聞かせたい言葉は多種多様にある
「降参しまーす!」
このまま戦うかどうかを聞いた瞬間、直ぐに反応したのが居た。
抵抗はしない、と両手を上げた「爆弓」である。
「却下だ。寧ろ敵で居ろ。でないとボコれない」
「いやいや、これでも彼我との戦力差くらいは読めるからね。『魔爪』と『氷嵐』を簡単に片付けるような相手となんて戦いたくないよ。いや~、あの時はまともにやり合おうとしなくて正解だったね」
「それじゃあ、今からやろうか」
「それは勘弁して欲しいな。だから言っちゃうけど、それなりに関わってきたから、そいつらの行いについてはそれなりに詳しいよ。なんだったら、『魔物超大発生』にだって協力する。これでもAランク冒険者だから、頼りになると思うよ? 戦力は多い方がいいだろうし、ね?」
事実なだけに、断りづらい。
馬鹿なヤツらを追い詰める情報は欲しいし、「魔物超大発生」に対して強い戦力は多い方がいいのは事実。
ただ、そんな「爆弓」の行動が許せないのが居る。
「き、貴様! 何を言っている! これまで優遇して使ってやっていたというのに裏切るのか!」
伯爵である。
「いや、そんなの当たり前でしょ。別に友達でもなんでもないんだし。あんたの方に付いたのは、金払いがよかっただけの、それだけの客でしかないんだから、あんたのために命を懸けようなんて、これっぽっちも思わないよ。僕はね、死ぬのも、死んだも同然なのも、嫌なんだよ。だから、そのために打てる手を打っているだけさ」
悪いね、と言いつつも、「爆弓」は悪気のない笑みを浮かべている。
こういうヤツだと思ったからこそ、一度ボコりたいと思ったのだ。
ただ、こういうのに限って、変に影響力があるのも事実。
「……それなら、俺も」
他のAランク冒険者たちが「爆弓」に続く。
口々に「家族が人質に」とか「『魔爪』、『氷嵐』に脅されて」とか、色々と理由を語った。
伯爵は、まさか裏切られるとは! と驚いているが、そんな当たり前のことで驚かれても困る。
「こ、殺せっ! こいつらを殺せ!」
伯爵が兵士たちに命令を飛ばすが、兵士たちは動かない――というか、Aランク冒険者たちと同じように理由を語り、Aランク冒険者たちと共に、俺に擁護して欲しそうな視線を向けてくるが、どうするかを決めるのはそもそも俺ではない。
どうします? とクラウさんを見る。
クラウさんは迷うことなく一つ頷く。
「今は緊急事態だ。大人しく協力するというのであれば、情状酌量の余地は約束しよう。ただし、今は監視を付けさせてもらうぞ」
それくらいはわかっている、と「爆弓」とAランク冒険者たちは受け入れる。
「ふざけるな! 貴様ら! そのようなことをして、ただで済むと思っているのか!」
伯爵が怒り出すが、それはお前の方だ。
「ガーガーうるさい。文句があるならお前自身がかかってこい」
竜杖の先を伯爵に向けてそう言うと伯爵は黙り、大量の汗を掻き、あ……う……と視線を彷徨わせる。
「……なんだ? かかってこないのか?」
「う、うるさい! わ、私は貴様のような野蛮な者と違って繊細なのだ!」
とてもではないが繊細には見えない。
伯爵はギルドマスターの背に隠れ、慌てるギルドマスターを盾のように前に突き出す。
「こ、こいつを殺れ! ギルドマスターだろう!」
「む、無茶言わないでください! 自分に戦闘なんて無理ですよ!」
伯爵とギルドマスターが揉め始める。
なんというか、醜い争い――という言葉がピッタリだ。
すると、伯爵が妙案を思い付いたとばかりに、俺に向かって口を開く。
「そ、そうだ! 貴様、私の方に付かないか? 金も女も自由に――」
言い切る前に、竜杖を前に突き出す。
といっても、当てていない。
そのつもりもない。
伯爵とギルドマスターの顔の横を通り抜けるようにして、前に突き出しただけ。
多少頬をかすっていても、まあ、別に気にしなくてもいいだろう。
「もう黙れ。お前……お前らをまだ生かしているのは、すべてが終わったあと、クラウさんから『ざまーみろ』という言葉を聞かせるためだけだ」
「ああ、いいな。それは。是非とも言わせてもらうよ。それまでは生かしておいてやる。捕らえろ」
クラウさんの命令で、伯爵とギルドマスターは捕らえられた。
といっても、今まさに起こっている問題に比べれば、本当に些細なことだ。
「魔物超大発生」と「隣国と伯爵領軍の共同軍の侵攻」。
どちらももう間近に起こることであり、両方に割けるだけの戦力は、今この王都にはない。
それに、既に「魔物超大発生」に向けての準備は終えているのだ。
なら、俺が取るべき行動は一つ。
「クラウさん。軍隊の方は俺に任せてくれていい。『魔物超大発生』の方は任せた」
「いや、任せたって――大丈夫、なんだな?」
俺が余裕そうに見えるからか、何かしらの策があると思ったのだろう。
クラウさんの問いに頷いて答える。
「問題ない。軍隊相手は既に経験済みだ」
フォーマンス王国で。
「わかった。頼らせてもらう」
「任せろ。ただ、その前に一つ。どの方角から軍隊は来るんだ?」
さすがに他国の地理には詳しくないので、伯爵領から来ていると言われてもわからない。
方角を教えてもらい、王城のベランダから竜杖に乗って飛び出した。




