四月二十五日
四月二十五日
まあ簡単に言ってしまえば、ぼくはあの女の子を助けずに見棄てたってこと。そしてリルは少なくともあの子を助けようと試みたってこと。そう、女の子はきっと死んでしまった。
村で祭があった。最近オオカミが出るとかで、老人や子どもが噛まれたり食われたり。もうすぐ祭だしもうちょっといればどうと、主人に言われて、ぼくらは村の宿に滞在していた。祭は賑やかに始まった。オオカミの件でどこか暗く、墓場じみた雰囲気は忘れられた、少なくともその時は。
三頭のオオカミが来た。ぼくらは丁度子ども達の相手をしていて、同じ年の頃の子ども達と世話をしていた。一番大きいオオカミは一番近い女の子に吼えかかって走り出す。二頭がそいつに続く。ぼくらは凍りついた。
気付いたらリルが走ってる、女の子目掛けて。彼は女の子を抱き寄せて背中をオオカミに向けた。オオカミはちょっとひるんで勢いを失った。しかし突然割り込んできた邪魔者が無力な人間であると気付くや否やリルの肩に噛み付いた。リルは一声悲鳴を上げるとくるりと振り返ってオオカミの腹を蹴ったんだ。一回、二回。
「手伝ってください!」
リルが怒鳴った。ぼくら大きな連中ははっと我に返る。その頃には大人たちも騒ぎに気付き、三頭のオオカミを相手にするリルと女の子を救出しようと棍棒やら包丁、槍などを手に戦闘へ加勢した。ぼくらは子ども達を安全なところへ非難させる。リルがオオカミと戦っているというのに、ぼくときたら「子ども達を安全なところへ非難」させていた。
騒ぎが治まった。ぼくはリルを見舞う。肩の傷はそう酷くなかった、幸運にも。背中もかなり引っ掻かれていた。一番酷いのはふくらはぎ。これは酷い。
女の子は腕と太股を噛まれていた。リルは間に合った、間に合ったけど乱闘の合間にやられたんだろう。傷は深い。女の子は助かるまい。村人はオオカミを二頭しとめ、一頭を逃がした。
村の人々は悲しみにくれていたけれど、リルを賞賛した。なんて勇気のある若者だろう! ってね。どうしてあんなことができたのか? リルはこう答えた。
「ぼく、奴隷だったんです」
村人は、あーぁ、と納得したように頷いた。けどぼくには納得できない。
リルの傷の具合をみて、昨日町をでた。ぼくは最悪だ。さいあく。そう、最低だ。