3:北へ
コルグの街を出たアーシルとセアは、とりあえず北を目指して歩いていた。
行くあてがあったわけではない。理由は単純に、セアが雪を見たいと言ったからだ。
コルグの街は温暖な気候で、雪はめったに降らない。最後に降ったのは12年も昔のことだ。
「雪ってどんなのだろう」
「覚えてないだけ…アーシルが孤児院に来た日は雪が積もるほど降ってたよ…」
セアはその光景を思い出しながら、うっとりとした顔をしている。アーシルは、セアから何度もその話を聞かされていたので、一度雪を見てみたいとも考えていた。
「セアがそこまで言うなら、よっぽどすごいんだろうね」
「うん…きれいだった」
セアにとっては、雪はアーシルを運んできた特別なものだった。それだけに、アーシルが覚えていないのが悔しくもあった。
「アーシルも雪を見ればきっと思いだすよ…」
セアはアーシルににっこりと笑いかけると、とことこと歩き出した。アーシルもセアに続いた。
しばらく進んだところで、セアがふと足を止める。
「アーシル…あれ」
セアの視線の先には、ネズミ型のモンスターが3匹いた。この付近ではよく出現するタイプだ。
孤児院でも、訓練で何度も倒していた。比較的弱いモンスターだが、繁殖力が強いので、見かけた時には念のために倒しておく方が良いとされている。
「コルグの街も近いし、倒しておこう」
アーシルとセアは武器を取り出す。
アーシルは槍をメインに、片手剣をサブとして使う。コルグの孤児院では、近接戦闘が得意な者には、槍の使用を推奨している。子供の体でも扱いやすく、モンスターとの距離をとりながら戦えるため、負傷するリスクも下げられるからである。間合いを詰められた場合は、片手剣で対応する。
対してセアは、遠距離から得意な魔法で攻撃する。また、近接が苦手なわけではなく、短剣を使いそれなりに戦うこともできる。 ただし、体が小さく力も弱いので、あくまで距離を詰められたときの対処としてだ。
孤児院では、いかにダメージを負わずにモンスターを倒すかを教える。戦闘中の回復は難しく、1つの怪我からあっという間に死につながることも多い。そのため、不意討ちや距離をとった戦いが推奨される。今回も基本に則り、モンスターに気づかれない位置から攻撃をしかけることにした。
アーシルの合図で、セアはネズミ型のモンスターに向けて魔法を放った。