6:逃げて逃げて
アーシルとセアは道を外れて森の中を進んでいた。
「しくじったなー」
アーシルはため息をもらす。
つい1時間ほど前、2人は拓けた道を歩いていたのだが、途中で巨大な熊型のモンスターに出くわした。
孤児院にいた時にも戦ったことのないタイプであったため、相手の実力はわからない。討伐依頼を受けているわけでもないため、リスクを侵してまで戦闘する必要はないだろうと2人は判断した。
幸いモンスターはこちらに気づいておらず、森に入り迂回して通り抜けることにした。
訓練で森に入った経験は何度もあったので、迷う可能性は考えてなかった。
しかし、今回入った森では、巨石、沼、毒を含む刺毛をもつ草等が進路を阻み、迂回に重ねる迂回を強いられた。それでも、進み続けると、やがて繁る木々が太陽を隠してしまい、気づけば方向を見失ってしまった。
こうして今にいたる。
アーシルは一度立ち止まり思案する。
「セア、これ以上進むのは危ないかも」
「うん…セアもそう思う…」
2人は来た道を戻ろうとした。通った道の木々にはナイフで傷をつけて来たため、それを辿れば元の場所には戻れるはずだ。
振り返り、目印を確認していると、セアがビクッと体をこわばらせた。
「あっ…」
アーシルがセアの視線を辿ると、遠くの方に、木々の隙間から、黒々とした巨体が見えた。
「…!あいつは」
森に入る原因となった、熊型のモンスターだ。
「追いかけてきたの…?」
「まさか、別の個体じゃないか?」
「でも…あれ…」
アーシルはセアに言われて、モンスターを観察する。
モンスターは木の傷を確認していた。1つの確認すると、次の木の傷を。明らかにアーシルとセアのつけた目印を追いかけている。とすれば、恐らく同じ個体なのだろう。1時間も追いかけてきたことになる。2人の痕跡を辿って、真っ直ぐとこちらに。
嗅覚や聴覚に頼るのでなく、人間のつけた目印を追跡できるとすれば、知能の高いモンスターなのだろう。
だとすれば、余計に戦闘は避けたい。ましてや、森の中は相手の領分、迂回したせいで不利な状況に陥ってしまった。まだ拓けた道で戦っていた方がましだったかもしれない、とアーシルは歯噛みする。
「分が悪い。セア、逃げよう」
「うん…」
アーシルとセアは、気配を殺し、極力痕跡を残さないように森の中を駆け抜けた。
モンスターを撒いたことを確認できた頃には、2人は完全に道を見失っていた。