でコロッと簡単にできるが?」


「死を前提に話さないでくれ。それに、そんなつもりはない。というより、元々まともにやり合うつもりはない。足止めだけして戻るつもりだ」


「倒すのではないのか?」


「まさか。それに、倒すのはな……俺は元貴族仕えの執事見習いだったからな……わかるんだよ」


 わかる? 何が? とアブさんが首を傾げる。

 本当にわかっていないというか、アブさんは生まれてからダンジョンの外に出ていなかった訳だし、わからなくても仕方ない。


「別に、全員が全員、望んで戦いに来ている訳ではないってことさ。特に、あんなヤツが上に居るとなると、大部分は強制だろうな。だから、傷付けたくないんだよ。あんなヤツのせいで死んでしまうとか、嫌だろ」


「それは確かにそうだが……だが、今向かって来ているのはアレの領内で集められたのだけではなく、隣国の方も居るのだろう? そっちはどうするのだ?」


「纏めて柵の中に居てもらうつもりだから、関係ないかな。ただ、一つ心配なこともある」


 できれば違っていて欲しいが、こういうのは当たってそうで嫌だ。


貴族バカ貴族バカを呼ぶからな。アレと似たようなのが居たら、少しやり合うことになるかもしれない」


 それだけは避けたいが、ああいうのは何も考えずに命令してくることがある。

 居たら面倒だな、と思いつつ、アブさんと会話しながら進んでいくと、目的の軍隊を見つけた。

 大体、王都から数時間、といったところだろうか。

 思いのほか近くまで来ていたようだ。


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