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賢者巡礼  作者: ナハァト
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要は生理現象のようなモノってこと?

 場が騒然となる。

 俺とアブさん以外の全員が真剣な表情で何やら話し合い始めた。


「……どういうことだ?」


 とりあえず言うことは言ったと、のんびり様子というか、クラウさんがどう動くかを見ている――ように見えるアブさんに尋ねた。

 いや、「魔物大発生スタンピード」はわかる。

 アレだろ。魔物がぐわーっとたくさん出てくるヤツ。


「なんか、わかっているのか、実はわかっていないのか、よくわからない表情だな。一から説明した方がいいか?」


「いや、大丈夫だ。要は魔物が大量に現れてかなり危機的状況ってことだろ。それをアブさんが言うってことは、あのダンジョンから魔物が溢れ出るってことか?」


「うむ。ダンジョンというのは、様々な要因から自分の力とする糧を得ている。それこそ、人が中に居るだけでも本当に微々たる――当人に影響はまったくないくらいの極小だが、糧を得ているのだ。だから、人が多く入るダンジョンは潤い、逆に人が入らないダンジョンは廃れていく。廃れていけばダンジョンはその存在を維持することはできず、結末は何もなかったかのように消滅するだけ。それこそ、人知れず、な」


「そういうダンジョンもあるってことか」


「そうそう。それで、ダンジョンが蓄えられる糧の量には限界がある。ダンジョンとしての規模によってその量は変わるが、いつまでも蓄えられることはできないため、許容量を超えた状態がしばらく続くと放出を行う」


「それが?」


「そう。それが、ダンジョンの『魔物大発生スタンピード』である。ある種の自然現象のようなモノであるため、某――ダンジョンマスターでもとめることはできない。といっても、早々起こることではないのは確かだ。得た糧の大半は基本的にダンジョンの維持に使われるからな」


「なるほど」


「ただ、今回の場合はな……」


 アブさんが唸るように言葉に詰まる。


「今回の場合? 何かあるのか?」


「思っていたよりも早く来たという感じだが、気になるのはそこではない。以前にも『魔物大発生スタンピード』は起ころうとしていた。確か、百年くらい前か。だが、起こらなかった。いや、正確には起こったが想定よりも消費が少なかった――規模が小さかったのかと思ったが――それは、外に出てわかった」


「というと?」


「ここはダンジョン入口に、ダンジョンの魔物が外に出ないように特殊な結界が張られている」


「は?」


 いや、お前こうして出ているが? と無言でアブさんを指差す。

 アブさんは造作もない、と肩をすくめる。


「まっ、某ほどであれば、結界を抜けるなど余裕よ。伊達ではないということだよ。『絶対的アブソリュート・デス』は」


 いや、結界と「絶対的な死」は関係ないと思うが。

 まあ、わざわざそこを付いて、今この状況で――この国の重鎮が居る場で死属性を放たれる訳にはいかない。

 そうだな、と頷いておく。


「ともかく、前回はその結界に阻まれて、そのまま魔物は糧としてダンジョンに吸収されたのだろう。全部という訳ではないが、大半が吸収されて消費が少なかった、と考えると合点がいく。そうなると、そちら側には大きな問題となる」


「どういうことだ?」


「単純な話。実際に始まってみないとどれだけの規模かはわからないが、まず間違いなく前回発生しようとした分も今回に含まれている。言うなれば、『魔物大発生スタンピード』ではなく、『魔物超大発生ハイ・スタンピード』だ」


 なるほど、と頷いていると、クラウさんたちがいつの間にかこちらの話を聞いていることに気付く。

 そして、クラウさんが神妙な表情でアブさんに尋ねる。


「アブ殿、でいいかな?」


「構わんよ。それで、何か?」


「七日後、というのは間違いなく?」


「間違いない。このままでいけば、陽がもっとも高くなる頃に発生するだろう」


「そうか。規模が通常よりも大きいらしいが、今の結界で耐えられるレベルだろうか?」


 アブさんは首を横に振る。


「無理だな。それがわかっているからこそ、ミスリル鉱石(極大)で結界の強化を図ろうとしたのではないのか?」


「そうだ。ただ、話を聞く限り、それは問題を先送りにすることにしかならないようだな。しかも、より大きくなって……。やり方を見直す必要があるな。ちなみにだが、強化した結界なら防ぐこと自体は可能だろうか?」


「ふむ……実際の規模がどれだけになっているかは某にもわからないが、防ぎきれないだろうな。時間の問題で砕けるだろう」


「そうか。となると、こちらからも積極的に出る必要性がある訳か」


 クラウさんたちは再び話し合いを始めるのだが、その前にリユウさんから声をかけられる。


「キミの強さはジーナや『煌々明媚』、シャッツから聞いている。冒険者ギルドの者として今はお願いしかできないが、力を貸してもらえないだろうか?」


「ああ、力を貸そう」


 火のヒストさんの故郷である国をなくす訳にはいかないので了承する。


「某も協力しよう」


 ふん! と胸を張るアブさん。

 その姿を見て、思わず言う。


「その心は?」


「頼み事をしたいから、ここがなくなってもらっては困るのだ! ダンジョン的にも!」


 何やら下心アリ、か。

 ダンジョン的にもは、廃れないために、ということだろう。

 ただ、今は話し合いに真剣だし、これから「魔物超大発生」で忙しくなるため、アブさんの頼み事の話はまた後日となった。


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