表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

家族の絆について

作者: えいよう

仕事が暇なので会社に居ながら書き上げてしました。さぼりの証拠です。

 顔を合わせれば挨拶と世間話をするくらいで、顔見知りよりは上だけど仲良しというほどでもない。そんな関係の友人に食事に誘われたので「用事もないのに断るのも悪いかな」と思った私は、彼らの後をほいほいとついて行きました。


 つれてこられた先で隠されていた陣を踏み、魔法の発動を示す魔力光に包まれたところで、やっと私は自分が嵌められたことに気が付きました。


 一瞬の浮遊感の後いきなり目の前の景色が切り替わりました。どうやら仕掛けられていたのは強制テレポートの罠だったみたいです。この手の罠は基本的に一方通行なのでもう引き返すことはできません。


 私をはめた友人達への怒りは湧いてきませんでした。代わりにお父さんの顔が真っ先に浮かびます。心に浮かんだお父さんは目を三角にして「なんでこんな単純な罠にほいほいかかってるんだ!」と私を叱ります。ひええ。


 でもまあ騙されてしまったものはしょうがありません。私は気持ちを切り替えます。切り替えの早いのが私の良いところだと思います。想像のお父さんが「それは切り替えが早いんじゃなくて危機感が足りてないだけだ!」とお説教を続けていますけど気にしません。


 さしあたって状況確認です。辺りを見渡します。王都にある競技場ほどの大きさの広場で、辺りを漂う濃い魔力を含んだ空気は、ここがダンジョンの中であることを示しています。そして、その中心にぽつんと立つ私とわたしを囲う異形たち。

 空に地面に、ワーワーギャアギャアと鳴き声やらうめき声やらをたてるモンスターがいっぱいです。

 そんなモンスターたちが群の中にたった一人放り出されたうら若き乙女である私に気が付いたら、後は説明する必要もないでしょう。一斉に私に向かって殺到してきます。わあい、私って人気者。まったくうれしくないですが。


 ため息を一つ。スカートの上から巻いて、腰の後ろで蝶々結びしていたリボンに触れて「武装顕現」とキーワードを唱えます。するとリボンは光の粒子になってほどけて消え、代わりに私の両手に一対の双剣が現れました。これは虹光剣ラビィエルと極光剣マキエル、私の愛剣です。


 間合いに入った相手から切り捨てていきます。頭上から襲いかかってくる奴には時折魔法を飛ばして撃ち落とします。一体一体はたいしたことありませんがとにかく数が多いです。私はお父さんのように高位精霊を召還して一緒に戦ってもらったり、お母様のように大剣の一振りで大地を割ったり、お兄ちゃんのように魔法でいっぺんに吹き飛ばしたり、姉さんのように絶対防御の障壁を作り出すことはできませんので、ペース配分を考えて一人でこつこつと怪我に気を付けて倒していくしかありません。


 しばらく戦っているとあることに気が付きました。

初めはどこかのダンジョンのモンスターハウスにでも跳ばされたのかと思っていましたが、どうやら違うようです。


普通のモンスターハウスならば出現するモンスターの種類にはそのダンジョンの傾向が強く反映されるもので、アンデット系、獣系、水生系など系統が限定されるものです。しかし、この場にいるモンスター達の系統はバラバラです。

 ガッチョンガッチョンやかましい石造りのゴーレム。

頭上をギャアギャアと鳴きながら飛んでいるのは小型の飛竜。

ヴァーウーとうめき声をあげてにじり寄ってくるゾンビとスケルトン。

いろいろまじりあった奇妙な鳴き声を上げる人造モンスターのキメラ。

 4系統ものモンスターがいます。普通のモンスターハウスではあり得ない構成です。なのでこの場所は普通ではない特別に用意された舞台だということが分かります。


 そしてそのことに気が付くと、私が嵌められた理由まで分かりました。

 石造りのゴーレムは王国魔道騎士団の切り札。近衛を兼ねるこの騎士団のゴーレムがいるということは王族が命じたという事。王国のお姫様はハイエルフであるお父さんに一目ぼれして、しつこく結婚を迫ってきています。

 小型の飛竜はドラゴニュート族がよく使う使い魔。ドラゴニュート族は原色のレッドドラゴンの化身であるお母様を神聖視していて、ひっきりなしに自国へ招こうとしています。

 ゾンビとスケルトンは聖堂教会の裏組織、異端審問会の手駒。聖堂教会は以前から再生と浄化の聖獣フェニックスの化身である姉さんを崇めていて、教会の象徴になってほしいと言っていました。

 人造モンスターのキメラは魔法使い達の組織、時計塔の研究成果。時計塔は異世界の魔法を知るダークエルフのお兄ちゃんをしきりに勧誘しています。


 こんなかんじで私の家族に関係のある組織、勢力の影がちらついています。そして彼らは、そんな超人一家の末っ子で唯一ただの只人族である私を排除すれば、みんなが彼らの希望を聞き入れてくれるとなぜか信じているようなのです。

 これまでにも散発的に命を狙われてきましたが、家族に助けられたり、私自身も家族のみんなに鍛えられていることもあって全て乗り切ってきました。だからきっと今回のこの罠は、業を煮やした各組織達が手を組んで企てたものだと思います。

 そういえば、今日は家族の皆それぞれに用事があって出かけています。もしかしたらこれも各々の組織の作戦なのかもしれません。家族が私の救出に来られないようにしているのかも。なかなか手が込んでいますね。


 え?なになに。 どうして家族なのにみんな種族が違うのか?自称か、パーティの名称なんじゃないか?ですか?

 それは違います。確かに私たち家族に血のつながりはありません。しかし私たちは婚姻の神様の祝福を受けた“家族”です。

 戦いの最中ですが、どうしてこのような形の家族になったかを私の視点から説明いたしましょう。


 まず私は只人族です。只人族の父と母から生まれました。父は冒険者、母は教会で治癒術師をしていました。私の産みの親である只人族の両親を以降は“父”“母”と書きます。

 私がまだ幼い時、大きな戦争がありました。その戦いで父は命を落としたといいます。

 父を失った母は必死に働いて私を育ててくれました。父が死んでしばらく経ったある時、教会に一人のハイエルフが訪れました。それが今のお父さんです。お父さんは母に一目ぼれし、出会ったその日に求婚したと聞いています。初めは断っていた母ですがしだいに絆され二人は結婚しました。お父さんから見れば私は母の連れ子になります。


その時、母と同じようにお父さんにも子供を連れていました。お父さんと血のつながった子供ではなく、養子であったそのダークエルフの子供が私の初めての兄弟、お兄ちゃんです。なんでもお兄ちゃんはこの世界線の生まれではなく並行世界の生まれで、お父さんの異世界同位体というべき存在なのだそうです。

異世界同位体というのは・・・うーん教えてもらったのですが詳細は忘れてしまいました。読んで字のごとく異世界の自分というべきものらしくて、私の異世界同位体がいる世界もあるそうです。普通は世界の壁を超えることはないそうなのですが、お兄ちゃんは何かの拍子にこの世界へ迷いこんでしまったのだそうです。それをお父さんが保護して、養子としたのだとか。

これは蛇足ですが、同位体と言ってもお父さんとお兄ちゃんは見た目も性格も全然違います。お父さんはきりっとしたクールで怒ると怖い人ですが、お兄ちゃんはちょっと暗い感じですが私にあまあまです。

そんな感じで私たち4人は家族になりました。お父さんは私を家族として愛してくれましたし、お兄ちゃんも母のことを慕っていました。


 しかし、私たち家族に不幸が降りかかりました。冒険者であった私の父に恨みのあった人物が復讐のために私と母を襲い、母は私を庇って命を落としてしまったのです。

 お父さんとお兄ちゃんは、母の死に涙を流し、守れなかったことを悔いていました。お父さんは母の墓前で私を立派に育て上げると誓ったのだそうです。

 

 その後、お父さん、お兄ちゃん、私は3人で旅をしました。お母様と姉さんに出会ったのはそんな旅の途中でした。

 お父さんとお兄ちゃんは旅の中でいろいろな活躍して強者として有名になっていました。お母様はその噂を聞きつけお父さんに決闘を申し入れてきたのです。永い時を生きたレッドドラゴンであるお母様は、強者を見つけては勝負を挑むという挑まれた側からすればはた迷惑な趣味を持っていました。お父さんとお母様の決闘は熾烈を極め、最終的には龍の本性を現したお母様をお父さんが精霊術で下して決着となりました。

私とお兄ちゃんはその勝負の最中に、お母様が連れていた子供、今の姉さんと遊んで仲良くなりました。遊んでもらったといっても、この時お兄ちゃんも姉さんも100才は超えていたので、幼い私と遊んでもらっていたという方が正しいですね。

 敗れたお母様はお父さんにほれ込み、旅についてくるようになりました。初めは迷惑そうであったお父さんですがお母様の熱烈ラブコールに負けて結婚することとなりました。

 姉さんはお母様の連れ子であったのですが、例によって実子ではなく、当時お母様が住んでいた住処の寝床にいつの間にか置かれていた卵から孵ったのだそうです。お母様は「長生きしたけどフェニックスが托卵だとは知らなかった」と当時を思い出して笑っていました。

因みに、お兄ちゃんと姉さんでは姉さんの方が100才ほど年上とのことですが、すらりと背が高いお兄ちゃんに対して、姉さんはまだままフェニックスとしては雛の段階らしいので背がちっちゃくていつも逆に見られます。

 

 こうして今の家族が出来ました。

ハイエルフのお父さん。

異世界人ダークエルフのお兄ちゃん。

ドラゴンの化身のお母様。

フェニックスの化身の姉さん。

 只人で末っ子の私。

 5人家族です。私たち5人に血のつながりというものはありませんが、何よりも硬い絆で結ばれた家族なのです。今では私は産みの親と過ごした時間よりもこの家族との時間の方が長くなっています。


そんな感じの私たち家族は旅をして世界中を回り、色々な事件や戦いに首を突っ込んでいった結果、最強一家として有名になりました。ただの人である私も、お父さんからは精霊術、お兄ちゃんからは魔術、お母様からは龍闘気、姉さんからは法術をそれぞれ習い、只人の中ではやれる方になったのではと思っています。


 さて、自慢の家族のことを語っていたら最後のゾンビを倒してしまいました。

 ゴーレム300体、小型飛竜1000匹、ゾンビとスケルトン3000体、キメラ2000体。空が見えないので、どれだけ時間が経ったかは分かりませんが、さすがに疲れました。あとはこのダンジョンを抜けるすべを探さなければなりません。お父さんに見つかる前に家に帰らないと想像のお説教が現実のものになってしまいます。

 はーやれやれとため息をついていたら視界の隅で何かが動きました。生き残りがいたのかを思って視線を向けると、なんと倒したモンスターの死体と残骸が一か所にあつまっていくじゃあありませんか。おぞましいその光景を呆然と眺めていたら、最終的に一体の巨大なドラゴンゾンビが出来上がりました。ゴーレムの残骸がご丁寧にも鎧のように体表を覆っています。

 ボスのご登場といったところでしょうか。もうひと踏ん張りしなきゃいけないようです。

 

 ドラゴンゾンビの咢がグワッと開きブレスが放たれます。とっさに法術の障壁で防ぎます。バチバチ障壁とブレスが干渉しあい激しい音を立てます。強力な瘴気を含んだブレスの様です。私の障壁では防ぎきれそうにありません。

 障壁が破られる前に身体能力を向上させる龍闘気を纏ってその場から飛びのきます。間一髪でした。障壁を破ったブレスが当たったところはドロドロの沼みたいになっています。

 さて反撃です。龍闘気を纏ったまま突っ込みます。床がドロドロになってしまったので精霊術で精霊に加護をもらい沼の上を走れるようにします。

 すれ違いざまにドラゴンゾンビの前足に双剣を叩き込みます。しかし鎧になったゴーレムの残骸に阻まれダメージを与えられません。ならばと魔法を放ってみましたが、これもダメージは薄そうです。

 困りました。

 私は家族からいろいろな技を習っていますが、どれも中途半端にしか使えません。二流どころか三流がせいぜいといったところです。自分なりに習った技術を組み合わせて、何とか体裁を整えているといった感じです。

 おっと危ない。振るわれた爪が掠りました。皮膚に触れたところがシュワシュワします。爪にも瘴気が乗っているようです。

 こうなってしまったら仕方ありません。ちまちまやってもダメージを与えられそうにないのなら、どでかい一発をぶちかますしかなさそうです。

 精神を集中して龍闘気の出力を最大にします。そして同時に精霊術で体を魔法への親和性を高める加護をかけます。ラビィエルとマキエルには法術と魔法のエンチャントをありったけ付与します。

 行きます。精霊術で木の根を操りドラゴンゾンビ巨体を縛ります。動きを封じてから炎やら氷やら雷やらの魔法の矢をありったけ叩き込んで隙を作りつつ、懐に飛びこみます。十文字、両袈裟、水平切りに突き突き突き。間断なく攻撃を叩き込みます。

頭上からドラゴンゾンビの苦しそうなうめき声がきこえます。手を止めず攻めまくります。

じゅわあ。背中に痛みが走りました。どうやら腹下に潜り込んだ私に向かってドラゴンゾンビがブレスを吐いてきたようです。めちゃくちゃ痛いです。龍闘気で防御を高めていますがそれでもすごく痛い。でもココで引いたら負けると私の勘が訴えてきます。どちらが先に倒れるか根競べです。

痛みを堪え剣を振るうと切っ先に硬いものが当たりました。それはどくりどくりと鼓動のような明滅を繰り返す宝珠でした。そういえば、前にお兄ちゃんから魔法を教わった時に、キメラなんかの合成モンスターにとってこの宝珠は心臓のようなものだと教わったことを思い出しました。倒したモンスターの中にキメラがいましたし、ゾンビやら飛竜やらゴーレムやらが集まってできたこのドラゴンゾンビもキメラみたいなものでしょう。

私はありったけの魔力と力を込めた双剣を宝珠に叩き込みました。家族のみんなから教わったことを全部使った私の最強の一撃です。さしものドラゴンゾンビも大きくぶっ飛んでいきました。

 残心を維持したまましばらく観察しましたが、再び動き出す様子はなさそうです。


 今度こそ終わった。

 手にしたラビィエルとマキエルが光の粒子になって解け元のリボンの姿になりました。愛剣たちも限界を超えてしまったようです。ちらっと背中を見るとひどい有様でした。あまりにひどいので見なかったことにしました。せっかく長く伸ばしていた髪の毛もうなじのあたりまでしか残っていません。とりあえず戦いは終わったので今度こそダンジョンから抜け出すすべを探さなければなりません。

 

 しかし、安心し出来たのはほんの一瞬だけでした。敵は私の想像を超えて用意周到だったのです。

 どこからともなくゴゴゴと音がして地面が細かく揺れ始めました。天井からは埃と小石が落ちてきます。この感じは知っています。この広場が崩れようとしているのでしょう。

 早く脱出しないとと思い、一歩踏み出した私の足が意思と関係なくカクンと折れました。

およ?

 どうやら最後の一撃で体力を使い果たしてしまったみたいです。身体を起こそうと両手に力をこめますが、がくがくと震えるばかりでちっとも持ち上がりません。身体を仰向けにするのがやっとです。魔力も使い切ってしまったみたいでだんだん意識まで薄れてきました。


 揺れはだんだん大きくなり天井から落ちてきたブロックが地面にあたって砕けます。壁や床にひびが走り段差になっていきます。


 ここが私の最後の場所か、せめて空が見えるところが良かったなあ。

 私は、家族全員で空を飛んだ時のことを思い出していました。家族の中で私だけ自力で飛べないのでドラゴンの本性を現したお母様の背中に乗せてもらって飛びました。私だけ飛べない事が悔しくて、自力での飛行方法を次までに完成させてようと決意しましたが叶いそうにありません。そう思うと、途端にとても悲しくなって鼻がツンとして目じりから涙がこぼれます。

 お父さんまた油断してしまいましたごめんなさい。お母様負けてしまいましたごめんなさい。お兄ちゃん夕飯作れなくてごめんなさい。姉さん怪我をしてしまってごめんなさい。帰れなくてごめんなさい。

 私はみんなに謝りながら意識を手放しました。


◇◇


 ほわほわほわ。

 なんだか優しくて温かな感じがします。姉さんの癒しの術の感じに似ているなと思いながら目を開けたら、目の前に姉さんの顔がありました。首をめぐらすとお父さん、お母様、お兄ちゃん、家族全員の顔がありました。みんな怒ったような泣きそうなような悲しいような形容しがたい表情をしています。

 みんな、どうしたの?と言おうとしたら口がうまく動かなくって、あふぅとため息だがうめき声だかわからないものが漏れました。そうしたらみんなが私に向かって一斉にしゃべりかけてきました。お父さんは怒り気味に、お母様は涙声で、お兄ちゃんと姉さんは嬉しそうに。

 

 私はやっと自分の身に何が起こったのかを思い出しました。私はダンジョンの中でドラゴンゾンビと共に瓦礫につぶされて死んだはずです。だとしたらここは死後の世界でしょうか?でも、だとしたらみんながいるのはなぜでしょう?


 お父さんが私を抱きしめてきました。力いっぱい抱きしめられてちょっと苦しいなとか思っていたら、耳元で湿った声で「心配したぞバカ娘」と言われ、私は自分がみんなに助けてもらったことに思い至りました。

 これは後で聞いた話ですが、おのおのの用事で出かけていたみんなは揃って右手の人差し指に着けていた指輪が燃え落ちたことで私の危機を知ったそうです。この指輪は、家族の誰かに危険が迫った時に離れたところにいてもそれ知ることが出来るようお兄ちゃんが作ってくれた魔道具でした。誰が危機に陥っても分かる仕様でしたが、基本的に一番弱っちい私の危機を知らせる為の道具でした。

 みんなは私の危機を知ると最速で駆けつけようとしてくれたみたいですが、おのおのの組織の妨害に合い、駆けつけるのが遅くなってしまったとのことでした。

 みんながココに駆け付けた時、私は瓦礫につぶされる三秒前といった感じで本当に危機一髪だったとのことでした。そしてさらに、崩れ去るダンジョンからみんなで脱出して、姉さんに回復法術をかけてもらった後もなかなか意識が戻らず、最悪の結果がみんなの頭をかすめたと言います。

 お父さんと交換して今度はお母様に抱きしめられました。「よかったよ~」って号泣しながらぎゅっとされました。お母様はきりっとしててクールでかっこいいんですが、涙もろいところがあります。ギャップがあってかわいいと思うのですが今は心配かけて申し訳ない気持ちでいっぱいです。ぎゅっと抱き返し耳もので「心配かけてごめんなさい」と謝ります。

 お兄ちゃんが私の頭をぽんぽんとして、上着を貸してくれました。背中のけがは姉さんの法術ですっかり治っていましたが、着ていた服はボロボロになってしまいました。買ったばかりのお気に入りだったから残念です。

 姉さんがすっかり短くなってしまった私の髪の毛を撫でて「整えてあげるからね」と言ってくれました。私は姉さんのきれいな長髪にあこがれて真似して髪を伸ばしていたので、これが今回の出来事で一番悲しいことでした。


 家族の体温を順番に感じているうちに、いつの間にか私は涙を流していました。

 もう家族に会えなくなるかもしれなかった恐怖。それをみんなにも感じさせてしまったことに対する申し訳なさ。みんなが助けに来てくれた感謝。そしてなにより、こうしてみんなにまた会えた嬉しさが合わさって、お母様と同じくらい泣いてしまいました。


◇◇


 それからのことを少しお話致します。

 その日は家には帰らず、秘密の隠れ家で一晩過ごしました。

 久しぶりにみんなで並んで眠りました。お父さんとお兄ちゃんは嫌がったけど、わがままを言って一緒に寝てもらいました。ちっちゃいころに戻ったみたいであったかい気持ちになりました。


 翌日は朝からみんなでお礼参りです。

 お兄ちゃんがしっかりと回収していたドラゴンゾンビの宝珠の解析結果から得られた物的証拠と、昨日家族の合流を邪魔しようとした状況証拠がそろっています。

 これまでの暗殺未遂はなあなあで済ませて、実行犯にお仕置きをして終わりでしたが、今回はみんなぷんぷんになっています。被害者である私が一番冷静なくらいなので、みんながやりすぎてしまわないように止めなければいけない有様でした。

 そしてそんなお礼参りの結果、

 王国から白亜の宮殿が消え。

 とあるドラゴニュートの集落が地図からなくなり。

 時計塔が崩壊し。

 大聖堂が灰になりました。

 殺してはないですよ? 象徴的な建物が無くなって、首謀者とかそのあたりの方々がすかんぴんになっただけです。

 でもそれぞれ世間に影響力の大きいところばかりでしたから、その後しばらく世間はざわざわと混乱していました。そしてその混乱の中「あの一家には手を出すな」という不文律が生まれたみたいです。

 

 今私たち家族は世間を離れ、隠れて過ごしています。

 あちらから手を出してきた事とはいえ、世間に大いに騒がせてしまったので目立つ活動を自粛することにしたのです。お母様が昔暮らしていたという霊峰の麓に一軒家を建て、みんなで暮らしています。

みんなとのんびり暮らすのはとっても楽しいです。でもお父さんが「お前がやられそうになったのは修業が足りないからだ」って言い出して、私はみんなから再教育を受けることになってしまいました。各分野が三流から二流にレベルアップするまで続けるそうです。修行はきらいじゃないですが、みんなすっごく本気なので毎日ヒーヒー言いながら走り回っています。

私が次に町に行けるようになるのは、髪の毛が元の長さになるくらいかかってしまうかもしれません。




誤字脱字、アドバイスなど頂けると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ