七月十六日
無事に帰ってこれた。ジェスにはこれでもかというくらい怒られたけど適当に聞き流した。反省はしてないよ。もちろん。反省はしてない。
さて、ぼくがどこに言ってきたかというと、監獄。まず馬を買った。馬具を揃えて町を出た。二日間馬に揺られて、三日目の朝に着いた。ぼくは監獄で働いてる一人の少年に眼をつけた。そりゃ、囚人を相棒にするわけにはいかないもの。こういうところで働いている人というのは、親がいなかったり、親が犯罪者だったりする。つまり、えーと、奴隷。だから相棒には丁度いい。囚人を監督しているその少年が一人になった時、ぼくは無言で手紙を押し付けた。これは賭けだったよ、だって相手が字を読めるとは限らない。えーと、なんだっけ、あれ…………識字率は七割だから。
ぼくは都で育った。だから都しか知らない、なんてのは大違いだ。ジェスはぼくを……あまりにも…………そう、侮っていた。ぼくをバカだと思っていたけどそれは間違いだ。そりゃ、ぼくはバカだ。上手に喋れないしものをよく知らない。でも、だって、ぼくは図書館に住んでいるんだよ! 世界がどういう風に回っているかくらい知ってる。
話が逸れちゃった。もちろん、ちゃんとじっくり観察して決めた。年齢は近いほうがいいし、あんまりにも目立った顔立ちとかってのは駄目だ。ぼくは手紙を押し付けて、くるりと背をむけ、さっさと愛馬のもとへ立ち去った。後から「おい」とかなんとか聞こえたけど当然無視。
行きしなとおなじように二日かけてのんびり帰ってきた。そして今に至る。今に至る? どこでそんな言い回しを覚えたんだろう?
ジェスの言葉が気がかりだ、彼は、自分にはぼくに対する責任があった。って。それから、うろたえたようにこう付け加えた。
いったいどうしちゃったんだ?
いったいどうしちゃったんだろう。でも、気付いたことがある。最近、どうも場違いな感じ、背中が落ち着かないのとは別のこの感じがしていたのはみんながどうかしたんじゃなくて、ぼくがどうかしたんだってこと。ぼく、どうしたんだろう。