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賢者巡礼  作者: ナハァト
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忙し過ぎるとバグるよね

魔物超大発生ハイ・スタンピード」が七日後に起こるという情報は、直ぐに王都内に広がった。

 その情報源となるアブさんに関しては、あの場に居る人たちだけの秘密である。

 まあ、ダンジョンマスターが外に居るなんて、明かせる訳もないし、信じる方が難しいだろう。

 そうして、相当危険な規模であるということも含めて、クラウさんはできる限りの情報を公開して、騎士、兵士、冒険者の三種による合同部隊が組まれることや、被害をなるべく抑えるための結界の強化が行われることも同時に伝えられる。

 大きな危険なのはそれで伝わったと思うのが、思いのほか逃げ出す――王都から出て行こうとする人は少なかった。

 ここが故郷ということや、クラウさんたちを信じているというのもあるが、ここは冒険者の国の王都であり、住民の大半が元冒険者とか元騎士、兵士が多く、なんだったら手伝うと合同部隊への参加を望む人たちが多いそうだ。

 血気盛んである。

 それと、内々に知られたが、ギルドマスターとなんとか伯爵、その他関わっている者に関しては、「魔物超大発生」が片付いてから、ということになった。

 当然というか、正直それどころではない、というのがただしいだろう。

 一応、捕らえてはいるそうなので、後回しとなっている。

 という訳で……七日後までは特にやることがない。

 以前「堅牢なる鋼」にオススメされた、値段の割に美味しい食事を出してくれる宿を再び利用することにして、アブさんに外を見せたり、ラビンさんの本でも読んで、その時までも待っていようかな、と思っていたのだが――二日後。朝。

 リユウさんから言伝が送られてきて、お昼頃に一人の女性を伴ったリユウさんと会う。

 女性は、青い長髪を後ろで一つに纏めた、整った顔立ちの……多分十代後半くらいで、体付きはどちらかと言えばスレンダー。

 胸や肘、膝などに鎧をあてがった軽装で、腰から長剣を提げ、動き重視といった感じである。


「……えっと」


 思わず言葉に詰まってしまう。

 リユウさんが一人で来ると思っていたからだ。

 なのに、女性を伴って……まさか!


「その目……何を思っているのかわかるな。だから否定しておく。違う。私はジーナ一筋だ。ジーナだけを愛している。ジーナの居ない人生など……耐えられない」


 リユウさんが少しおかしくなった。

「魔物超大発生」への対処で忙しいのかもしれない。


「ああ……ジーナ成分が足りないぃ!」


 俺が思う以上に忙しいのかもしれない。

 ご苦労様です。

 それなら連れてくればいいのに、と思うが、まあジーナさんは冒険者。

 リユウさんと同じく、色々とやることがあるのだろう。


「それで、そちらは?」


「お願いされていた人物だよ。紹介すると約束しただろう?」


 それで思い出す。

 食事した時、火のヒストさんが居た「暁の刃」について――正確には、その後の「蒼空の剣」について詳しい人を紹介してくれることになっていたことを。


「まあ、どたばたしたからね。忘れても仕方ない。彼女の名は『ネウ』。ソロのBランク冒険者で、Aランク冒険者と比べても遜色ないだけの実力を持っている、将来有望な冒険者の一人。そして、英雄冒険者パーティ『蒼空の剣』に所属していたソウマとキアの来孫だ」


 ………………。

 ………………。

 そうきたか、というのが内心だった。

 大きく息を吐いて、笑みを浮かべる。


「それなら確かに……期待できそうだな」


「ネウでいいわ。それで、『蒼空の剣』について聞きたいそうだけど、何が知りたいの?」


 女性――ネウさんが少しだけムッとしている。

 多分、これまで何度も同じ質問をされてきたんだろう。


「全部……といきたいが、そっちも色々と予定があるだろう?」


「そうね。今は特に『魔物超大発生』への準備に忙しいから」


「だから、まずは簡潔でいいから『蒼空の剣』について教えてくれないか? 何も知らないんだ。ただ、『魔物超大発生』が終わったら、改めて話を聞かせて欲しい」


「驚いた。『魔物超大発生』に対する不安がない。心の底から乗り切れると思っているようね」


「まっ、これだけ多くの人が動いているからな。どうにかなると思っているだけだ。それより」


「ええ、それでいいわよ」


 そして、簡潔にだが「蒼空の剣」について知る。

 といっても、その内容は結局のところ冒険者パーティとして、それなりに活躍していたようなモノで、俺にとって無意味だった。

 ネウさんが言うには、この王都の住民なら誰しもが知っているようなこと。

 それでも、気になることがあった。

 およそ百年前――ここのダンジョンで「魔物大発生スタンピード」が起ころうとしたが、それが不発のような形で終わったのは結界によって防がれたのは、アブさんから聞いた話。

 結界の核となるのがミスリル鉱石(大)だったそうで――王家がミスリル鉱石(極大)を求めたのも、前例があったからである。

 以前の「魔物大発生」の時にミスリル鉱石を持ち運んだのが、「蒼空の剣」なのだ。

 その出来事により、「蒼空の剣」は英雄冒険者パーティと呼ばれるようになる。

 同時に、それは転機だった。


「暁の刃」から「蒼空の剣」となる――五人組パーティが、四人組パーティとなる……転機であった。


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