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リベロへ向かうことを承諾した次の日より、国で選ばれた講師による3人の少年の講義が始まった。出発は一週間後の予定だが、リベロで生活していくための最低限の知識は頭に入れておかないといけないため、覚えなければならないことは多かった。
「いいですか、リベロでは拠点で出されるもの以外は食べないようにしてください。もし食べてしまったら、こちらのカプセルを必ず一錠飲んでください。」
モニターに映っている講師はそう言って、白いカプセルの入った瓶を見せた。
「こちらは出発するときに渡します。」
「先生、どうして食べてはいけないのでしょうか?」
「リベロで売られている食品の多くは、微量の毒が含まれています。もし食べるとしても、パッケージにこういった貝のマークがあるものにしてください。野菜や肉類も、栄養剤と称して毒を撒かれているので避けてください。」
講師はそう言いながら、いくつかの瓶詰や袋に入った食品に書かれている小さな貝のマークを見せた。
「こんな小さなマーク、普通のヒトなら訳が分かんないだろうな。」
ヴィヴが小さくつぶやくように言うと、他の二人もうなづいた。
「体に微量の毒を入れ続けるためです。この毒を摂取し続けると、自分でモノが考えられなくなり、上からの指示に従いやすくなります。また、子供も生まれにくくなります。リベロの民は、この毒を何十年にもわたって摂取し続けています。すべては・・・」
「都合のいい奴隷にするために、ですか。」
ジェイは独り言のように言って黙り込んだ。
「支配者にとって、リベロの民がおかしいとこをおかしいと思わず、都合のいいように動いてくれさえいたらいいのです。彼らにとって、リベロの民は家畜のような存在なのですから。食品以外にも、進化を止めたり健康を害するものは多くあります。そういったものをできるだけこの講義で教えますので、決して忘れないでください。」
講師の真剣な眼差しに、3人の背筋は伸びた。リベロとは、相当厄介な場所らしい、と。
講義を受けるにつれ、リベロが厄介な場所らしいと不安になってきた3人は、できるだけ役に立ちそうなデータをタブレットに移したり、必要なものを買い足したりと忙しい日々を送った。
出発する前日遅くまで講義は続き、寂しいという思いにすら浸れず家族との別れの日になった。
「行って参ります。父上も母上も、どうかお元気で。」
ディーが声をかけると、母親は涙ぐみ「無事で帰ってきてね」と答えた。父親はディーの肩を軽く叩き、いつもと変わらぬ様子で「成功を祈っている」と言った。
「じゃあ、行ってくるね。父さん、母さんのことをよろしくね。母さん、面倒がらずにちゃんと朝食は食べるんだよ。」
ジェイが言うと、父親は「任せておいて!ジェイも元気でね~」と答え、母親は「うるさいわね~」と笑っていた。
「ヴィヴ!何かあればすぐに私たちを呼びなさい!」
「安心しろ!俺たちはいつでもお前に味方だ!」
「ちょっと!二人とも落ち着いてよ!必ず帰ってくるからさ・・・」
ヴィヴはもみくちゃにする二人から何とか抜け出すと、少し離れた場所から大きく手を振った。
「お父さん、お母さん、行ってきまーす!」
ディーは、ゲートが閉まるまでこちらを見る両親たちを見ていた。ジェイの両親は穏やかに、ヴィヴの両親は力いっぱい手を振っていた。彼の両親は、母親が小さく手を振り、父親は手を振ることなくこちらを見つめている。
「ごめんね、うちの両親がうるさくてさ。・・・君の両親は、何ていうか、さすがだよね。」
ヴィヴが申し訳なさそうにディーに声をかけた。
「・・・いや、賑やかだなと思っただけでうるさかったわけではない。ああいう人たちを初めて見たから・・・その、少し驚いただけだ。子供思いの、いい親だと思う。」
ディーにそのようなことを言われるとは思ってもいなかったのだろう、ヴィヴは少し驚きながらも、次の瞬間ぱっと笑顔になった。
「ありがとう!俺の大好きな両親なんだ、そう言ってもらえて嬉しいよ。ディーは良いやつなんだな!」
ディーは「良いやつ」と言われてとても驚いた。「優秀」とか「信用できる」と言われることは多くあったが「良いやつ」と言われたのは初めてだったからだ。だが、胸の温かくなる、とても良い言葉だと思った。