外す外さないではなく、やった勇気を認めよう
「それで、地下七階は」
「ま、待ってくれ」
時間潰しにダンジョン地下七階について話そうとしたが、クラウさんにとめられる。
「どうかしたか?」
「い、いや、その、確認したいのだが、それはダンジョン地下七階について、だよな?」
「ええ」
「嘘でもなんでもなく?」
「ええ、実際に行ったから……といっても、変則的な方法だったのは間違いないが」
「変則的?」
アブさんはまだ時間がかかりそうなので、少し丁寧に話していく。
それでも、シャッツさんとリユウさんも含めて、クラウさんたちの困惑は拭えない。
やはり、空、というのが問題なのだ。
ただ、さすがは冒険者の国と呼ばれるだけはあるのか、直ぐに受け入れ、対策を練り始める――が、やはりそう簡単には解決しない。
まあ、その前の海の攻略もまだだしな。
俺が特殊なのは事実であるし、ある程度の者が行けるようになって、初めて攻略した、と言えるのかもしれない。
地下七階だけではなく地下六階に関しても質問されるので、わかる範囲で時には推測も交えて答えていく。
ただ、これでいい。
時間は稼げた。
そして、遂にその時がくる。
アブさんが、落ち着きを取り戻して、大丈夫だと頷いた。
「では、この話は一旦終えて本題に入る」
「地下七階――ダンジョン踏破記録更新が本題ではなく?」
リユウさんの質問に、そうだと頷く。
「俺は、地下八階まで下りている」
全員、目を見開く。
予想はしていたかもしれないが、実際に聞くとやはり驚くのだろう。
「そこにあったのは大きな神殿。それと、死霊系のダンジョンマスターが居た。エルダーリッチよりも上の存在と進化していたのだが、まあ本人は気さくというか、長く一人で居過ぎたため色々と拗らせてしまったというか」
ぺしん! と後頭部が軽く叩かれる。
思わずアブさんを見て睨んでします。
余計なことは言わなくていいと目線で訴えてきたので、場を和ませてやっているんだろうが、と強く睨む。
すると――。
「な、なんだ、その反応は……まるでそこに何かが居ると……待てよ。ダンジョンマスターが、居た? ……ま、まさか」
クラウさんがそう言い、全員が気付いたところで、俺は頷く。
「ええ、まあ、なんと言えばいいか、面倒なのに憑りつかれている、というのが正解だろうか? そのダンジョンマスターは、今俺と行動を共にしている」
瞬間――リユウさん、クラウさん、騎士団長のカヴァリさんが戦闘態勢を取り、シャッツさんと宰相のリヒターさんはいつでも動ける姿勢を取った。
それに反応して、アブさんもやるか? と拳を握る。
まあ、こうなるよな。
というか、アブさんは骨だし、どう見ても格闘で負ける側だと思うんだが。
全員を宥めるように、まあまあと手を動かす。
「大丈夫。敵ではない、と言うのも変かもしれないが、少なくとも友好的だ。それに、この場を要請したのも、ミスリル鉱石(極大)を用意してくれたのも、そいつなんだ。とりあえず、何か話があるようだから、それだけでも聞いて欲しい。もしもの時は俺が責任をもって昇天させるから」
とりあえず、光属性最大級をぶつければいけると思う。
周囲の状況を無視すれば、だけど。
ただ、俺をある程度信頼してくれているのか、シャッツさんとリユウさんがそう言うのならと座り直し、その二人がそうするのならと、クラウさんたちも同じように座り直してくれた。
警戒はされているが、まあそれは仕方ない。
「いいぞ」
合図と共に、半透明だったアブさんが、俺の頭上でその姿をくっきりとさせる。
「はい、どうも~! ダンジョンマスターで絶対的な死――略してアブで~す!」
下手で拍手しながら、最後にキリッとしたポーズを取るアブさん。
『………………』
場に沈黙が流れる。
意表を突かれているのではない。
いや、ある意味意表だが、実際は外しただけだ。
「………………いや! いやいやいやいや! 待って待って! 恥ずい! 恥ずかしい! いたたまれない! なんかこう、心臓が痛い! いや、ないけどね!」
『………………』
「これも外した! 無理! もう無理! ちょ、アルム! どうしたらいい、これ! この空気! 変えて! お願いだから変えて! 入れ替えて! 暖かい空気を! 心が穏やかになる空気をください! なんだったら、死霊系らしく生暖かい空気でもいいから!」
「いや、そんな無理難題を俺に押し付けるな。そもそも、そういうことをするなら事前に言っておけよ。昇天させてでも絶対とめるから」
「それ死んでる! いや、もう死んでいるようなモノだけど、死んじゃう! というか、とめると思ったから、あえて何も言わなかっただけだから! でもこうなるなんて……やり直し! やり直しを要求する! 先ほどのはなかったことに!」
「できないな。もう全員の記憶に刻まれている。完全なる自業自得の消せない過去だ。俺に頼るな」
「いやいや、某たち、友達でしょ! なら」
「え?」
「え? 何その目……あっ、わかった。友達ではなく親友ってことね。それとも、心の友の方の心友、かな」
「いや、顔見知りだ」
「ええ、それはそれで寂しいというか……」
「……はあ。なら、友達で」
「そうだよね!」
パアア! と顔がどこか輝いているように見えるアブさん。
「……まあ、とりあえず、この人? 方? は友達のアルムにすべて任せた方が良さそうだな」
クラウさんの言葉に、俺を除く全員が頷く。
そう言われると……というか、アブさんも力強く頷かない。
……アブさん、今後自立できるのだろうか?
ただ、これで一旦場が落ち着き、話が前に進む。
「それで……ダンジョンマスターが、どうしてここに? 本題、というのは?」
クラウさんが軽食をつまみ、飲料として用意されていた紅茶に口を付ける。
それは落ち着き過ぎでは?
「うむ。色々と動いているようだが、魔物大発生があと七日ほどで発生するから、間に合うのかな? と」
「ぶーーーーー!」
クラウさんが吹いた。
丁度真正面に座っていたのが俺だったので、危うく飛沫を浴びるところだったが、椅子から転げ落ちるように回避した。
「馬鹿な! もう七日しかないのか!」
クラウさんは驚いているが「もう」ということは、何かが起こると知っていたような感じだ。
いや、俺以外は知っているようで、みんな表情が強張っている。
というか、クラウさんはまず俺に謝って欲しい。




