4.全ては、自分の未来のために
あたしは六日後、舞踏会で魅了魔法を掛ける。
舞踏会にヒロインちゃんが来るのは小説や漫画的に「お約束」だからね。
まず、舞台はさっき言った通り宮廷舞踏会の会場...ザンギエフ王宮。
けど舞踏会というからには人がわんさかいる訳さ。
そのわんさかいる中魅了魔法を掛けようもんなら他の参加者に被害が出て、高尚な舞踏会がドスケベ乱交パーティーに一変しかねない。
まぁそれよりもあたしが一番恐れてんのはヒロインちゃんじゃない子に魅了が掛かって殿下と結ばれてしまうって可能性。
そうしようもんなら、あたしの計画が全部パーになっちゃう。なによりも一番回避しなきゃならない事態だ。
とゆーことで、確実に殿下とヒロインちゃんをくっつける為に魅了魔法を若干改造して、わざと掛かりにくい物にする。それだったら多少の被害は防げる筈っしょ。
でもこれじゃあ殿下とヒロインちゃんにも掛かりにくくなるから本末転倒?まぁ待ってくれ、話はまだ終わりじゃあないんよ。
この世界には魔法を掛かりやすくするアイテムがあってだな?まぁ所謂魔法薬なんだけど、その名も「増強薬」。
これは調合する物の比率や質で効果の大小が決まる。だからそれの一番効果が大きくなる奴を作ろうと思う。
運のいい事に、我がシャーグロッテ家は今回の宮廷舞踏会の献上品の一つに白ワイン(勿論特上品の)があって、舞踏会で参加者に振る舞う予定なんだ。
ザンギエフでは日本と違って15歳から飲酒可能だから殿下もエレーナもどっちも飲めるんだな。流石にヒロインちゃんが大丈夫かどうかは知らんけど。
んで、その白ワインが入ったグラスの中の二つにあたしが作った増強薬を盛る。
それを二人が飲んで魔法を掛けると、掛かりにくい魔法が薬の効果で二人にだけ掛かるようになって、考え得る最悪の事態を回避できるってワケ。
しかも王族の殿下には100%対魔法的サムシングがある筈だからそれを貫通させるのも兼ねて増強薬を盛ろうって寸法よ。
増強薬自体は色が青紫な上になかなかケミカルな味で、何もせず白ワインに混ぜようもんなら即バレ必至だけど、これは偽装魔法で普通の白ワインの色と味に見せかければ大丈夫。偽装魔法使ったらあたし自身もどれが薬入りがわからんくなるけど、まぁそれは...覚えちゃえばいいっしょ。
だけど、魔法は誰が掛けたのかが特定できる様になってて、流石にあたしがやったとバレたら色々まずい。
しかーし、特定する方法は今んとこ一つでそれは「魔法印」。これは杖屋とかで杖を貰うと同時に必ず杖に刻まれてる印。
「魔法印可視化薬」とかの魔法印を可視化するアイテムでその発動した魔法の痕からその魔法を掛けた杖の魔法印を見えるようにして、その魔法印を持つ杖から誰が掛けたか特定できるんだ。勿論どの魔法印も唯一無二なもんだから、偶然同じ魔法印を持っていてどっちの杖が掛けたかわからない、なーんて事はない。
しかもどの杖がどの魔法印を持っているか、その杖の所有者は誰かってのはちゃんと杖屋とかから記録として把握されてあるから、魔法印が出たらそっからは芋づる式で特定される。
だからエレーナの杖で掛けるとエレーナが犯人だってバレるんだ。
...でもそれは「エレーナの杖で掛けた」場合。
だったら「他の杖でやれば」良いんだよ。
エレーナの杖じゃない杖だったら、掛けても普段エレーナの持ってるやつの魔法印じゃないから魔法印での特定は不可能。後は参加者の証言にのみ犯人探しは絞られる。
けれどこれには一つ問題がある。それは「どうやってその杖を手に入れるか」。この問題のせいでまだ杖を手に入れられてないんだわ。
エレーナが普通に買ったら、購入者として記録されて、その記録からバレる可能性があるっしょ?...というか購入者として記録されるのが一番の難所なんよ。
誰かに偽装したってその誰かとして記録される。存在しない人物であってもね?
つっても人様から盗むのは侯爵令嬢的に、そもそもモラル的にダメだし...。
う〜〜ん...ザンギエフの杖屋じゃなくて他の国の杖屋に...いや、ザンギエフのことだ。全ての国の杖屋を調べ上げるだろうな。
だったら既に買われてる杖を...ダメだ。生きている人は勿論、故人の杖を使うのは最低すぎる。なんら罪のない人に濡れ衣を着せることになるしね。却下。
やっべぇもう策が思いつかねぇ...終わった...
こうなったら....ゴリ押しで行くしかない...!!
まず他国...候補としてはハルミット大公国かルジェット共和国かな。そこの杖屋に偽装魔法して行って、杖をオーダーメイドで作ってもろて、完成次第受け取って...その杖で店員全員に忘却魔法を掛ける。あと記録してある奴を確認して、あたしの情報を消す。
これでミッションコンプリート。
よし!!!もうこれで良いわ!!!若干常識的にあかんことしてる気がしなくもないけど目的の為ならそんなものある程度捨てなきゃやってられんわ!!!!
はぁぁぁぁぁぁぁ..........
...うん、これで...なんとかするっきゃ...ないか...。
よっしゃ切り替えてこ。パッションパッション。
これで杖と、魅了魔法...あと増強薬。これで良いかね?
あ、そういや魅了魔法解けたらどうすんだ...?もしなんかの手違いや解除魔法とかで解けたりしたら...。
...簡単に解けないようにするか。
本漁り漁りーっと...。
そして暫く時間が経ち...
コンコン、という音と共に自室の扉が開かれる。
「お嬢様。晩餐の準備が...って!何をなされてるのですか?!」
あ、ネロ来た。もうこんな時間か。
時計の針は気付けば18を指していた。
「魔法の勉強ですが、それが何か?」
「本が散らかりすぎだろ!!何の魔法の勉強なんですか?!」
「上位魔法を一つ。それよりも晩餐の準備が出来たのでしょう?参りましょうか。」
「いやこの本らは...」
「そのままにしてて頂戴。晩餐の後、勉強に戻りますので。」
さて、飯を食べにいくか。
食堂の扉を開けると暖炉のついた広い部屋にて白いテーブルクロスに覆われた長卓を囲んでエレーナの家族が待っていた。
「エレーナ・B・シャーグロッテ、遅ればせながら只今参りました。」
家族が一斉にこちらに振り向く。
「遅かったじゃない。貴女のことだから魔法のお勉強に熱中して、ネロが呼びに来るまで時間を忘れていたのでしょう?」
「お恥ずかしながら...」
「勉学に励むことは素晴らしい事よ。でも、私生活に悪影響を与える程熱狂するのはあまり宜しい事ではないわ。何事もね。」
「肝に命じておきます。」
この人はエレーナのママ。ニコレット・スィーヴハー侯爵夫人。「スィーヴハー」ってのは代々シャーグロッテ家の当主が襲名する爵位号?っつーもんらしい。
まぁそんな事は置いといて、エレーナのママは気高くて、興味のある事には性別や身分関係なく取り組む人。
だからエレーナの魔法の勉強にも全面的に応援してくれるんだ。
「ねーさんが来たぞ、シェリー!」「おねぇさまが来たわ、テオ!」
「べんきょーばっかりしてないでボクたちと遊ぼーよー!」「遊びましょーよー!」
「また今度ね。今勉強している魔法が一段落ついたら三人で森へ探検に行きましょう。」
「「わーい!!」」
エレーナの弟妹のテオドール君とミシェルちゃん。双子ちゃんでいつも一緒にいるんだ。
二人はどっちもやんちゃで元気いっぱい。
テオは育ち盛りで食べ盛り。次期当主の最有力候補だけど、まだまだお子様。
シェリーはおませさんで見た目や言葉遣いを大人っぽくしようとしてるけど、性格はやっぱり元気っ子で甘えん坊な子。
二人ともとっっても可愛い!いいなー!前世が一人っ子だったから弟妹がいるっていいなー!
「我が愛しの娘よ!才に富みながら更なる高みを目指す君を私は誇りに思う!またこの晩餐を君という才女、そして愛しき家族と共に過ごし語らえる事は私の最大の喜びと言うても違いない!」
「私も同じく、晩餐を共にできることを嬉しく思います、お父様。」
そして、この人がエレーナのパパ。スィーヴハー侯ロマン閣下。
侯爵としての威厳と賢さ、父としての優しさと頼もしさを持ち合わせる、エレーナが最も尊敬してる人。
家族LOVEな人で、欲しい物は何でも買ってくれたり基本的に甘やかしがちだけど、悪いことをしたらきっちり叱ってケジメを付けさせる人なんだ。
これがエレーナの家族。おじいちゃんやおばあちゃん、他の親戚はザンギエフ内の別のところや他国に住んでたりしてる。
家主一家のエレーナ達だけ、王都メリィドに住んでるんだ。
...なんか悪役令嬢っぽく無くない?悪役一家...というよりあったけぇハッピーファミリーって感じだけど...。
「さぁ、今日も晩餐を始めようではないか!」
エレーナのパパが高らかにそう言うと、ネロ達家族専属の執事・メイドがタタン、と手を叩く。
ネロが扉を開く。
厨房から料理が食堂へ飛行し運ばれる。
運ばれた料理はネロ達の手元へ届き、彼らの手で直接配膳される。
最初に配られたのはオードヴル...いわゆる前菜。
うちの晩餐...というより貴族や王家の晩餐はフランス料理のフルコースみたいな感じに最初は前菜が運ばれて、次にスープでその次に魚介料理、シャーベットみたいなの、肉料理、チーズ、デザートの順に食べるんだ。
「オードヴルのシュヴルイユとノワイエのテリーヌです。」
テリーヌかぁ。前世では一切お目にかかれなかった品物だけど、こっちだとそこそこの頻度で出てくる。
今夜のは鹿だけど、豚や鴨とか牛の肉で出てくることもあるし魚、なんなら野菜のテリーヌだって存在する。
んじゃいただきま...っと、その前に。
前菜と一緒に運ばれてきた飲み物。これを忘れちゃあいけないね。
赤ワイン、白ワイン、シードル、オランジュのジュース、ジョンティルナのジュースの五つが各々ガラスの水差しの中に入っている。
オランジュはいわゆるオレンジ。んでジョンティルナは...わからん。多分この世界特有の果物だと思う。
どんなのか紹介も兼ねて今回はジョンティルナのジュースを飲もうか。
空のグラスを軽く揺らして...
「Jus de gentilna .」
するとジョンティルナのジュースが入った水差しが宙に浮き、とくとくとグラスに黄金色の中身を注ぐ。
ベルガモットに似た甘酸っぱい香りが鼻腔を擽る。
注がれたグラスの中身を一口。
うんんっっま...
口に含んだ瞬間にビリッと感じる強めの酸味と、その後に広がる蜜みたいな甘味...いつ飲んでも最高...
流石「恋の果実」の異名だけあるなぁ...。こんな味前世ではお目にかかれないだろうね。
「ねーさん食べないのー?」「食べないのかしらー?」
いかんいかん、完全にジュースに集中ちゃってた。
「いえ、勿論頂きますよ。」
今度こそいただきまーす。
四角いテリーヌを一口台に切り、口へ運ぶ。
あぁ...美味し...。
鹿のあっさりとした味ときのこの香り高い上品な風味がお互いを引き立て合っていて、その上ムースみたいな食感とカリカリとした胡桃で口を飽きさせない...。シェフの拘りを感じさせる一品だ...。
流石侯爵家の晩餐...前菜から気合い入っとるわ...。
「テリーヌおいしー!」「おいしーのだわー!」
「そうね。シュヴルイユにきのこ、そしてノワイエ...秋らしい、今の季節にぴったりテリーヌだわ。」
それな。これぞ秋の味覚って感じ!
するとエレーナパッパが突然杖を懐から取り出し、小さく呪文を呟いた。
な、なにをなさろうと...?
「風味や食感、そして季節感。この中の一つともいい加減にせず、最高の出来を提供としようとするその気高き姿勢。テリーヌといえど工夫を凝らし我々を飽きさせないその実力...うむ!実に見事だ!!これ程にも素晴らしい料理人達がこのヴェルトに存在し、その上我がシャーグロッテ邸でその腕を振るうてくれるとは!!私達はきっと果報者に違いない!」
嬉しそうにそう言うスィーヴハー侯の手にはマイクの様に先端を口に近づけた杖。
あぁ...なーるほど。杖を媒体としてキッチンに声を流してたのか。
うちには厨房とかにスピーカー的なものが設置してあって、それをマイクとスピーカーみたいな感じで声を転移?できるんよね。便利もんだな。
「かほーもの?」「かほーものってなにかしらー?」
「幸せな人って事よ。だから貴方達も果報者ね。」
「ボクたちもかほーものだってシェリー!」「じゃあ、おとうさまもおかぁさまもおねぇさまもかほーものだわ!」
「その通りだシェリー!我が家は皆果報者なのだ!」
「えぇ。私達は本当に...果報者ですわ。」
...いや〜...悪役令嬢のお家らしからぬハートフルさ。こんな家から悪役令嬢が出るなんて普通ありえんでしょ。
「けれどもテオ、シェリー、そしてエレーナ。自分が幸福でもその幸せを独り占めしてはいけないわ。大切なのは自分の周囲の人にその幸せを分け合うこと。例え自分が幸福でも周りの人が幸せでは無かったら、折角の幸せが十分に感じられないでしょう?だからその幸福を周りの人と共有するの。そしてその共有した幸福は更に他の人に共有され、巡り巡って自分に戻ってくる。そうしたらもっと幸せになれる気がしなくて?」
「じゃあわたしはテオたちをもーっとしあわせにするわ!」「ボクもシェリーたちをもーっとしあわせにする!」
「私も周囲の方々を幸せに出来るよう努めて参ります。」
「その心意気よ。自分の幸福も、相手の幸福も尊重してこそ真の幸福を得られるの。」
いやマジでほんとに悪役一家か?!あたしが勘違いしてるだけ?!悪役が他人の幸福尊重するか?!いやわかんねぇ!!するかも!!
んまぁ...そういうタイプの悪役か、後々闇堕ちタイプ...なのかな...。多分...。
そんなこんなしてる間に食べ終わってしまったよ。
膝上のナプキンで口を拭き、皿の端に斜めにナイフとフォークを置く。
するとネロが皿を回収し、パチンと指を鳴らす。
皿は宙に浮き、厨房へ戻っていった。
他のそれぞれの執事やメイドが皿を回収し、指を鳴らして皿を戻していく。
そして全員の皿が回収され、戻っていったのを確認し、また手を叩く。
次に来るのはポタージュ。言わずもがなスープですな。
「野菜のペイザンヌとベーコンのポタージュです。」
...らしい。ペイザンヌってなんぞや。四角い形だとこう言う名前になるんかな。
ポタージュ用のスプーンでそっと掬い、飲み下す。
鶏をベースにしたスープの中に素朴で優しい味わいの野菜と燻った香りのベーコンが体に優しく染み渡る。
その優しさたるや都会の荒波に揉まれ、ふと帰省した時の実家に匹敵する。
「テオー、カロット食べてー」「じゃあボクのナヴェとこーかん!」
テオとミシェルがそれぞれの苦手な野菜を移し合っている。
「こらこら、二人とも行儀が悪いぞ。」
「「むー!」」
「ふふ。」
確かに行儀は悪いけど微笑ましいな。
また次に来るのはポワソン。これは魚介料理。
「カビヨーのムニエル、付け合わせにポム・ドゥ・テールのガレットです。」
鱈のムニエルにじゃがいものガレットかぁ。
ガレットって聞くとクレープっぽいのが真っ先に思いつくけど、こういうちっこくて丸いのもあるんだ。
ムニエルを一口サイズに切り分け、口へ運ぶ。
嗚呼...高くて美味いもんの味がする...。
あっさりとした白身魚が小麦粉やバターで味が濃厚になってるのに、檸檬の果汁が重くさせなくしてて、鱈の淡泊さとバターのコク、小麦粉でできた皮の香ばしさ、そしてシトロンの酸味と香りが喧嘩せず調和したまま、嫌な油っぽさ無しに味わえる。
しかも外カリ中ふわ。最高では?
無意識のうちにどんどん食べ進めてしまう。
あぁ、そうだそうだ。付け合わせ。
うん、このどっかで食べたことのある味。
なんだろう...じゃがいも...カリカリ...あっ、あっ〜〜!!アイツだ!
マ○クのポテトだ!あの特に茶色くてカリカリしてる奴だこれ!
マッ○のポテトにチーズを加えて薄焼きにするとこれになんのか...。うま。
ムニエルとガレットの味を噛み締めながら食べ進め、完食したら口の中に残留する二つの味を流し込むかの様にジョンティルナのジュースを嚥下する。
「...ふぅ。」
最&高。あまりにも最高すぎる。
やっぱ美味いもんを食べるってのは精神衛生上良いことですわぁ〜。
「とても美味でした。」
食器を取り下げるネロについ言ってしまった。
「喜んでいただけたのなら何よりです。その一言で彼らの努力も報われるというもの。」
もち超喜んでるよ。こんなにうまいもん食わせてもらってんだから。
さて次に来るのはグラニテ。
きらきらと粗めのかき氷のような氷には果物のシロップがかかっている。
これは見ての通り氷菓だね。
だけど同じ氷菓のソルベとは違ってそんな甘くは無い。デザートっつーよりお口直しの役割を果たしてるからね。
これを小さめのスプーンで掬って...んむっ。
これ結構好きなんだよなー!
みぞれみたいな食感とこの...果物のシロップ!
しかも今日の果物シェードラだよなこれ?!
あまりにも爽やかすぎる!今や絶滅危惧種とされている高校生の一夏の青春か?!
あぁ、シェードラってゆーのは七国の一つであるアッカ聖国の特産品で、味はほぼ柚子。日本人にはたまらん味よ!
それが氷菓になってんの。神かな?
まぁ一旦落ち着け。こんな感じのが魚介料理と肉料理の間に来て、口の中をリセットする。
すると、次の肉料理がより一層美味しく感じられるってワケ。食への配慮が細かすぎる...。
あぁー、美味かった。
んで、さっき言った通り肉料理ですわ。遂にメインディッシュが来るぞぉー。
「ヴィアンドのブフのヴァン・ルージュ煮込みでございます。」
赤ワイン煮!いいっすねぇ...。やっべ、テンション上がってきた。
まぁまぁその前に、グラスが...空になってますねぇ。
空のグラス、特級のワイン、そして肉料理。
やる事と言ったら一つ。
「Vin rouge」
赤ワインを飲むしかねぇよなぁ?!
宙を浮く赤ワインの水差しが透明なグラスを血の如く暗い赤に染める。
飲むぞー、あたしは、酒を。
まぁ実際、目醒めてから三、四回は飲んでるけど。
それはともかく!くいっと一口、いってみよう!
「んくっ」
あぁ^〜、背徳の味...。
前世では法に引っかかる筈の行為が合法で出来るなんて...。
雑味が一切無く、ブドウ本来の濃厚で華やかだけど爽やかな酸っぱさと味を深くさせる渋さがふかーく絡み合う風味がストレートに舌に伝わってくる。
本当はあんま好きじゃない筈の渋い味もワインだと無くてはならない構成要素の一つになるから不思議。
その上、ブドウ本来の味だけじゃ無く、焦がしたカラメルの様な香ばしさや、ベリー系のフルーティーさ、そして後を追う様に鼻から抜ける花の香りなどと複雑で飲む側に一切飽きさせる隙を与えない風味。
味わってると時間を忘れてしまいそうだ...。
「今日のワインも美味しいですね。」
「当たり前だとも!デュルガータ地方の信頼のおける契約ワイナリーから買い入れた12年物の特上品だ!不味い筈が無いだろうさ!」
デュルガータ地方。ザンギエフの誇るワインの一大産地。旧バルバリシア王国では、現ミズガルズ王国のジーステム地方と双璧をなしていたとか。そんな所の特上品だとしたらこの味も納得だ。
「とーさんもかーさんもねーさんもずるいー!ボクもワイン飲みたいー!」「わたしも飲みたいのだわー!」
「駄目よ。まだテオ達は十五歳では無いでしょう?大人になったらね。」
「はは!そう言うてる内はまだ子供という事だ!あと七年、待つことだな!」
「「むー!」」
「もし子供の間に酒を飲んだりしたら...妖精に攫われてしまうぞぉー!」
「「きゃー!!」」
かわいいなぁ...。妹弟って...。
さて、ワインを堪能したことだし、冷めないうちに肉行きましょうや、肉肉。
このワインで赤くお化粧した牛肉を胃袋の中に納めちゃおう。
いただきまーす。
肉柔らかっ。噛めば噛む程牛の旨さとワインの味が増してくる...。
やば...うんまぁ...。語彙が溶けりゅ...。
いやマジで美味い。脳の幸福物質が分泌されまくりんぐですわ...。
えっ、これで赤ワイン飲んだらあたし、どうなっちゃうんだ...?!
「んっ」
昇天────
赤ワインで煮込んだ牛肉食って、赤ワインで優勝する...。
なんか字面的に変な感じがするけど、とても...良きものだ...。
あー、これだったらムニエルに白ワインでも優勝すりゃあよかった...!!
「あぁ、そういえばあなた。ミズガルズ王国とはどうなの?今はまだ争いには至ってないけれど、あの女王様がいつ宣戦を布告してくるかわかったものではないのでしょう?」
「全くだ。万が一に備え準備を進めてはいるが、その備えが使われない事を願うばかりだよ。ミズガルズも我が国とは違った華やかな文化がある。彼の国の氷月祭には毎年心躍らせられるものだ。その文化を戦争などというた物のせいで停滞、ましてや破壊される様なことは断じて遭うてはなら無い。なるべく平和的解決になるよう、陛下や他の貴族らと色々模索してはいるが、さて...。」
「ミズガルズ王国は正直に言って明日迫ってきてもおかしくはない状態。もしかしたら今度の宮廷舞踏会にて大勢の観客の中布告すると言っても否定できないわ。」
そっか、宮廷舞踏会で大々的に言えばザンギエフは逃れられないし、戦争が他の国にも認識されるから...。
「あぁ。そうはならない様最善を尽くすとも。」
戦争かー。やだなぁ、平和を謳歌してたいよ。
まぁ、元々バルバリシアっていう一つの王国から戦いの末、独立して出来たのがあっちなんだから仲良しってのは無理な話よな。
んぐ、嗚呼...旨し。戦争のせいでこういう美味いもんが食べれんくなるのは辛ぇもんでしょうに。
そんなこんなで完食っと。
次に来るのはフロマージュ。
全員の皿を回収し戻し終えたネロ達が手を叩くと...。
パンが沢山入ったバスケットと、切られたフルーツが盛られた皿やジャムや蜂蜜の器を乗せたトレーが滑空し、
ガーッッ!っと猛スピードでワゴンが滑走してくる。
なんていうか...凄まじいなぁ...。
ワゴンに盛られているのは結構な種類のチーズの塊。それの中で好きなものを選んで食べるっていうのがフロマージュなんだ。
さてさて、何にしようかなー?
「Mormo , Lumiera et Halde de Cues.」
チーズと共に置いてあったナイフが今選んだ三つのチーズを切り分けて、同じくワゴンの上に乗った皿の山の一枚に乗せてあたしの目の前に差し出される。
モルモ、リュミエラ、ハルデ・ド・キューズ。
どれもザンギエフ王国産の有名なチーズ。
特にこのリュミエラチーズはヴェルト中で愛されてるんだ。
そんなチーズを食べていこうねー。
まずはモルモチーズ。ザンギエフ王国内のモルモ地方で作られた淡い黄色のチーズ。
おっと!そのまんまフォークでバクリと食べるのは御法度ってもんだ。これはパンに乗せて食べるのさ。
テーブルの中央に置かれたバスケットから既に切られてあるパンをいくつか取り、その中の一つにチーズを乗せて...あぐっ。
コクのある、甘さ控えめなナッツみたいな味。パンともバランスがぴったりで、その上どっちも硬めな食感だから、噛めば噛む程チーズとパンの旨さが口に広がって良きかな。
こういう山村みたいな素朴さ、あたしゃ好きよ...。
んでつーぎーはー、ハルデ・ド・キューズにしよっと。これはハルデ地方で作られた「ハルデチーズ」の中のキューズ村で作られたから「ハルデ・ド・キューズ」って名前。ややこしいね。
ザンギエフでは昔っから大人気のチーズで、もしかしたらリュミエラより人気かもしんない。
そんじゃあ食べていこー。
まずは普通にパンに乗せて...あ、こん時のパンはモルモチーズの時のとは違うパン。モルモの方はいわゆる「田舎風」のパンだけど、こっちはバケット...あたしらの馴染みのある言葉だと「フランスパン」に乗せるんだ。
ん゛ー!うまし!上品なまろやかさや滑らかさに、豊かなコクが奥行きを出していますな。病みつきになる味だぁ。
口に入れた瞬間トロって蕩けるから、なんだか心も蕩けそうになる。
最初に「王様のチーズ」、「チーズの王様」って別名つけた奴と握手したいね。
素のままでも充分うまうまなハルデ・ド・キューズですが、上にフルーツ...ここでは林檎を乗っけて...
あぁ〜、うんまぁ〜〜!!これだよ、これこれ!濃厚なチーズに爽やかなリンゴが加わって一気にデザートみが強くなっとる!
ところで、ここにポミエのジャムがあるじゃろ?
これをチーズの上に乗せるじゃろ?食うじゃろ?
大・優・勝。
砂糖で煮詰めてあるから生のフルーツよりも甘くて...これはもうチーズちゃう、チーズが入ってるデザートよ。
口ん中あんま〜。ワインで流し込んじゃお。
...あっという間にペロッと平らげてしまったな...。
んじゃラストのリュミエラチーズ行きますか。
リュミエラチーズ。正式に言うとリュミエラ・ド・マシェンティア。マシェンティア地方のリュミエラ村で出来たチーズ。大抵のチーズは名前が産地である地方名や村名から取ってあるんだよね。
で、これは端的に言うと...多分カマンベールチーズですね。そりゃヴェルト中でも有名だわな。
と言う事で食べていこう。
ハルデ・ド・キューズと同じくバケットの上に乗せて...あぐ。
カマンベールだ...。このクセも旨みも強めで、クリーミーさの後ろに控えめにいるピリッとする感じ。完全にカマンベールチーズだ。
あ、でも前世で食ったのはもっとクセが無かったような...。まぁいいや。
ハルデチーズと見た目似てるけど臭みとか味はやっぱ違うもんだね。ハルデチーズの方が初心者向きかも。
食感もハルデチーズみたいにトロッとまではしてなくて、芯が中心に残ってる感じだし。
リュミエラチーズもポミエと合わせるのがうましなんだけど、もう一つ...さっき飲み干したグラスを軽く揺らして、
「Cidre.」
さっきまで暗赤色だったグラスが、たった一言で黄金色に染まる。
シードル。リンゴ酒だね。
んでー、さっきのハルデ・ド・キューズみたいに生リンゴを上に乗っけて...
あー、塩味と甘味ってめっちゃ合うな...。で、すかさずシードルを飲む!
「...ふぅ。」
っかー!!最っ高...。
リュミエラ・ド・マシェンティアもシードルもどっちもマシェンティア地方が産地で、このチーズを食べる時はシードルを飲むのが定番なんだ。
そりゃそうでしょ、こんなに美味しいんだから。
あー、うまかった。
...あれ、なーんか忘れてるような?何やったっけ。
まぁ思い出すのは時間に任せて、次っていうか最後のメニューが来た。
デセール。デザートのお時間です。
今夜のデザートはなんだろな〜♪
「デセールのポミエとフゥポンのタルトです。」
タルトか!良いですねぇ!ポミエはまぁ林檎なんだけど、フゥポンはー...なんか...房になったブドウの実がちっこいリンゴに変化したみたいな...そんな果物。
タルト生地の上に中心はフゥポン、周りはリンゴでピンクい大輪の花を象ってあって、なんだか一種の芸術作品みたい。
それを八、九等分かした物の一つが今、あたしの目の前に置いてある。
これは期待値爆上がりだが大丈夫か?
「はむっ。」
期待値の上を行く...これがシャーグロッテ家のパティシエ...。見事としか言いようがない...!
サックサクのタルト生地に前半は甘さよりも酸味強めなフゥポンのコンポートでさっぱりと、後半は蜜のような甘〜いポミエのコンポートであまやかに...っていうグラデーションみたいなサムシングができていて、なんか少女向けの甘酸っぱい恋愛漫画が脳裏を過ぎった...。
その下でカスタードの優しい甘さがふわっと味を支えてる...なんかもう、凄い味。
こんなん何切れも食べられちゃいますわ...
「...お嬢様。」
「はい?」
ソワソワと心配そうな顔のネロが耳元に囁く。
なんだ貴様、あたしは今幸せなデザートタイムを堪能してるんだよ。邪魔しないで欲しいね。
「クロエ様にイブニングドレスを差し上げた事を...旦那様に仰らなくて宜しいのですか...?」
あっ、あ〜〜〜〜!!!
「ご心配なく。言う頃合いを見計らっていただけなので。」
嘘です!!完璧に忘れていました!!!超ごめん!!
「ですが、もう仰られた方が...」
「そうね。」
ネロがほっとした顔で元の場所へ戻っていった。
「お父様。少しばかりご報告があるのですが、よろしいですか?」
「報告とな!申してみなさい。」
「ありがとうございます。事後報告となってしまうのですが今日の夕方ごろ、私がお父様に昨年頂いた紫と白のイブニングドレスを私の友人に譲与しました。」
「ほう、あのドレスか!あれは君が所持している物だ。故に何をしようが私は一向に構わんが、念の為理由を聞かせて貰おう。」
「お父様方もご存知の通り、六日後に宮廷舞踏会がございます。ですが彼女は参加条件となっている夜会服を持っておらず。なので、彼女の“舞踏会に参加したい”という願いと私の“大切な友人である彼女と舞踏会を楽しみたい”という自分勝手な願いを叶えるために差し上げました。」
「成程!友の願いを叶えるためにドレスを譲うたと。その友人の名はなんと?」
「クロエ。クロエ・ピュリメヴェレでございます。」
「おぉ!ピュリメヴェレの娘か!君とよく仲良くしているあの!確かに夜会服は庶民にとっては手が届く物では無いだろう。勿論あのドレスも特上品故に些か値が張る。」
些か、じゃないでしょ...。庶民にとっちゃあ気絶レベルだから。大貴族の金銭感覚怖ぇー...。
「しかし!時に友情とは金よりも尊いものだ!しかもそれが己が大切な友ならば尚更!してエレーナ、彼女は君の行動で幸せにのうたのか?」
そりゃーねぇ?クロエの反応からして...
「そうだと、私は思っております。」
「ならば君は大切な友の願いを叶え、幸福にした。素晴らしい事ではないか!あぁ、君は本当に私の誇りだ、エレーナよ!」
「私は友を想った行動をしたまでです。」
「ねぇさん、もう一人しあわせにしてる!すごーい!」「すごいわ!おねぇさま!」
許してもらえた?のは予想通りとして、その上褒められるとは...。
「...あら?エレーナ、貴女が渡したのはドレスだけ?」
「はい、ドレスを一着。」
「駄目じゃない。」
え、え?!なんか悪いことだった?!今パッパが褒めてくれたばっかなんだけど?!
「靴と装飾品を忘れるなんて。」
...え?お怒りでない...?
「靴と装飾品はドレスという主役を魅せる名脇役よ。この二つがあって始めてドレスが煌めくの。」
あぁ、完全に見落としてた...。靴と装飾品...。
確かにドレスがいくら立派でも靴とかがドレスに合ってたりしなかったら変だもんな..。
「それに、ドレスの調整もしていないでしょう?明日辺りにクロエを連れてきなさいな。諸々行って、彼女を最高のマドモワゼルにしましょう。」
「感謝致します。お母様。」
マージか。そこまでしてくれんの?愛情深いっていうか、情に厚いな...エレーナの親御さん。
その後談笑を楽しんだ後、ネロと共に食堂を出た。
自室への帰り道。
「まさかお褒めに預かるとは思いませんでした。」
「その上、靴や装飾品も...。あれ、それってエレーナのものから...。お嬢様は宜しいのですか?」
「構いませんよ。逆に持て余していた物を手放せるのですから有難いわ。」
「はぁ...。」
「ところでネロは舞踏会には行かないのかしら?」
「一応執事としてお嬢様のお供などを任されてはいますが...。」
「そう。」
「...お嬢様はフラムルンド...殿下のことをどうお思いで?」
「我が国の王子であり、政略結婚の相手としか...。」
「恋愛感情とかはあられないのですか?」
「...不思議な事にこれが全くありませんの。」
「なるほど...」
「何です?私と殿下との婚約に不満でも?」
「いえ...」
「今日の勤務もお疲れ様でした。ではお休みなさい、ネロ。」
「お休みなさいませ。くれぐれも、就寝の前に本は片付けてくださいね。」
「ふふ、分かってますわ。」
そんな話をしながら自室に戻ってきた。
...さて。
「あともうちょいだけ...やるか。」
魔法が簡単に解けないようにする、か。まぁそんな方法が本に載っている筈もなく。
でも今一から研究するとなると...時間が足りんな。
んー...じゃあ解除魔法を応用するとかかね?魔法を解除できるんだったら、逆に解除できないようにする事もできよう...みたいな?
それだったら解除魔法の呪文を反転したり、他の魔法の呪文を入れたりと魔改造したらなんとか...いや元は解除魔法だから掛けても解除魔法で一発だ。更なる魔改造が必要ですな。
なんか良い魔法薬...増強薬はもう最大効果の奴にしてるし、他には...無いか。魔法具もダメだな。あっても持ってくにはちと大きいし。
あ、と、は...いやいやアカンだろ...。
でも他に方法は...無いよなぁ...。
「妖精の作ったモノを使う」しか...。
「妖精」。ヴェルトにて最も忌み嫌われるもの。
今から約三千二百...だよな?年前ヴェルトを襲った侵略者。まぁその侵略は阻止して、妖精は消えてったんだけどね。
童話では“悪”の象徴として、前世で言うところの悪魔とかみたいに主人公と相対する存在。
そんな童話には妖精の悪事に使う薬とかの描写が何故かよくあって、えーとどこだっけ?
あー、これこれ。
「まどろみの森」。
ここに、妖精が「永遠に眠り続ける薬」を作って、その薬を混ぜた料理を宴で人々に振る舞うってシーンがあんのよ。
まぁ正直なところ所詮童話で出て来た程度だから眉唾もんだけど、信じてみるしか無いよねこうなったら。
その薬の調合には、罌粟の花と実、薔薇の棘、乙女の血、夜咲華のエキス、不朝石、ダイヤモンドを月を映した水に入れて混ぜるってのなんだけど、これを...魔改造します。魔改造って、楽しいね!
魔改造っつっても材料変えるだけなんだけどね。「永遠に眠る」のを「永遠に愛する」に効果を変更させるって感じだから、まぁ意味合い的には「解けないようにする」方法になるんじゃなかろうか、なってくださいお願いします。
媚薬を参考に組み換えてみるか...。
これをこーしてあーして...おけ、こんな感じかな。
まず薔薇の棘と乙女の血、ダイヤモンド、月を映した水は変えないで、他の所には薔薇と炎華の花、菫のエキス、ルビーを代わりに入れる。
こんなもんか。
正直悪の象徴である妖精の力を借りる様なことをするのは気が引けるけど...。
んまぁ、バレなきゃ犯罪じゃ無いよね!
じゃあこれでいいかもう。
ちゅー事で計画の確認!
まず、フラムルンド殿下とヒロインちゃんに飲ませる予定の白ワインが入ったグラス二つに増強薬と永遠に愛する薬...長いから「妖媚薬」と命名しよう。それを混ぜて、偽装魔法を掛ける。こん時の混入させるタイミングは結構重要で、王宮の使用人の毒味と魔法が掛かって無いかの検査の後、殿下達に飲ませる前の誰も見ていない隙をつかなきゃならん。気を抜いたらThe・Endだから慎重にいこう。
...というか、なんか殿下をヤク漬けにしてるみたいでアレだなぁ...。不敬罪とかに処されないあたし?大丈夫?
まぁそれは置いといて、次に何か適当な理由で会場抜けて、誰もいない所で偽装魔法使って変身して、誰もいなさそうな場所かつ杖の射程範囲内で魅了魔法と魔改造版解除魔法のWコンボを決めて...いや二つ連続はダルいな。
妖媚薬作る過程で魔改造版解除魔法掛けるか。薬とかの効果上げる為とかに製作過程で魔法を加えるってのはよくある事だし大丈夫でしょ。
で、殿下とヒロインちゃんは結ばれるってワケ。我ながらダイナミックな事すんな...。
正直解除できんからミスったら最後ヤバ死だけど、こんな完璧な計画の何処にミスする所がございましょう?
100%...いや150%ミスりませんわオーッホッホッホッホッホ!!!
...いやマジでミスんないでくれ頼む。
ということで後は材料集めと薬の製作、あと杖の入手か。まぁ余裕かな?
明日はクロエの靴とかもあるから、本片付け次第寝よ。
おやすみー。
そして、この五日間準備は順調に進み...
「...うし、妖媚薬の瓶詰め終了っと。」
今日全ての用意は完了した。
机には三日前にハルミット大公国で買った杖(これマジで手に入れる時緊張した)とエレーナのいつもの杖、ダイヤ型の小瓶に入れた「増強薬」と「妖媚薬」。これはリングガーターと太ももの間に挟む。
妖媚薬の効果は魔改造+魔改造版解除魔法のお陰もあってか、(小動物二匹の協力もあり)無事確認出来た。良かった...。
あと一応増強薬を入れたジュースに偽装魔法を掛けた奴を飲んでみたけど、全く問題なかった。大変美味しいジュースでした。
つー訳で、後はあたしの行動次第。
明日の宮廷舞踏会...絶対失敗出来ない。
全ては...あたしの未来のために。
───────
月を見つめ、少女は微笑む。
その微笑みは明日の宮廷舞踏会への期待からか、それとも.....
「ふふ、楽しみだなぁ...。絶対、ぜーったい迎えに行くからね。」
───『ゆいゆい』。
今回も読んでくださり、有難うございます。
遅くなりました、遅くなりすぎたかもしれません。
今回はほんとうにクッソ長いです。お紅にも一旦どっかで区切れって言われましたが...ダメだったよね。
遅くなったのも兼ねて焼き土下座するので許してください。
晩餐に気合を入れ過ぎてしまいました。反省はしてますでも後悔はしてません。いや若干後悔してます。
今回、誰かさんのせいでアホみたいに長ったらしいものになってしまったので、後書きはここまでにします。
次回、待望の宮廷舞踏会に入ります!
はたして結の必死の努力は報われるのか、最後の女の子は一体誰なのか、お楽しみに!