プロローグ
どうも、こんにちは。ナハァトです。
コメディ色の強いのを書きたくなり、そういえば魔法系の主人公最強を書いたことないな、という思いから書き始めました。
楽しんで、少しでも笑っていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
夢を見ていた。
いや、これは夢じゃない。
これまでの思い出……記憶だ。
―――
世界には、スキルと呼ばれる超常の力が存在する。
いや、それは謳い文句でしかなく、実際はその中でも確かな格差が存在しているのが実情だ。
超常なのは、ほんの一握り。
スキル自体は誰しもが持ち得るモノで、天性、才能と言い換えてもいい。
後天的に努力で手に入れる場合もあるが、最初に手にする――発現するのは十五歳以上からと言われている。
偉い学者さんによると、スキルの力に耐えられる体となるのが、その頃らしい。
だから、大抵の場合は十五歳になると己を知ることになる。
正確には、自分に宿ったスキルを――。
―――
フォーマンス王国はスキル至上主義である。
それも徹底的なまでの……有用かどうかで優遇される差が激しい。
それこそ、無用なモノ、そう判断されたモノは、まともに扱われるかどうかも怪しいレベルである。
そんな国に、俺は生まれた。
とある貴族家に使える使用人の息子として。
名は「アルム」。
灰色の髪に、痩せ型の体型――それが俺だ。
母はそこのメイドで、物心がつく前に他界した父はそこの執事だった。
物心がつく頃に、父が他界した理由を理解する。
仕えている貴族家が最悪なのだ。
使用人を物のように考え、居なくなれば補充すればいいと考えている、所謂典型的な駄目なタイプの貴族である。
父は使い潰されて死んだのだ。
そして、俺にも当然のように仕えよと命令してきた。
俺の二つ上にこの貴族家の跡継ぎが居て、それに仕えよと。
母は断ることができなかった。
というのも、この貴族家は公爵家。
貴族家の中でも絶大な権力を持ち、どこよりもやりたい放題がまかり通っている。
命令を断れば何をされるかわからない。
使用人如き、いくら死んでも構わないと思っていて、それはこの貴族家だけではなく、他の貴族家も大体似たり寄ったりなのだ。
この国に居る限り、貴族家を敵に回せば生きていけない。
それに、出て行っても……国を出る前に捕まって殺されるだろう。
実際、見せしめとして殺された人も居た。
俺だけでも逃げなさい、と母に何度も言われたが、母を置いて逃げるという選択肢は俺に中にない。
そうして、俺が仕えることになった跡継ぎも、結局はこの国の貴族だった。
小間使い――というのは、相当気を遣った表現だろう。
実際のところは奴隷と言ってもいい。
少しでも気に入らないことがあれば暴力を振るわれ、生傷が絶えなかった。
また、俺の扱いがさらに酷くなる時が起こる。
それは、跡継ぎが魔法を習い始めた頃のことで、物は試しと俺の魔力量が調べられた。
結果は――魂が大きく欠けていると馬鹿にされる。
魂が欠けている――というのは、とあることの比喩的……いや、揶揄的表現。
ただしく言葉にするのであれば、俺には魔力がなかったのだ。
魔力が普通より少ない、まったくないことを、魂が欠けている、と言っているのである。
だから俺には、魔法と呼ばれる超常現象を起こす手段を使用することができない。
魔法を使うために必要な魔力が、俺にはなかったのだ。
日頃浴びせられる罵声の中に、欠陥という言葉が追加された。
悪くはないのだから、母には謝って欲しくない。
けれど、希望もない訳ではなかった。
十五歳で判明するスキル次第では、人生大逆転が起こる可能性がある。
だから期待して……見事に砕け散った。
俺のスキルは一つだけ――「全属性」。
魔法は属性区分されていて、そのすべてが扱えるということだが、魔力がない俺には無用のスキルでしかない。
それでなくても、すべての魔法属性を極められるだけの時間が人にはなくて中途半端に終わり、一属性に絞ったとしても、その一属性持ちとは習得率が違うらしく、結果として及ばないそうだ。
つまり、罵声の内容をさらに増やしただけに過ぎない。
……いつからだろうか。
……満腹になるまで食べた覚えがない。
……満足に眠った覚えもない。
……無事に終わった日は記憶にない。
いっそのこと死んだ方が……と何度も思ったが、その度に母を思い出しては踏みとどまった。
そんな思いを抱き続けながら二年が過ぎ、十七歳になろうかという頃。
俺は、家の箔付けのためにと数年間騎士団に所属することになった跡継ぎの奴隷としていびられ続けていたのだが、その跡継ぎが騎士の鍛錬の一環として、とある中立国にある世界最大規模のダンジョンに向かうことになった。
これは国を挙げての騎士全体の戦力増強を図るモノであり、鍛錬をサボりまくる跡継ぎであっても断ることはできない王命である。
さすがに家の力も通用しなかったようだが、当然跡継ぎは俺を連れていく。
部隊ごとに挑むようで、同伴する他の騎士たちの使用人を見たが、俺よりはまともに扱われているように見えた。
そして、その時がくる。
金で揃えた無駄に豪華な装備とスキルによって序盤はどうにかなっても、奥に進めばより強い魔物が居て、それには一切敵わなかった。
跡継ぎがまともに戦える訳も、それこそ部隊の戦力になる訳もなく……というよりは共に居た者たちも大体似たり寄ったりで、同伴の使用人も戦える訳もなく、戦闘と呼べるような戦いにすらならずに、諦めて逃走を選択する。
しかし、まともに鍛錬をしていない者や鍛錬すらしていない者では逃げ切れる体力すらある訳もなく、直ぐに追い付かれ――。
「高貴な私がこのようなところで朽ち果てる訳にはいかない! 囮となって時間を稼げ!」
跡継ぎに殴られ、よろめいたところを魔物に弾き飛ばされた俺は、近くにあった大穴まで吹き飛んでそのまま落下する。
これで死ぬんだと思った俺は、貴族家のこれまでの仕打ちを恨み憎むよりも、残される母への心配と先に逝ってしまう申し訳なさを胸に、これで漸く眠ることができると……目を閉じた。
次から基本コメディ、ギャグ……かと。




