痛いとわかっていれば覚悟が必要になる
Aランク冒険者たちの登場で、場が騒然となる。
気圧されている、といった雰囲気だ。
そんな中、「魔爪」と呼ばれる男性が高笑いを上げる。
「はっはっはっ! おいおい、何をちんたらしていやがる。まだここに居る連中を殺っていなかったのか?」
「あなたこそ、何を言っているのですか。ここに居る者たちを見ればわかるでしょう? 私たち、Aランク冒険者という最強戦力を待っていたのですよ。一応、向こうにもそれらしいのが居ますからね」
「魔爪」の言葉に答えたのは、「氷嵐」と呼ばれる男性。
「氷嵐」が視線を向けるのは、ジーナさんたち「煌々明媚」。
「まっ、といってもそれらしいだけで、同じAランクであろうとも、私たちと比べると劣りますがね」
「何をぉ!」
怒り心頭のジーナさんが前に出ようとするが、「煌々明媚」のサラさんたちが必死にとめるが、「氷嵐」に気にした様子はない。
「それに、ここには協力者だって居るのです。全員は駄目ですよ」
「関係ねえよ。従順なら生かしてやってもいいが、邪魔するなら殺すだけだ。その方が簡単でいいだろ?」
「魔爪」の言葉に、やれやれ、と肩をすくめる「氷嵐」。
大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせるクラウさん。
「……たとえAランクであろうとも、行おうとしているのは国家叛逆だ。それは理解しているのだろうな?」
「はあ? だからなんだ。それに、国家叛逆だなんて言っているが、それは失敗すれば、だろ。この俺様が居る限り、それはねえよ」
「そちらこそ、国を持ち出して私たちを抑え付けられるとでも? 冒険者の血筋ならわかるでしょう? そのようなモノには屈しない、と」
どこまでも強気な発言である。
「爆弓」が、ほんと手に負えないよね、と言わんばかりに頭を振っていた。
お前はどっちの味方なんだと言いたい。
「陛下! この者たちは敵として現れたAランク冒険者だ! 隙を見せればやられるのはこちら! 『魔物超大発生』ももう始まってもおかしくなく、隣国の軍も来ている以上、いつまでもこの者たちに構っている余裕はない! 早々に排除しなければ、被害は大きくなるだけ!」
騎士団長のカヴァリさんが剣を抜き、身構える。
「いやはや、さすがは騎士団長! このような状況でも勝利することができると思うとは。その精神だけは立派ですな。ですが、時には現実というモノを理解するべきですよ。確かに、数ではそちらがまだ上ですが、時に質は量を上回るのです」
それくらいのことは理解していて欲しいですな、と伯爵が高笑いを上げる。
ならばやってやる、と騎士団長のカヴァリさんだけではなく、こちら側が一斉に動こうとする――その前に、俺が前に出た。
ゆっくりと歩を進め、少し距離を開けて対峙するような位置でとまる。
「貴様は」
「お前は黙ってろ、雑魚」
伯爵が何か言いそうだったので、先に黙らせておく。
俺の物言いに、下賤な者が貴族に、王にそのような態度を、とか、なんか癇癪を起こし始めるが無視。
まともに相手するだけ頭が痛くなるだけだ。
俺はAランク冒険者たち――その中で明らかに他のとは事情が違うであろう「魔爪」と「氷嵐」に視線を向ける。
「一つ、聞きたいんだが、どうしてそんなヤツの味方をする? 他のは、まあなんらかの事情で強制されているような感じだが、お前たちは明らかに違うよな。そいつに国なんて任せたら、明らかに悪くなるとわかっているのに、どうして協力する? ここは冒険者の国と呼ばれている。それが、貴族の国なんて呼ばれるようになるかもしれないのに。冒険者だろ? お前たち」
「誰だ、お前? そんなに死にたいなら、お前から殺してやるよ。それが理由だ。俺は、俺が最強であると証明するだけだ」
「貴族の国。素晴らしいではないですか。貴族になる者にとっては、特にね」
ああ、なるほど。
どっちも己の欲望を満たすためか。
それも、どっちも下らない理由で。
「よくわかった。なら、邪魔だ。こっちはこれから色々と忙しいんでな」
「なら、死ね!」
「魔爪」が襲いかかってくる。
その速度は、端から見ればそれこそ目にもとまらぬ、だろう。
けれど、俺はもう覚悟はできている。
死ぬ覚悟、ではない。
明日の筋肉痛が酷いことになるだろう、という覚悟、だ。
既に、俺は身体強化魔法を体全体に増し増しで発動している。
「魔爪」の動きも、今の俺からすれば酷く緩慢だ。
「お前がな」
俺を引き裂こうとする禍々しい爪に対して、強化された力任せに竜杖を振って砕き散らせ、そのまま両腕を叩き折る――ついでに、馬鹿正直に迫ったままの「魔爪」の顔面にかかと落としを食らわせ、そのまま床にめり込ませる。
「そんな様では、最強とは証明できないな」
気を失っているようなので、聞こえているかはわからない。
「『透固 乱れ裂き 幾重に穿つ 嵐が如く 氷嵐』」
いくつもの氷の礫が俺に向かって飛んでくる。
呼び名通りの魔法の使い手のようだ。
「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球』」
普通は手のひらで持てる程度の大きさの火の玉を放つ魔法だが、今の俺は魔力増し増しである。
人の半分はありそうな巨大な火の玉が「氷嵐」に向けて放たれた。
いくつもある氷の礫は――障害にすらならない。
当たった瞬間に蒸発するように消えていき、それは「氷嵐」が魔法の威力を強めても同じ。
「ば、馬鹿なぁ!」
そんな叫びを上げた「氷嵐」に巨大な火の玉がぶつかり、ぼう! と一瞬で燃え消える。
熱量が高過ぎたのかもしれない。
あとに残ったのは、上半身部分のローブが燃え付き、焦げた肌を露出させた、丸坊主の「氷嵐」。
……自慢にしていそうな髪がすべて燃えてしまったのだ。
安心しろ――というのも変だが、もっと奇抜な髪型のヤツらも居るから、気にしなくてもいいだろう。
「げふっ」
「氷嵐」が黒い煙を吐いて倒れた。
俺は「爆弓」を含めた残りのAランク冒険者たちに視線を向ける。
「さて、俺としては別にやってもいいが、あんたたちはどうする? やるか?」
俺はできるだけ酷薄に見えるように笑みを浮かべる。
実際のところ、そんなに時間がないので相手されると面倒なのだが……どうだろう?




