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三月十九日
三月十九日
久しぶりに大きな街に来た。ぼくらはここでちょっと休むことにして、今日は休暇三日目。リルが面白い本を買ってくれた。買ってくれたんだ。お金は二人で使ってるから買って「くれた」という表現はおかしいけど、まあとにかく贈ってくれた。革張りの、そう大きくない、でもそれなりに分厚い本。ここではないどこか別の世界についての本で、そういう世界を解説している本。ファンタジーは勿論、ぼくが聞いたことも無いような十九の世界を解説している。著者のエンデルヴェリエ・ラシック――愛称エンデ――は、まるで実際に見てきたかのように、そこに暮らしていたかのように書いている。この人、本当に行ったんじゃないかな。さらい風に乗って。面白いことに、ここではないどこか別の世界、という概念は、とある世界には存在しないらしい。へんな話だ。だったらぼくらは存在しないということになる。でもぼくらは存在している。
ぼくはリルに何も打ち明けていない。だからどうしてこの本なのか不思議だけれど、聞かないことにする。
エラーで投稿出来なかった、昨日(十月六日)更新分。