表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
10/614

どれを重視しますか?

 魔法の利便性を聞き、俺の中で使いたいという欲求が生まれる。


「でも、使いたいと答えて直ぐ使えるようなモノではないと思うが?」


 もしそうなら、俺のような魂が欠けた存在――魔力なしは稀であるし、もっと世の中には魔法が溢れているはずだ。

 けれど、実際はそこまで溢れている訳ではない。

 魔法を使う者を探せばそこらに居るという訳ではないし、魔力を糧として動く魔道具はあるが魔法とは違うことくらいはわかる。


「いや、魔法自体はそう難しいモノではないのじゃ。魔力があれば、小さな火を点けたり、周囲を僅かながら照らす光の玉くらいはできる」


「そうなのか? でも……」


「もしそうでないのなら、どこかで習得方法が失伝したのじゃろう。魔法を扱う者として、嘆かわしいが」


「そうなのか。戦闘で魔法を使う者は居るが、それが使う魔法とは違うのか?」


「大きな括りで言えばどちらも魔法じゃが、敢えて分けるのであれば、戦闘魔法と生活魔法といったところかの。そこら辺の区分は説明が面倒じゃし、人によって解釈は違うじゃろうから、とりあえず、魔力を使って様々な事象を起こすのが魔法、という認識で構わん」


「なるほど」


 最後の認識だけは理解できた。


「それで、俺はその魔法をどうすれば使えるようになるんだ?」


 結局のところ、俺に魔法を使うために必要な魔力がないのだから。


「うむ。『継承の儀式』を受ければ魔法を使えるようになるじゃろう」


 真剣な雰囲気の無のグラノさん。

 俺は首を傾げる。


「『継承の儀式』?」


「そうじゃ。やり方を説明しても難解なだけだからの。結果から言えば、魔法を使うためにワシらの魔力を、魔法の使い方を知るためにワシらの記憶を、お主に受け継がせるのじゃ」


「……魔力と記憶を受け継ぐ」


 俺が? というか――。


「……できるのか? そんなことが?」


「本来なら不可能なことじゃ。細かく細分化すれば多くの属性が存在しているが、魔法の基本属性は火。水。風。土。光。闇。無。の七属性。生活魔法ならまだしも、この基本七系統の戦闘魔法はその属性スキルが必要など、色々と条件があるのじゃが、お主はそこらが問題にならないスキルを所持しておる」


「……『全属性』」


 無のグラノさんが、正解と頷く。


「お主なら、ワシら全員分の力を受け継ぐことができる」


 無のグラノさんの言葉を受けて、先ほどの言葉と自己紹介された時のことを思い出す。

 魔法の七属性――火。水。風。土。光。闇。無。

 七属性が勢揃いしている。

 思わず周囲を見れば、火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさんが、その通りだと頷く。

 女性陣は――。


「どうやら、継承の儀式の前に決着をつける時がきたようね。いいことを教えてあげるわ。ウチは、洗濯が得意よ」


「結果は見るまでも、語るまでもありません。私の勝利です。何しろ、私は料理が得意ですから」


「……二人とも勝利の幻想は捨てるべき。エルフこそが至高。ちなみに、ワタシは掃除が大得意」


 まだバチバチと火花を散らしている。

 争いは……終わっていない。

 こういうのは時間がかかるのかもしれない。

 少なくとも、安易な気持ちで触れては、関わってはいけない気がする。

 何故なら、スケルトンの男性陣がやめておけと、相手を気遣う優しい雰囲気で首を横に振っているからだ。

 ただ、見ていて、なんか受け継いでも大丈夫だろうか? と不安になる光景だが。


「だ、大丈夫じゃから! これは全員の総意……そう! 前から全員で考えていたことじゃから!」


 無のグラノさんを筆頭に、男性陣から必死に説得された。

 大丈夫。大丈夫。


「俺が受け継いだとして、気になることがある」


「なんじゃ? 何が気になる」


「魔力と記憶を受け継いだら、あんたたちはどうなるんだ?」


 俺の問いに、無のグラノさんが笑みを浮かべた……ような気がした。


「ワシらの身を心配してくれるのか。ありがとう。しかし、それは無用じゃ。そうじゃの。ワシらの今の状態も説明しておこう。今のワシらはこのダンジョンの庇護を受けたスケルトンなのじゃ」


「ダンジョンの庇護を受けたスケルトン?」


「そうじゃ。言ってみれば、人からスケルトンに転生したようなモノ。そのおかげで、こうして生き長らえることができておる。ただし、なんの代償もない訳ではない。このダンジョンからは出られない体になったことと、魔力やこれまでの記憶、経験は残ったが、人の身で得たスキルの影響を失ったということ。人の体から魔物の体になった影響じゃろう」


「スキルを……それって、さっき言っていたよな? 戦闘魔法には属性スキルが必要だと」


「その通りじゃ。今、ワシらは魔力があろうとも、戦闘魔法の行使はできない。よって、ワシらにとっては、魔力はもう必要ないモノなのじゃよ。それをお主に受け取ってもらいたいのじゃ」


 そういうことなら……と思わなくもないが、まだ話は終わっていない。


「記憶の方は、大丈夫なのか?」


「うむ。魔力は譲渡じゃが、記憶の方は反映。お主に見せて憶えてもらうだけじゃから問題ない。ただ、魔力とその使い方を教える代わりに、お主にはやってもらいたいことがある」


「やってもらいたいこと?」


 なんだろうか?

 無のグラノさんたちから神妙な雰囲気が感じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ