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スリーピングナイト  作者: 深崎藍一
1章 出会いと呪いの交錯
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1章ー裏話 風の侍女の受難

ユキノ視点のこれまでの裏話です。

「これは困ったことになりました。」


 王都の真ん中で佇みながらひとり呟く。長く垂らした漆黒の黒髪にそれと同じく深い黒の瞳を珍しく少しだけ動揺に揺らしている。


 その少女の名はユキノ。今はアルカナという領主に仕える少女である。その主人の命により今日はある少女の侍女、そして護衛としてこの世界の中心としても名高い王都に来たはずなのだが、問題はその少女。


「どこに行ってしまったのでしょうか、本当に困った方ですね...」


 なぜこんなことになったかと言うとそれは少し前に遡る。


***********************************


「わぁ、ユキノすごい賑わってるわね。さすが王都の中心街、みんな楽しそう。」


 こうして周りを笑顔で見渡しながらまるで周りの幸せが自分のことであるように振る舞う少女。これが暫定とはいえど私の主人。

 見た目はとても冷たそうに見えるが実はこのように感情豊かで優しい心根の持ち主である。まあ、見た目が冷めて見えるのは人のことを言えないのだが。


 そんな少女をすれ違う誰もが振り返り立ち止まり見惚れる。当然だ。白い肌そしてそれに映えるきらめく銀髪。言うまでもなく整った顔には透き通った海のようなサファイアブルーの瞳が嵌りその下にはスラっと整った鼻筋が通っている。どこからどう見てもずば抜けて美しい少女だ。


 そんな少女が周りを見渡しながら楽しそうに何ならスキップを始めそうなレベルの足取りで花が咲いたような笑顔を振りまいているのだ。 

 男はもちろん、同性であれ、老若男女が立ち止まりその笑顔に釘付けにならずにはいられない。


 しかしそれを見て私は無表情で少女に


「エスメラルダ様。王都の中心街が初めてで浮かれる気持ちはわかりますがこれからアリバーズ卿へ顔見せするという大事な仕事がありますからここで時間を使うわけにはいきませんよ。」


 主が浮かれている分私が気を張らなければならない。そんな思いを胸に秘め淡々と告げる。何しろ実は私も王都に来るのは初めてなのだ。主には敵も多いため、いつ何時何が起きてもおかしくないため常に警戒は怠ってはいけない。


「わかってるわよユキノ。私も子供じゃないんだから。」


 主はそんな言葉を口にして自信満々そうだが、そのすぐ後には、あ、あの店すごい!などと言っているため心配が絶えない。


 しかし、私は決して主が嫌いなわけではない。むしろ好印象の部類であるといってもいい。もちろん世話が少し焼けるし本人にその自覚がないのは困りものだが、その人当たりのいい性格はほぼ万人に好かれるだろうし。正義感が強く助けを求める人は決して放っておかない。そこでたとえ自分が損をしてしまうとしても決して立ち止まらない。 

 そんな姿を幾度となく見ているおかげで私の主の印象は良いものとなっている。あまり表には出せないのだが。


 そんなことを考えているとふと意識が現実に戻される。少し遅れてから自分が声をかけられたと気づく。少し目線を下にすると小柄な恐らくドワーフと思われる老人が私に話しかけていた。


「すまんが、ちょっと道を聞きたいんじゃが。」


 一瞬悪い癖で警戒しかけたが、どうやらただ道を聞きたいだけのようだ。一瞬迷うが目的地に聞くに有名な場所だ。初めて来る私でも知っているしここからも数分で着く。だがエスメラルダの護衛という仕事があるので断ろうとするがその瞬間エスメラルダが


「ユキノ、おじいさん困ってるんだから助けてあげなきゃ。案内してあげたら?ここから遠くないでしょ?」


 その言葉に少し耳を疑う。いつものエスメラルダなら自分で案内すると言い出し私も渋々着いて行くというのがいつものパターンなはずなのだが。疑問の目でエスメラルダを見ると一瞬ですべてを理解する。


表情から察するにエスメラルダは自分にこのおじいさんを道案内させることで、時間を作りこの中心街を少しでも見て周りたいのだろう。

 人助けもできて自分も店を見て周れて一石二鳥だと思っているのが渾身のドヤ顔からわかる。ただひたすらにしんどいのは私なのだが。


 しかし護衛を外れるのは回避したいと思ったのだが


「大丈夫、こんな大通りで何か起きることはないわ。それに私が一人でもすぐにやられるはずないってわかってるでしょう。」


 期待に満ちた目と、確かに言っていることも正確なので渋々了承する。


「はぁ...わかりました。私はこのおじいさんを送り届けてきます。10分もかからずに帰ってきますので必ずそれまでには...そうですね、あの時計台の下で待っていてくださいね、絶対ですよ。」


 最後にもう一度だけ念押しすると、目的地におじいさんに合わせた歩幅で進む。これは予想よりかかりそうだなと思いつつ歩を進めた。


 やはり予想より少しかかったものの概ね時間通りに無事におじいさんを送り届け時計台に戻って来る。しかし、こちらは予想とは違い既にエスメラルダが待っていた。少しとはいえ主を待たせてしまったため謝罪を口にする。


「すいません、待たせてしまいましたか。」


 少し駆け足で主に元まで近寄ると主人は物珍しいものを見られてとてもご機嫌そうだった。


「ご機嫌そうで何よりです。ではアリバーズ卿の屋敷に向かいましょう。」


 そして主は大きく頷いて予定通り屋敷に向かう


ーーはずだったのだが。


 ここで物語は冒頭に巻き戻る。


 場所は先ほどの中心街から少し遠ざかった路上。


「油断してました...まさかこんな一瞬の隙にいなくなってしまうとは。」


 ほんの一瞬ここから先の貴族の居住スペースとなっているエリアはかなり似通った建物が建ち並びさらにつくりも複雑に入り組んでいるため念のために道を聞いたのだ。 

 

 その一瞬で主がまさかの失踪を遂げてしまった。


 しかも、いくら中心街から少し離れたといえどまだまだ人通りは過剰に多く正直いなくなった人間を探すのは困難を極める。

 しかもエスメラルダは本人は気づいていないが極度の方向音痴だと聞いているためなかなかに状況は悪い。


「あれで満足したと安心していたのが間違いでした。」


 割と普段は神に愛されていると称されているほどに何事も完壁にこなすのに、相変わらず変なところが抜けている少女である。


「ひとまず、エスメラルダ様が興味を持ちそうな店を片っ端から見るしかないですね。」


 そう決めると、ユキノの行動は迅速だった。エスメラルダが興味を示すであろう店を手近なところから片っ端から捜索していった。

 実はすれ違いで向かいの店から出てきたエスメラルダがユキノの不在に気づき持ち前の方向音痴さを発揮しフラフラと元々来た道を戻っていったのは知る由もなかったのだが。


「これは本当に参りましたね。完全にはぐれてしまいましたね。」


 数分後、粗方店を探し終えたものの、エスメラルダは見つからず途方に暮れていた。一旦落ち着いて状況を整理するため路地裏へと入り込み今に至る。


「これは、探知魔法を使うしかないですかね...」


 ユキノがエスメラルダの護衛として王都についてきた理由の一つがこの探知魔法である。周囲の風の情報を読み取りあとは簡単だ。エスメラルダほどの濃い魔力ならいとも簡単に見つかる。唯一の問題は王都は強者揃いだということだが、その大部分は騎士であり王城の警護に当たっているはずなので判別がつく。


「集中しなければならないのと、広範囲となると魔力の消費が問題なんですけどね。」


 しかし、ここは人気のない路地裏でありエスメラルダほどでは無いものの魔力量には自信があるため目を閉じ魔法を発動させようとする。


 しかしその時今まで静けさで満ちていた路地裏に耳に障る声が響き渡る。


「あーくっそ、あの野郎ども次に会ったら覚えてやがれ。絶対にただじゃ済ませねえ。」


「でも、あれは正解だっただろ。どうみてもあの女は普通じゃなかった。無理して喧嘩でもしてみろ。俺らが返り討ちにされてたぜ。」


 声の正体たちはいかにも路地裏にいそうな風体の六人の男達だった。特徴的なのが男のうち一人が腹部を抑え仲間に肩を貸してもらって歩いていること。

 集中を乱された為思わず男たちを睨みつける。すると腹部を抑えた男が慣れた様子で突っかかって来る。


「おい、お嬢ちゃん。そんなに睨んで文句でもあんのか?ん?」


 いかにもというセリフを吐きながら突っかかって来る無遠慮な男だが周りの男たちやんわりとが止めると、


「うるせえ!今日は黒髪の男にこんな目に遭わされてイラついてるんだよ。そんな時にまた黒髪の奴が因縁付けてくるんだから、落ち着いてられるか!こいつで鬱憤晴らしてやるよ。」


 そう言って支えていた男の腕を振り払いこっちに襲い掛かってくる。私はそれを嘆息しながら見つめつつ拳を握った。


 結果、数秒後、襲い掛かってきた男は5メートルほど離れた壁に激突し、腹部の次は顎にダメージを食らい完全に意識を失っており仲間が大急ぎで男を抱えながら捨て台詞すら残せずに去っていく。

 もう一度深く溜息を吐くと去って行った男たちを一瞥した後、男たちが言っていた言葉を思い出し、呟く。


「黒髪の男...?」


 脳裏に懐かしい情景を浮かべ一瞬感傷に浸りかける、その瞬間。


「っつ...!」


 急にすさまじい魔力を感じ臨戦態勢に入るしかし、思考を切る時間が隙になった。瞬間路地裏が眩い光に包まれる。あまりの光量に思わず目を閉じる。


 次に目を開けると目に飛び込んできたのは草原。


「あの魔力、転移魔法...しかもここはどう見ても王都の外。やられました...」


 目の前に広がる草原、そしてーーーおびただしい量の人。


 その誰もが手に武器を持っており、中には魔力を感じる人間までいる。どう見てもその人数は三桁に達しており、さすがに骨が折れそうだと今日何度目かわからないため息を吐き出す。


 実際のところ、眼前の集団は時間さえかければ問題なく無力化もしくは殲滅できる。しかし、前のそれは明らかに時間稼ぎ。つまり、エスメラルダの身に何らかの危険があるということ。


 そこまでに思考が達したとき、自らの失態に唇を噛む。もしこれでエスメラルダの身に何かあれば失態どころかアルカナ様達にも顔向けできない。焦りが生じるのを感じながら魔力を練りつつ一歩前に出る。敵側にも緊張が走る。


「待て。双方それは僕が許さない。」


 そんな時だった。私の後ろからやけに理性的で澄んだ声が響いたのは。ものすごい覇気を感じ反射的に後ろを振り向く。


 そこに立っていたのは。整った顔に燃えるような紅い瞳。輝く金髪を丁寧に整えた美丈夫。王都で恐らく一番有名な騎士であり。古くから代々受け継がれてきた最高の剣士に与えられる誉ある称号「剣帝」の名を受け継ぐ、王都最高の騎士、円卓十二剣が一翼、名実ともに最強の騎士、グラン・アストロ。


 その凄まじい威圧感を受け、私を除く全ての人間が気圧され動けなくなっている。それも当然のことだ。圧倒的実力差をそのまま叩きつけられているようなものなのだから。


「女の子一人相手に感心しないな、どうだい、今すぐに武器を下ろし魔力を沈めてこの場を去るのなら僕も追いはしない。」


 そう言ってもう一度目つきを鋭くし覇気をぶつける。それが合図だ。集団はこれ幸いとばかりに蜘蛛の子を散らしたように逃げ去って行く。


 グラン・アストロはそれを悠然と見送ると、私の方を向き柔和な笑みを作ると礼儀正しく話しかけてくる。


「お久しぶりです、確かユキノさんでしたよね?アルカナ様のお屋敷の。」


 一度しか会っていない自分を覚えていたことに少し驚いた後、まずは礼を口にする。


「ええ、お久しぶりですね、グラン様。ありがとうございます、助かりました。」


 するとグランは少しはにかむと、いえ、騎士として当然のことですのでと返すと真剣な顔を作り聞いてくる。


「さっきの集団とはいったい何が?」


「わからないんです。転移魔法をかけられて気づいたらここに...」


 と返すと、何か引っかかるようにグランは転移魔法?と呟く。


「何か気になることでも?」


 その様子に私が尋ねるとグランは、ええ。と前置きした上でこう続ける。


「最近、有名な暗殺集団が王都に入ったと聞きまして。確か一員に転移魔法を使う輩がいたはずです。」


 それを聞き再び私の思考は白熱する。


「暗殺集団っ!まずい、やっぱりエスメラルダ様が危ない。」


 私のその様子と呟きから緊急事態を察したのかグランも心なしか顔を強張らせる。


「グラン様、走りながら探知魔法を使います。騎士の出番ですので協力していただけますね!?」


 その問いに「剣帝」は無言で頷くと私たちは走り出す。王都の外といってもすぐ近くだったのでまだ助かった。私たちは常人には考えられないスピードで草原を走り抜け王都の門を潜り抜け街の中を疾走する。


 エスメラルダの所在自体はすぐ分かった。私とはぐれたので一早くアリバーズ邸を訪れたようだった。しかし問題はその中、一部では大きい魔力がぶつかっており、玄関付近には大きな魔力が一つと消えそうな小さな魔力と恐らくアリバーズ卿だろう。魔力を持たない気配が一つそして全体には奇妙な魔力が漂っている。


 本来、集中した状態でしか使えない魔法を全力で運動を行いながら発動しているため魔力がかなり消費され脳が処理に追い付かず頭が痛むが、その緊急を要する状況にさらに疾走を加速させる。

 

 一瞬も無駄にできないためアリバーズ邸に着くまでに横を走るグランに状況を説明していく。


 あらかた状況を話し終えた頃、視界の端にアリバーズ邸が見えてくる。最後にグランに単純な作戦を伝える。


「グラン様、玄関から正直に入るのは時間の無駄です。私が玄関付近の壁をぶち破って相手の片方を抑えますので、グラン様は奥の壁をぶち破ってエスメラルダ様を援護して合流してください。」


 相当無茶苦茶なお願いをしているはずなのに剣帝は静かに顎を引き承諾する。ついに問題のアリバーズ邸の前だ。塀を飛び越え、一瞬だけグランとアイコンタクトをとると、室内の妙な魔力を警戒し、念のため風の鎧を体に纏わせそのままの勢いで跳躍し、目標のいる地点付近の壁を蹴り抜く。


 轟音が同時に二か所で鳴り響き、私の足には鈍い感触が当たりそれを力のままに蹴り飛ばす。白髪の男が吹き飛び壁にぶつかる。


 砂煙が収まるのを待ち、状況をよく観察する。廊下はひどい有様だ、使用人と思わしき人間の死体が転がり、血が飛び散っている。そして、その廊下の角には体に数本のナイフが刺さり倒れているアリバーズ卿。そして、私のすぐ足元には。


ーーー黒装飾に身を包んだ黒髪の少年。


 思わぬ光景に、今日二度目の懐かしさと息苦しさを覚えて、それを吐き出すように思わず口から出してしまう。


「--に...」


 しかし、その言葉は最後まで紡がれることなく件の少年自ら遮られる。


「危ねえ、後ろ!」


 その声を聞き正気に立ち戻る。するとすぐ後ろに蹴り飛ばした男が迫っているのを感じる。しかし私は動じず、使い慣れた風の魔法を詠唱する。


「...ウィンドブロー」


 初歩的な風の魔法だが鍛え上げ方が違う。すぐにその詠唱は凶悪な暴風となって再び男を吹き飛ばす。しかし、男も冷静に受け身を取り着地する。

 すると男がこちらを見ながら、顔を歪める。すると室内に満たされている妙な魔力が発動し、私に攻撃を仕掛けるも突入前に発動しておいた風の鎧がそれを完璧に弾いて見せる。


 私にどういう仕組みかは分からないが魔力を通して攻撃を仕掛けてきたナイフが音を立てて四方に飛ぶ。


 男の顔が驚愕に染まる。今にもなぜと聞いてきそうだったので先んじてネタバラシをする。するとさらに男の驚愕は深くなる。

 それもそうだろう、体に魔力を纏うというのは私のようによっぽど魔力の扱いに長けた種族でもない限り無理だ。


 それで察したのか男は言ってくる。


「その容貌、あのお姫様の護衛の風魔族だろ?だったら、お姫様とはぐれたのをこれ幸いと思って差し向けた刺客はどうした、こんな短時間で戻って来れるほどヤワじゃないはずなんだが。」


 嫌な光景を思い出し、顔をしかめそうになるも相手に飛ばした場所の悪さとその理由わけを教えてやる。


 すると奥から凄まじい音と共に人影が飛んでくる。恐らく、エスメラルダと戦っていたはずの人物だろう。それと共に澄んだ声が響き悪態と共に剣帝が現れる。


 そしてその後ろには安否を心配していた、主の姿。少し安堵が増し気が緩みそうになるも、今一度気を引き締め直す。

 

そして剣帝の指示通り少年をエスメラルダのところに連れていく。そしてこの戦いの行く末を見届ける。


 剣帝の予想通り目の前の二人は有名な暗殺集団だったらしい。「吊人ハングマン」イド、「狩人」のエゴ。私でも聞いたことのある有名な殺し屋。


 しかし、そんな相手でも剣帝は剣すら抜かず、悠然と二人に選択肢を与える。投降か抵抗か。当然、暗殺者二人の逆鱗に触れ剣帝を鎖とナイフが襲う。

 だが、知るものは知っている。彼が世界から与えられた祝福を。予想に違わず壊れたのは男たちの獲物の方だった。


 驚愕の表情を浮かべ剣帝の参戦を呪う相手に向かって容赦なく剣帝、グラン・アストロは剣を抜き放ち裁きの時を勧告する。

 しかし、閃光が屋敷内に轟き剣が振り下ろされるその瞬間、部屋の中に全く気配なく異物が入り込む。その全身をローブで覆った男の魔力には覚えがある。あの忌々しい転移魔法使い。


 即座に風の刃の魔法を詠唱し、攻撃を仕掛ける。


「ウィンドブラスト!」


 風の刃がローブの男を切り刻まんと襲い掛かるが、紙一重届かない。暗殺者三人は消え失せる。悔しさに自分でも顔が曇っているのがわかる。しかし、少し首を振っただけで何とか切り替えて見せる。


 すると、視界の端でエスメラルダと少年が何事か話し始めたので、私はグランに礼を言いに行く。


「グラン様、ありがとうございました。あなたがいなければエスメラルダ様を守り切れたかどうか。」


 そう言うと、とんでもないと手を振って否定して見せる。


「さっき、エスメラルダ様にも言った通り奴らを逃がしてしまったことには反省しかないよ。」


 と謙遜して見せるが少し真剣な顔を作ると、忠告してくる。


「恐らく、今回のことは後継者のことが原因だろう。つまり、今回みたいなことは今後も必ずある。エスメラルダ様と共に行く限り、必ず。」


 確信しているという風に言い切る剣帝の言葉をもう一度体に刻み込みながら頷く。


「肝に銘じておきます。」


 その返答を聞きグランは満足そうに頷くとそろそろと言うと、屋敷の外に向かっていく。


「そろそろ僕はお暇するよ。これだけ派手にやってしまったからね、そろそろ衛兵が押し寄せてもおかしくない。詰め所に急いで事後処理しておきますので、あとはお任せください。」

 

そう言い残し超速で去って行く剣帝を感謝の念を込めて見送りエスメラルダの方を振り向くと既に少年との会話を終えなぜか晴れやかな顔をしていた。

 その元に向かい少しの時間しか離れていないはずなのに随分と長い間離れていたように感じる主の無事を祝福する。


「エスメラルダ様、色々と言いたいことはありますがひとまずはご無事でなによりです。」


 そのあと、剣帝の所在を主に伝えた後に本題に取り掛かる。


「...一体この少年は?」


 自分に過去を想起させる少年。正直ここにいる経緯も含めて全てがわからない。しかし、主から返ってきた答えも全く参考にはならなかった。


「わからないわ。」


「わからない?」


 思わず聞き返してしまうも主も私と同じように不思議そうに、でも私とは違ってどことなく楽しそうな表情をしていた。

 その表情からすべてを察し、一つため息をついた後。これからアルカナ様の屋敷に帰る旨を伝えた後、帰りの手配をするため屋敷の外に向かって歩きだした。

 

そして、彼女らの姿が見えなくなった所で先ほどは少年にかき消された言葉を口に出す。


「兄さん...」


 自分がどのような表情をしているかもわからないまま、帰り道彼の話をエスメラルダから聞きながらユキノの一日は終わっていくのだった。




このような経緯でツヅミとエスメラルダは出会って実はユキノも大変な目に遭ってましたというお話。ユキノの過去やいろんな設定のお話でした。

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