オロオロする時は大抵想定外
日が経ち、「魔物超大発生」が起こる日がやってくる。
それまでの間に、トゥーラ国はできる限りのことを行った。
ダンジョン入口を囲う壁付近は完全に撤去され、門から魔物が出て来たり、もしもの可能性で壁を越えられたとしても広く戦えるようになっている。
というのも、アブさん曰く、そもそも結界を強化しても乗り切るのは難しく、結局は問題の先送り――次回持ち越しにしかならず、さらに手に負えなくなるのだ。
なので、この国が選んだ方法は、掃討。
といっても、一気に総力戦で戦うのではなく、結界はミスリル鉱石(極大)で強固にするが、その一部――門のところは開けたままにし、そこから魔物が出てくるようにする。
その出て来た魔物を、待ち構えている合同部隊で随時討伐していく――という流れだ。
向こうの数が多いなら、その利をなくさせればいい、という考えである。
時間はかかるが、できるだけ被害を出さない手法だと思うし、アブさんもそれくらいなら結界ももつ……かもしれないそうだ。
どのみち油断はできないってことに変わりはないが。
まあ、合同部隊も民間からの参加者がすごく多いので、大丈夫だと思う。
残念なのは、時間が足りず、国内から戦力を集められなかったことか。
近隣から多少は集まったが、ほぼ王都内だけの戦力でやらなければならない。
それでも大きな戦力だと俺は思う。
そんな中、俺とアブさんは個別に動くことが認められたというか、基本俺の魔法は大規模魔法なので、いざという時の切り札的位置付けらしい。
切り札……悪くない。
そうして、ダンジョンから冒険者を全員出して無人にし、あとは合同部隊が配置に着けば、というところで王城から呼び出しを受ける。
クラウさんから、緊急だ、と。
アブさんと共に王城に向かい、謁見の間で会う。
これから国の一大事ではあるが、クラウさんだけではなく、宰相のリヒターさん、騎士団長のカヴァリさん、貴族たちだけではなく、シャッツさんと商業ギルド関係者、リユウさんと冒険者ギルド関係者、それに「煌々明媚」も居た。
よく見れば、冒険者ギルド関係者の中に、この国に来て最初にお世話になった「堅牢なる鋼」の姿もあった。
ネウさんの姿はないので、現場の方かもしれない。
これだけの人が居ると、ちょっと場違い感がある。
部屋間違えたかな? と思っていると、クラウさんにこっちに来いと呼ばれたので向かう。
「……えっと、これはどういう?」
「緊急で呼び出して済まない。実はな、エフアト伯爵がこの国の命運を決する重大な情報がある、と言い始めたのだ」
えっと……伯爵?
ああ、ギルドマスターの裏に居たっていう貴族か。
……あれがそんな重要そうなことを知っているようには見えないが。
「その顔はよくわかる。だが、妙に真剣であり、余に直接でなければ言わない、と。それで、仕方ないから聞くことにしたのだ」
「こんな大勢で?」
「いや、これはたんに『魔物超大発生』への最終調整を行っていただけだ。ここでしか時間が取れなかったからな」
「俺を呼んだのは?」
「念のためだ。それと、もしそれが真実であり、ダンジョンが関係しているのなら、知恵を借りたくてな」
ああ、アブさんね。
まだ一人で行動できなから仕方ない。
今も半透明で謁見の間の天井付近に居る。
思ったよりも多くの人が居たため、オロオロしている。
「わかった」
頷くと共に、件の人物が縛られたまま、兵士たちに連行されながら入ってくる。
ギルドマスターも共に居た。
謁見の間入って直ぐの辺りで、二人は跪いた。
「これは王よ。このような場でこうして面と向かって話せる機会を与えていただき、ありがとうございます」
クラウさんが口を開く前に、え……あ……もういいや。伯爵はそう言って恭しく頭を深く下げる。
どこか、こちらを馬鹿にしているような、そんな風に見えた。
「……それで、エフアト伯爵。いや、元伯爵と言うべきか。貴様が望んだようにこうして余がここに居る。国の命運を決するという情報を早々に話せ。今は事態が事態だからな。謀りや時間を稼ぐといった行動を取れば、貴様の死期は今この時だと思え」
「おお、恐ろしい。そして、なんとも忍耐の足らない浅慮な言葉ですな」
クラウさんが殺れという合図を送るために手を上げようとするが、その前に伯爵が口を開く。
「そう結論を急がなくとも話しますとも。なんてことはございません。この国の命運を決する情報とは、この国が終わりを迎えるということですよ」
伯爵の発言にザワザワと場が騒然とする。
言い方というか声の調子に、どこか確信しているようなモノを感じ取れたからだ。
クラウさんが冷たい目で伯爵を見る。
「……エフアト元伯爵。貴様は随分と夢想家のようだな。国が終わるなど、起こりもしないことを口にするとは」
「起こりもしないと断ずる辺り、やはり浅慮ですな。事実ですよ、王よ。この国の終わり――つまり、あなたの終わりなのです。これから、冒険者などという下賤な血統の、野蛮な王の最期が訪れるのです」
クラウさんに向けて、伯爵が醜悪な笑みを浮かべた。




