4
リリが話し終わると、部屋には長い沈黙が訪れた。
戸惑いと不安が混じった複雑な表情でいる3人の少年を、大人たちはただ見つめるしかなかった。
「・・・もし行くとしたら、僕たちは何をしたらいいんでしょうか?」
いつもと変わらない様子で、しかしつぶやくように話始めたのはジェイだ。
「僕は今までヒトを殺したりすることはしてきませんでしたから、そういうことを期待されてもお役に立てるかどうかはわかりません。」
彼の声は穏やかで、部屋の中の重苦しい雰囲気は幾分和らいだように感じた。
「俺もですよ。まず、リベロがどのくらいの広さで、どのくらいのヒトが住んでいて、どのくらいの文明が発達しているのか・・・何もかもがわからないのに、救い出す仲間を見つけることは難しいと思うのです。今の話をお聞きする限りでは、お返事したくても何も言えません。」
ヴィヴも続けて答えた。
「私も同じです。現地がどのような感じか分かりますか?お役に立てるのならば行きますが、ただ、私たちが現地になじめそうだからという理由だけでは難しいと思います。」
ディーは真っすぐに校長を見つめて答えた。
「・・・リベロに君たちを受け入れてくれる協力者がいる。ただ、今回の任務では君たち3人は別々の拠点で動いてもらうため、別行動になる。それは了承してもらいたい。」
「リベロは1区から32区まである。その中で要となる3つの区を押さえておきたい。まず4区、ここはジェイに行ってもらうことを考えている。ここはリベロの中で勝敗を左右する区だ。・・・次に17区、ここはディーに行ってほしい。4区と同じくらい重要な区だ。・・・最後に22区、こちらはヴィヴに行ってほしい。一番広く、手こずる場所だと思う。」
「我が国だけでなく、他国も この3つの区には特に多く協力者を派遣している。何をするのかは拠点によって違うのだが、ヒトを殺すためだけに派遣するわけではないと言っておこう。国王さまが、直々に君たちを指名してきたのだから、不向きな任務ではないと判断している。」
「国王さまが・・・。」
3人は息をのんだ。
国王が決めたということは、ありとあらゆる情報を精査して決まったことなのだろう。元から自分たちに決定権はないはずなのに、それでも3人の意思を尊重しようとする大人に守られていたことを、3人は瞬時に悟った。
「参ります。」
3人は、ほぼ同時にはっきりと答えた。まっすぐ前を見据えた目に、誰一人として迷いは見えなかった。
「・・・ありがとう。」
校長は、机の上で固く握りしめた手をほんの少し緩めたようだったが、3人に深く頭を下げたので表情までは読み取れなかった。
しばらく沈黙したあと、彼は固い声で言った。
「一週間後にここを発つことになるだろう。・・・どうか、生きて戻ってきてくれ。」
「良かったですね、3人とも納得してくれて。」
リリがお茶を淹れながら校長に声をかけた。彼は、先ほどからずっと窓の外を見つめたままだ。
「ああ・・・。だが、将来有望な少年たちをリベロに行かせる決断をしたことを、この命令をした国王に・・・失望している。」
リリは息をのんだ。
「もっと早くに、私たちの代で終わらせていれば、あの子たちを行かせることはなかったのに・・・!」
「・・・」
「・・・私は、彼らに何もすることが出来ない。・・・彼らの幸運を願うことしか・・・」
「・・・祈りましょう。そして、時が来たら、必ず彼らと戦いましょう。・・・この身を賭しても。」
「ああ。どうか彼らに幸多からんことを。」
彼はそう言うと、ようやく国王の元へ連絡するために電話を取った。