スタイリッシュな女怪盗は、もと悪役令嬢が経営するもふもふいっぱいのダンジョンで異世界転移者のおっさんに泣きつく
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もと悪役令嬢はダンジョンを経営しているだけです。本文中には一切出てきませんので、ご了承お願いいたしますm(_ _)m
「ここから出たくないんですっ」
アデーレは、大量のもふもふをその身に絡ませたおっさんに訴えていた。
「どうかアタシを雇って下さい!何でもしますっ」
ここは最近人気の『もふもふダンジョン』。難易度は中程度だが、堕ちる者が続出の郊外不思議スポットである。
しかし廃人になる者はいない。
その手前で伝説の『もふげん様』に導かれ必ずクリアできる親切設計なのだ……!
「そうだなぁ」おっさんは穏やかに言った。
「君はここがすごく好きなんだね」
「はいっ」アデーレは力一杯うなずく。
「ここにはアタシを見張る人なんて、居ませんから!」
―――アデーレは怪盗だった。『無理なく無駄なく美しく』をモットーに私腹を肥やす悪人から盗み尽くしては貧しい民衆に施す。
その『盗みの美学』に満ちたスタイリッシュな姿勢は多くの支持を得、ついにはファンクラブまでできた。
ファンの暴徒化を防ぐためと実は内部にもファンがいるため、警察からさえも目こぼしされる女怪盗。
彼女を見張る者など誰もいない―――
はずだった。
しかし、ある時1通の手紙が彼女の元に舞い込む。
それが、全ての始まりだった。
『×月×日、×時に貴女はトイレに丸1時間以上こもっていましたね。ボクはこれをファンの皆に告知します。
分かって下さい。これも貴女のためを思ってのことなのです。
―――貴女に常にスタイリッシュでいてほしい、1ファンより』
最初は気にも留めなかった。
その人物は『やりすぎ』と皆から叩かれた、と聞き、そんなものだと思っていた。
しかし、やがて、筆跡の違う同内容の手紙は2通、3通、そしてドンドンと増えていったのだ。
「カツ丼はダメ、イビキをかくのはダメ、試着して盗まないのはダメ……!放っといてほしい!」
思いの丈をぶつけるアデーレに、おっさんはウンウンと絶妙なタイミングで相鎚を打つ。
「辛かったね」
「……!そうなんですぅ!」
心につかえていた何かがとれ、涙となって一気に溢れる。
アデーレはおっさんの胸を借り、もふもふに包まれながら、ひとしきり泣いたのだった。
「さてまだウチのスタッフになる気はあるかな?」
「いいえ!アタシ、もう1度やってみます!」
おっさんに己の知識を全て与え、足取りも軽くダンジョンを後にするアデーレ。
数日後、ファンの前に現れた彼女はこう宣言したのだった。
「スタイリッシュの基準はアタシです!不満ある者は去るが良い!」
その堂々とした姿は、神々しくすらあったという―――
こうして世界にまた1つ、新たな宗教が誕生したのでした。
2019/9/26 誤字訂正しました。報告下さった方、ありがとうございます!