2.大庭園と令嬢と魅了魔法
ここが、うち...というかエレーナんち、シャーグロッテ家の大庭園。
めっちゃ綺麗っしょ?!
一面に広がる緑豊かで爽やかな草木に魔法によって季節で咲くものが変化してる花々、青くて涼しげな池、そしてその庭園に住んでる鳥や小動物たち...
鼻を通る草花の匂いと吹き抜ける爽やかな風...
う〜ん、さいっこー...。
この大庭園は、あたし...そして何よりもエレーナの一番お気に入りな場所。
何でかは知らんけど多分ここで花見したり、取り巻きちゃん達とお茶会したり、魔法の練習をしたりしてるからじゃないかな。リラックスするには最適だし。
んで、花壇の花はさっき言った通り魔法で花の種類が春夏秋冬ごとに変化するんだけど、これがもう...ほんとに綺麗でさ!
今は秋だから星華や金木犀、彼岸花、泡菫とかが咲いてて
春は蒲公英、白乳華、鈴蘭...あと、甘露葵...
夏だと紫陽花や向日葵、炎華、海月華
冬だと水仙、椿、夜咲華、猫鳴花
...と、こんな感じで数えきれん位の花が咲いてんの!
しかも薔薇は若干種類の変化はあるけど春夏秋冬ずーっと咲いてんだよね!
流石魔法を重視した国...とても最高です...。本当にありがとう...。
心の中で偉大なる魔法へ感謝の合掌をしていた所...
「あら?エレーナお嬢様!」
この声は...。
「ほんとだ...!」
「ごきげんよー、お嬢。」
三人の女子があたしに駆け寄ってくる。
おーおー来たねぇ。
アッシュベージュのボブにオリーブ色のヘアバンド、アプリコットのシュシュと二つのヘアピンが着いた深緑のワンサイドアップ、そして胡桃色で癖っ毛なポニーテール。
こっちに来てまだ一週間しか経っとらんのにもう既に脳にしっかり焼き付いてる三人の顔。
「ご機嫌よう、アメリア、ノエル、クロエ。」
この子達はエレーナの取り巻きちゃん。決して悪い子じゃあ無いんだけど、個性が凄いっつーか...。
アメリアはエレーナに害する者は絶対許すまじな狂犬(上手く飼い慣らせば忠犬だけどね...多分)、
ノエルは口が達者で口論では負け無し、その上腹黒ちゃんで自分の利益を優先するっていう...いや怖。
で、クロエは...うーん...気が弱い、かな...?なんかエレーナにすっごく憧れてるっぽい。何故この個性つよつよな二人と一緒にいられるか甚だ不明。
まぁこれはあたしの所感だからエレーナがどう思ってたのかは知らんけど。
そんな全体の2/3がヤバ死な取り巻き三人衆。まあ、エレーナがうまーく扱ってたから危険度は薄まってるっぽいけどね。
...てかこんな性格除けばめっかわな女の子達(しかも三人も!)連れてんなんて羨ましいなおい。
「お嬢様、今日はどのような御用事で?」
「少し魔法の練習を。新しく習得したい魔法がございまして。」
「相変わらず勤勉だね〜。」
「やっぱり、エレーナ様すごい...!」
「当たり前でしょう?クロエ。容姿端麗にして心は強く優しく美しく、聡明で魔法の才もある上に勤勉なお方。それがお嬢様なのですから。」
今日も始まったよエレーナ賛美。君たちあたしのこと女神か何かだと思ってる??
いや褒められて悪い気はしないけどさ?
「そんな大層な人間ではありませんよ、私は。ただ、自分の成すべきことをしているだけです。それでも...その様に褒めてくださるのは...ふふ、嬉しいですね。」
「はうぅ...!!」
「なんて謙虚なのでしょう...!神々しくて...目眩が...。」
あーあー、ちょっとお礼を言うだけで限界化したオタクみたいに...。
「はいはい二人共ー。お嬢は魔法の練習すんだから、そんくらいにしときなー?」
唯一限界オタク化してないノエルが二人の肩を叩く。
「そ、そうでしたね!お邪魔なのだとしたら申し訳ありません、お嬢様。」
「ごめんなさい...。」
絵面がまるで飼い主に叱られた大型犬と子犬...
「いえ、構いませんよ。ですが、私も今日はなるべく長く練習したいので、ここで失礼しますね。」
「皆様、良い午後を。」
「練習頑張ってねー。」
「お嬢様も良い午後を!」
「そういえばエレーナ様、習得したい魔法って...?」
「ふふ、秘密です。」
「きっとあの日に向けた練習なのでしょう。私達は応援するまでですわ!」
「そ、そうだね!フレー!フレー!」
なるべく足速に、しかし優雅に立ち去る。
......ふー...。
やっっと解放された...。
早うことあの場所へ行っちゃお。
庭園の奥へ(エレーナの)記憶を頼りに足を進めると...。
...あった。
庭園の奥、ほぼ森みたいなことにある小さな広場。
奥にある上に植物が塀みたいになってて、人間は誰もいない。その代わりに...。
鳥や小動物たちがたっくさんいるんだ!
はぁ〜〜、可愛い〜〜....。
しかも花もあちらこちらに綺麗に咲いてる。
ここがエレーナのお気に入りな庭園の中でも特に好きな場所。
小さい頃、庭園を探検してる時にたまたま見つけたんだって。
わざわざ真っ白なガーデンテーブルやガーデンチェアを置いてあってさー。
椅子が四つあんのはぬいぐるみ達とここで遊んでたからなんだろうなー...。
悪役令嬢の癖に意外と可愛いとこあんじゃん。
そんなことを思いながら杖と本を置いてガーデンチェアに座ると、鳥や小動物達が
「エレーナだ!」
「エレーナが来た!」
「おはようエレーナ!」
と言わんばかりに寄ってくる。
あたしはディ○ニープリンセスかなんかかな?
「んー!」
座ったままぐーっと伸びをする。
草木の爽やかな匂いがリラックス効果を促進させてめっちゃ気持ちいい...。
この瞬間に森林浴の良さが凝縮されてる...。
「さーて、やりますか。」
皆さんお待ちかねの魔法を練習がてら説明するお時間でーす。
まず前提として、魔法はハ○ポタみたいに杖から出すのよ。
魔法を使う人は必ずその人専用の杖を持ってるんだ。
んでー、杖を振って、固有の呪文を唱えると...
「燃えよ」
杖先の真上から火が出てくる。これが「火の基礎魔法」。
この世界は火、水、風、土、雷、草の六元素で殆どが構成されてて、その中の五元素にはそれぞれ「基礎魔法」って言う基礎中の基礎な魔法があるんだわ。
他の四元素もやってみよっか。
「注げ」
水の塊が出る。これが「水の基礎魔法」。
「そよげ」
弱い風。「風の基礎魔法」。
「固まれ」
ちっこい石ころ。「土の基礎魔法」。
「閃け」
雷球。これが「雷の基礎魔法」。
触ると...
「あでっ!!」
ちょっと痛い。
これはまだ基礎魔法だから雷球は小さいし、力も弱いんだけど、もっと上位の魔法だったらクソデカ雷球になるし、力も触れたら痛いどころじゃ済まない程になるから、ちょっと雷元素系の魔法は扱いに注意が必要だね。
話を戻して、これらが五つの「基礎魔法」。
草の基礎魔法?無いんだな、それが。
草元素魔法は数が少ない上にあんま使い所がないんよ。
あ、でもうちの大庭園は植物の「永続開花」と「季節対応変化」の草元素魔法二つを広範囲に使って出来てるからそういう園芸系には結構便利!ガーデニング趣味の人間には必須の魔法ですな。
まぁ草元素魔法はさておき、この基礎魔法をベースに色々と魔法を使ってるんだよね。
図にすると
基礎魔法<基本魔法<応用魔法<高位魔法
って感じよ。
高位魔法の中でも地位魔法、海位魔法、空位魔法、天位魔法、星位魔法ってもんがあったりしてさ、あたし...っていうよりエレーナは基礎魔法からこの「海位魔法」までの高位魔法やら何やらを二、三十うんたら個位できる。
上位三つぅ?いやいやー...いずれ取得できそうな空位魔法や天位魔法はまだしも、星位魔法は神話とか物語レベルだから取得なんざ無理よりの無理よ。
ただ、齢18で海位魔法を扱えるのって稀代の天才レベルなんだからね。
いやはや転生先が魔法の天才で良かったー...。剣と魔法の世界で魔法使えないとか悲しすぎるもんね。
魔法が使える体に感謝感謝。
魔法だけじゃない。この世界のことや魔法以外にもあの子が勉強したこと、そしてエレーナ自身の記憶とかあの子の約十七年分の情報がぜーんぶ今まであった事として脳裏に焼き付けられてる。
海に溺れてさ、ごぼごぼして気ぃ失って、目を覚ました瞬間知らん美少女になってて、急に膨大ってレベルじゃねー位の情報が一気に脳になだれ込んできたあたしの気持ち、誰かわかる?目眩がして軽く吐いたよ...。
あたしの身の上話なんざどうだっていいんだよ。色々と長くなったけどこっからが本題。
あたしが習得したいって言ってた魔法。
その名は...「魅了魔法」!
元素の無い魔法の一つである「干渉魔法」の中でも結構高度なもんでかなーり、難しい。因みに階級は地位魔法。
そもそも無元素系の魔法がむずいんだから、これがどんだけ高難易度かは言うまでもあるまい。
それでもあたしはこれを何としてでも習得したいんだ。
誰に使うんだって?フラムルンド殿下?まぁ合ってる。
けど別に魅了の先はエレーナじゃあ無いんだな。それこそ悪役令嬢のする事だし、そもそも結婚しとう無いんだから意味ないじゃん?
お相手はいずれ来るであろうヒロインちゃん。
ここが漫画やらゲームやらの世界なんだとしたら、ヒロインはいる筈でしょ?だから魅了魔法をその子にも掛けて、両方を(半強制的に)相思相愛にさせる。
あたしは婚約破棄してもろて、お二人の恋路やらお国トラブルの解決を影から手助けすれば後は二人だけの世界。あたしに面倒事は一切無し。最高やんけ!!だから今兎やら鳥やらで練習してんの。自分が将来楽するためなら努力は惜しみたくないからね。
「恋に落ちよ、 愛無き者。
汝の 心に焔 を灯せ。
溺れる甘い夢は汝を狂わす蜜の味。
夢よ、二人の恋路を拓きなさい!」
白兎二羽にやってみたけど効果なし。
もっと杖の振り方を変えてみるか。
「恋に落ちよ、 愛無き者。
汝の 心に焔 を灯せ。
溺れる甘い夢は汝を狂わす蜜の味。
夢よ、二人の恋路を拓きなさい!」
うーん、うまくいかんな...。さすが高難易度。
かれこれ三日くらい合間を縫って練習してたんだけど、呪文は噛むわ効果は無いわで進捗はほぼゼロに近い。呪文を噛まないで言えるようになった今でもなーぜか成功せんのよね。
魔法の才があるのにも関わらずここまでうまくいかないとは...。
「恋に落ちよ、 愛無き者。
汝の 心に焔 を灯せ。
溺れる甘い夢は汝を狂わす蜜の味。
夢よ、二人の恋路を拓きなさい!」
おっ、おー?!近付いてってる?!効果あり?!いけいけもっともっ...あー、離れてった...。惜しいな...。
けどあともうちょっとだったし、もっかい同じ感じにやってみれば...
「恋に落ちよ、 愛無き者。
汝の 心に焔 を灯せ。
溺れる甘い夢は汝を狂わす蜜の味。
夢よ、二人の恋路を拓きなさい!」
あれェ?!効果なしになっちった?!何故...?
さっきうまくいった理由っぽいものを色々書いてみよ...。
数時間後....。
「...恋に落ちよ...愛無き者...
汝の 心に焔 を灯せ...
溺れる甘い夢は...汝を狂わす蜜の味...
夢よ...二人の恋路を拓きなさい...」
「だ...ダメだ....。」
数時間やってるけど一向に成功せん...。
時々近づくこともあるけどイチャつかない...。
もしかしてあれ、魔法関係無く近付いてただけ...?
てか呪文そこそこ長いんだよ...。高難易度になるにつれて呪文が長くなるとはいえさぁ...。
これでもそこそこ短い方ってなによ、なんかのバグ...?
顎と右腕疲れた...。
「日...もう暮れてる...。」
夜の大庭園は勿論暗くて、周囲が見えにくい。下手したら迷子になる可能性もあるし、なによりもうそろ帰んないとエレーナのパパとママに心配かけちゃうな...。
...また...明日かね....。
...いんや、まだ!まだだね!最後にあともう一回やろう!それでダメだったら帰ってまた明日にしよう!
ごめん兎たち!あともうちょっとだけ付き合って貰うよ!
杖の振り方や呪文の言葉の強弱、どこに意識を集中するかなど本に書き留めたのを参考にしながら杖を構えて...。
「恋に落ちよ... 愛無き者。
汝の 心に焔 を灯せ。
溺れる甘い夢は汝を狂わす蜜の味。
夢よ...二人の恋路を拓きなさい!!」
成功して!!頼む!!
兎が近づき始めた...。
よし、このまま....いけいけいけ...は、あぁ!!
い、いちゃつき始めた!!!
成功だよねこれ?!途中でやっぱダメでした〜とか無いよね?!
あ〜嬉しすぎる、まじで嬉しすぎるわ!!
「よーーっっっしゃぁぁぁぁ!!!!!」
........あっ。スゥーー...。
...やっちまった。嬉しさのあまり思わず大声で「よっしゃー!」とかお嬢様らしからぬことを...。
「何者だ。」
ぎゃぁぁぁぁ!!!誰か来てる!!!
あーしかもこの声、まさか...!!
「...何者かと思えばエレーナ侯爵令嬢か。大きな声が聞こえたのだが、何の騒ぎだ。」
フラムルンド殿下だ。さいっっあく...。
「あら!フラムルンド殿下!御迷惑でしたらごめんあそばせ。只今魔法の習得中でして...。遂に成功致したので少しばかり...興奮してしまったのです。」
「...そうか。」
「淑女としてお恥ずかしい限りですわ。」
ひぇぇぇ〜〜怖い〜〜!
その切れ長の眼が怖ぇよぉ〜〜!!
フラムルンド=ザンギエフ王子殿下。この方こそ、我が国「ザンギエフ王国」の王子。
赤黒い髪に琥珀を思わせる切れ長な金の瞳。
こーんな美人な上に王子様だからか基本的には紳士的で丁寧。
...だけど無愛想で公的な場以外では滅多に敬語を使わないような人。
まぁ、無愛想なとこを除けば、こんな人間いたら惚れない人ほぼいないよね。
まぁそのほぼの外に何故かエレーナがいるんだけど。
あたしだって殿下が二次元のキャラだとしたら推してるもん。
そんでもって今、そんな殿下にあたしは睨まれている。
暗い庭園の中で、無表情な金の双眸に。
「...で、君は一体どんな魔法を習得しようと?」
「え?!あ、それは...」
聞くよね!!やっぱ聞いちゃうよね!!!
「何を躊躇っているんだ。...何か、やましいことでも隠しているのか。」
眉を顰めた殿下の睨みが強くなってるのが見なくても伝わる...。
だって言えるわけないでしょうが!!
あんたとまだ見ぬ少女をくっつけるために魅了魔法を学んでるなんてよぉ!!!
「あの...な、仲直りの魔法ですわ!!近頃、庭園の動物間の仲が悪くなっておりまして...。」
ごめん動物たち....!!ほんとは皆めっちゃ仲良いのに悪いって嘘言って...!!
練習台になってくれたお礼も兼ねて今度来るときお菓子あげるから許してヒヤシンス....!!
「成程。不仲を直そうとその魔法を習得しようとしていたんだな。」
「えぇ、えぇ!庭園の子達が喧嘩しているのを見たくは無いですから。それに、友達を失うことは、とても悲しいことですからね。」
「...。」
「殿下?」
殿下の眉が再び顰まり、金の目に陰が落ちる。
何かあかんこと言っちゃったかね....。
「いや、何でも無い。疑ってすまなかった。」
そんな表情も束の間。また、すんっといつもの無表情に戻った。
「いえ、私こそこんな時間に叫んでしまい申し訳ございませんでした。」
「もう暗い。君もそろそろ家に帰るべきだ。」
「ご忠告感謝致します。殿下もおやすみなさいませ。」
「あぁ。」
殿下は城へ...戻ってったよ、ね...?
はぁ〜〜......
...こっっわ!!!!
嘘八割真実二割だったけど何とか切り抜けられた...。中高共に演劇部舐めんな。
しっかしまぁ...無愛想だなぁ...。紳士的とはいえ、ほぼ終始「無」の表情だったじゃん...。
てかなんでエレーナしか知らない筈のここわかったんだよ...。
「はは...つら...。」
はよヒロインちゃん来てくんないかな...。
お久しぶりでございます。若柚子です。
数ヶ月という時を経てようやっと第二話が投稿出来ました。
不定期といえども数ヶ月放置はまずかったですね。
さて、今回は主に魔法についての他、彼女の取り巻きや殿下など人物についても物語らせて頂きました。
また、今作のキーアイテム(?)の「魅了魔法」も登場しましたね。
この魅了魔法によって、どんなドタバタ大騒動が引き起こされるのかお楽しみ頂けると幸いです。
本文と後書きが滅茶苦茶長いにも関わらず見てくださりありがとうございました。
次回もエレーナ達が紡ぐ物語をお楽しみに。
余談ですが、結は話し方から第四の壁が破られてる様に見られますが、別に皆様読者が見えるわけではなくただ虚空に一人話しかけてるだけです。