4:魔法の適正
「…氷矢!」
セアが手をかかげると、氷でできた矢が放たれ、ネズミ型モンスターの一体に命中する。
攻撃に気づいた残りの2体がアーシルとセア目掛けて走りだした。
「…氷矢!」
セアがもう一度氷の矢を放ち、さらに一体を倒す。その間に、最後の一体が距離をぐんぐんとつめていく。
「セア、あとは任せて!」
アーシルは槍を構え、モンスターを迎撃する。知能の高くないタイプは、突進に合わせて槍で突くだけで簡単に倒せる。
孤児院のときからの手慣れた方法で、アーシルはモンスターを一突きにした。
時間にして1分も経たないうちに、アーシルとセアは3匹のモンスターを倒した。
しかし、アーシルの表情は浮かない。
「…どうしたの、アーシル?」
「僕が魔法を使えたら、もっと簡単に倒せたのに…」
「アーシル…焦る必要ないよ」
「でも、孤児院を出るまでにできるようになりたかったよ。あんなに練習したのになぁ」
アーシルは魔法が使えない。ただし、魔力がないわけではない。
「氷矢!」
アーシルは、先ほどセアが使ったのと同じ魔法を唱えた。
アーシルの手に魔力が集まり、氷の矢を形成していく。
しかし、氷は矢になりきる前に霧散してしまった。
「駄目だ、やっぱりできない」
「魔力は出てるし、手順も完璧…魔力の集中も途中までは上手くいってるのに…」
アーシルが魔法を使えないことには、孤児院のシスターも首を傾げていた。通常、魔力が集中しだせば(氷矢で言うなら、矢を形成しだせば)、放っておいても魔法が発動するのだ。
しかし、アーシルの魔法は、ことごとく魔力が途中で散ってしまう。
「一回コツを掴めばできるようになると思うんだけど…」
魔法が得意なセアにも、この現象が起こる理由は見当もつかない。
ただ、アーシルには魔法を使えないことを補うように、優れた身体能力と、滅多に怪我をしないほどの丈夫さを兼ね備えていた。
孤児院でも、その身体能力を活かして、魔法が得意なセアよりも多くのモンスター討伐をなし得ていた。
「セアから見れば、アーシルの身体能力が羨ましいんだけどね…」
セアはふふっと笑って、アーシルの肩をぽんぽんと叩く。
「もしかしたら、旅の途中でアーシルのその症状がわかる人に会えるかも…」
「そっか、そういう可能性もあるかもね」
セアに言われて、アーシルは気持ちが少し楽になった。
2人は再び、北に向かい歩き出した。