表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女王と竜狩りの騎士  作者: にひけそい
2/3

第1ー2


 飛来するナイフ、その刃が緑色に輝いてるのを見てジークは咄嗟にそれを躱した。

 ナイフが突き刺さった部分を確認すれば大理石の天井が黒く染まっており、毒性の強い物をナイフに塗りつけてあった事がわかる。

 ジークの首筋にナイフ押し当てていた時に毒は塗られていなかったため、ジャックは複数のナイフを隠し持っているか、一瞬で毒を仕込める何かを持っているか、その両方を持っているということになる。

 

 「ま、どれであろうと関係無いけどな」


 呟いてジークがシャンデリアから飛び降りた瞬間、風切り音が彼の耳に届く。

 視界に入るのは4本の弓矢と2本のナイフ、風の流れから察するに背後から何かしらの飛び道具が4本。

 空中では身動きが取れないと判断しての事だろうが、そこを警戒しないジークでは無い。

 身体の捻りのみでナイフと弓矢を躱し、ギリギリ身体に当たる軌道に残る2つの何かを足で蹴って、叩き落とす。

 ジークが床に着地すると同時にコインの落ちる音、どうやらコインを投げつけてきたらしい。

 それを確認するのと同時に、扉へと全力で走る。

 アカザを含めれば、現在は14対1。

 勝てない訳じゃないが、ジークにとって最も気がかりであったのはリースの事であった。

 ジークがリースを支持している事がバレている現状、リースを人質に取られても、若しくはリースが死んでいた場合でもジークにとっては敗北だ。

 

 「ちっ、カトル!出口塞げ!」

 「了解、『超装甲フルアームド』」


 ジークの背後からジャックと少女の声が聞こえると、王の間の唯一の出口に立方体の半透明な塊が突然現れる。

 魔力を固めた何かであろうが、止まる訳にはいかない。

 

 「うおおお!!」


 裂帛の気合いと共に轟音、走った勢いそのままに拳をその塊に叩きつけた。

 だが、半壊しつつも立方体は依然と残り続け、出口を塞いでいる。もう一発叩き込めば、壊れるだろうが、既にジークの背後にはジャックが迫っていた。


 「ひゃあ!」


 鈍い輝きが風を切り、ジークの首筋に振り下ろされる。ジークは上体を床すれすれにまで落として、それを躱しつつ、拳をジャックの脇腹に叩き込んだ。

 更に、一瞬動きが止まったジャックの足元を払い、体制を崩しつつ、両手での発勁を彼の胸元に撃ち込み、吹き飛ばす。

 その次の瞬間、八方から殺気。

 ジークが気づいた次の瞬間には8の刃が彼に向かって振り下ろされていた。

 それぞれの振り方も違い、当たるタイミングすら同一では無い8つの斬撃、どれ程の達人でも避けようの無い一撃。

 しかし、ジークは曲芸のように飛び上がり、身体を斬撃の間に滑り込ませて無傷で回避する。

 

 「なっ!?」


 それは誰かの呟き。

 メシャリと嫌な音が鳴り、マントの下に隠された素顔が判明する間もなく、1人の身体が壁に叩きつけられた。

 それを認識して他の7人からも動揺が伝わってくる。


 「さて、あと12・・・いや、13か。そんな動き辛いマントなんて脱いで、全力で来い」


 その言葉を聞いた彼ら全員がマントを脱ぎ捨てる。

 マントの下に隠されていた素顔は。


 「成る程・・・後であんたに聞きたいことが山ほど出来たよ。アカザ」


 ジークの視界に移ったのは全く同じ7つの顔であった。全員が白い髪に白い肌、紫の瞳をしており、全く見分けがつかない。

 ジークに斬りかかってきたのはこの7人と先ほど吹き飛ばした一人、残りはジャックと入り口を塞いでいるカトル、それと未だにフードをかぶり続ける3人にアカザ。

 ジークはそれらを見渡して、胸糞悪そうにため息を吐く。


 「少し手荒になるが、早々に終わらさせてもらうぞ。色々と気になることが出来たからな」


 ジークが呟くと同時に彼の全身から魔力が立ち上った。

 本来、魔法として形にしなければ力を持たないはずの魔力はその圧倒的な量により、圧すら持ち始める。

 

 「死にはしないだろうが、一生動けなくなるくらいはあると思えよ」

 「ジークラインよ、少し待て」

 「あ?」

 「これはなんだと思う?」


 そう言ってアカザが取り出したのは大きめの水晶体。その奥には1人の少女が映っている。

 

 「まさか・・・」

 「そのまさかだ。お前は最初にリースの元に向かおうとしたようだが、そもそも私がお前相手に無策で挑むと思ったか?今回は急造部隊であるこいつらがどれほどの性能を持つのか試したかっただけだ。元々、リースには私の使い魔を飛ばしてある」

 「・・・・ちっ、わかった。好きにしな」

 「話が早くて助かるよ。ジャック、彼に『魔封石』の手錠を」


 ジークが魔力を霧散させ、両手を後ろに回すとジャックが手錠を嵌める。

 ジャラリと鎖の音が鳴り、手錠が嵌められるジークの全身を強い倦怠感が襲う。

 

 「シスとユイットはドゥの奴を治療してやれ、カトルとサンクはジークラインを天牢獄に。ではな、ジークライン、我が国の英雄よ」

 「アカザ・・・あんたの思い通りには進ませねえよ。俺は絶対リースを王の座に着かせる。この国の正統なる王家に」

 「・・・貴様、まさか」

 「わかってんだろ、ウロ・・・」


 ジークの言葉は最後まで続くことは無かった。

 彼の頭をアカザの錫杖が打ち据えたためだ。

 

 「此奴を早く天牢獄に封じよ」


 アカザが呟く。

 そして、ジークライン、この国最強の騎士は『天牢獄』に繋がれる事となった。



♢ ♢ ♢



 薄暗い牢獄の中、檻の中のジークは楽しそうに話し、目の前のリースも優雅に話す。

 その様はまるで王宮の一室で密談を交わす王女と騎士のようだ。


 「やはり、アカザは姫様を他国に送ろうとしてきたか」

 「ええ、後4ヶ月以内には行動を起こす必要があるわ」


 リースはそう呟いて少しだけ表情を暗くする。4ヶ月、それは長いようで短い、彼女の目的を考えればどう見積もっても足りないのだ。

 

 「心配するな・・・とは、言えない。まだまだやることは多い。だが、落ち込んでいる暇が無いのも事実だ。わかっているな」

 「ええ、分かっています。では、計画の修正から始めましょう」

 

 リースの計画は元々、王選、次の王に相応しい者を候補者の中から国民投票で選ぶ、において、兄であるナルサに勝利する事であったが、王選の開催は7ヶ月後、つまりこのままいくとリースは王選に参加することすら出来ない。

 頻繁に天牢獄を訪れるとアカザからの警戒を強められてしまうため、滅多に訪れることは無かったが、リースは最近は殆ど毎日ジークの元を訪れている。


 「王選への参加が出来ない以上、他の候補者を引き摺り下ろすしかない。姫様以外の後継者候補がいなくなれば必然的に姫様が王になるからな」

 「ですが・・・」

 「わかっている。血を流すのは無しだ・・・まずは落としやすい部分から攻めるか」

 「と、言いますと?」

 「六男から順に候補権利を捨てさせていくぞ」


 愉快そうにそれでいて、どこか面倒くさそうなジークの声音に多少の疑問を抱きつつも、リースは彼の計画に耳を傾けた。








 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ