140字小説集 第4巻
2月14日の朝
バレンタインの朝、目が覚める。……二度寝したい。
さっきまでチョコレイトの様な夢を見ていたからだ。
夢の中では、彼が心底美味しそうに私の手作りチョコを頬張っていた。
「……夢を現実にしなきゃ」
飛び起きて出かける支度をする。現実の彼は甘い物が好きだといいのだけど。
戦略的撤退
今日も私は悔しさを噛みしめる。
「また逃げた」
「あの子はいつもそう」
「だから駄目なんだよ」
言いたい奴は、勝手に言わせておけばいいわ。
これは逃走では無い。戦術的撤退なのよ。
今に見てなさい。その言葉、訂正させてあげる。
だって降伏の白旗は、まだ揚げては無いのだから。
アニメのヒロイン
そのアニメが放送していたのは10年前。
ヒロインの青い髪がとてもキュートだった。
私は彼女が大好き。
冷たい世間はそんなキャラいたっけ? と忘れてしまっている。
私は絶対に忘れない。
部屋に大切に飾られたフィギアに呟く。
「全部、君のおかげだよ」
彼女の声で、お礼を言った。
彼女のコーラ
あまりに暑いので自販機でコーラを買う。
一口飲むと、コーラが好きだった彼女を思い出す。
彼女はいつも大きなサイズの缶コーラを買い、もう飲めないやと僕に手渡す。異性から渡されたコーラは少し妖しく、甘美な味だった。
思い出しながら飲んだ新品のコーラは、どこか味気がなかった。
屍の彼女は愛を食す。
私はゾンビになって街を徘徊している。
多分、私はもう死んでるのだろう。生きてる様に偽ってるだけだ。
昔見た映画では、誰かが蒔いた何かのウイルスが原因だったので、私が屍になった理由もたぶんそれだろう。
思考は、大好きな貴方を食べたい事しか考えられない。
この気持ちは食欲だろうか。それとも愛情だろうか?
……どうでもいいか。
どっちにしろ、貴方に会いたかった。
今日は会えると良いな。
廃墟と化した街で、私は腐敗した足で貴方を探し続けている。