1 序章
『お願い…お願い、目を覚まして…あなたが諦めてしまったら、あなたを救ってくれた人の心が死んでしまう…お願い…』
ピッピッ ヴィーーーーー………
機械の中でぐったりと目を閉じた少女は、ここに運ばれてから一度も目を開けたことはない。
この子だけではない。小さな赤ん坊から、もっと大きな子供まで、目を開けず、声も出さず、たまに少し動くくらいだ。
私の役割は『セラピーベッド』と呼ばれる医療ベッドに できるだけ多くの子供たちを入れて治療すること。
簡単な病気の治療程度なら10分もあれば十分だろう。ただ、ここにいる子供たちは10分では完治しない。
この部屋に医療ベッドは8台、私は詳しく知らないが他の部屋にもあるという。全部でいくつあるのか私はわからない。
そんなことよりも、ひっきりなしに運ばれてくる子供たちの数が多すぎて治療が間に合わない。ベッドが何台あるのかなんて考えられないくらい、治療を待つ子供が多すぎるのだ。
私が、以前勤めていた研究所から この病院に来たのは半年前だ。
ここに来てから、もう一人の医師と交代に最低限の休憩と少ない睡眠時間で、文字通り「休みなく」働いている。
私の仕事は『患者を医療ベッドに運ぶこと』、ただそれだけ。
ひっきりなしに運び込まれる患者を…かろうじて 息をしている状態の子供たちを、
できるだけ 全員 死なせず 完治させること。
ただ それだけ。
私は いつも心の中で、子供たちに祈るように話しかける。
『お願い…目を覚まして…生きることを諦めないで…
あなたが諦めてしまったら、あなたを救ってくれた人たちの心が死んでしまう…
どうか…お願い…』