二月二十日
二月二十日
馬を進めていると、二頭の馬が同時に足を止めて動かなくなった。リルが降りて馬をなだめたけれど――――彼は馬の扱いが上手い――――それでも動かない。
「どうしたんだろう? 馬は何もなしに主人の命令を無視しない、きっと何かあるんだろう」
あるんだろう、とリルが言い切らないうちに、彼は眼をまん丸にして驚いた表情を作った。ゆっくり振り向いて顔が引きつる。彼がぼくの顔を見る、やっとぼくにも合点がいった。さらい風だ。さらい風がくる。
リルは馬に飛び乗って、これでもかというくらい強く馬の腹を蹴って――――かわいそうなウィア、彼の馬――――走らせた。ぼくのかわいい従順なホルもウィアに続いて駆け出す。こんなに馬を走らせたのは初めてだった。過呼吸を起こしそうなくらい馬を走らせてさらい風の道から逸れる。絶対に安全な距離を置いたところで、先を行っていたリルが馬を止め、降りてさらい風を眺めた。
おっどろいたなあ。あれがさらい風? そう。見たことないの? うん、あれが初めて。見たか? 何を? 巻き込まれてたやつ。見えなかった。時計だよ。懐中時計、壁掛け、大時計、腕時計――――時間をさらって行ったんだ。
ぼくらは規模の小さい、でも威力のつよい竜巻、ないし旋風が遠ざかるのを眺めていた。田舎にしかこないさらい風。ここではないどこか別の世界へさらってゆく。さらい風がきまぐれでさらっていった時計たちはどこにいくのだろう。そう考えていると、巻き込まれてみたい、いや、巻き込まれればよかったと恐ろしい考えが頭に浮かんだことは、誰にも内緒だ。