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スリーピングナイト  作者: 深崎藍一
1章 出会いと呪いの交錯
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1章ー5話 アリバーズ邸決着

エスメラルダ視点から始まります。それと少しだけ一話を改訂しました。ツヅミ君の容姿描写とちょこっとした変更です。ちなみにツヅミ君はちゃんと強くなっていくからね、一応彼の成長物語だから。

 白銀の剣と殺意をはらんだ鎖がぶつかり合い火花を散らす。一つでも判断を間違えば四肢のいずれかが持っていかれてもおかしくない。

 そんな静かでいて極限の戦闘が休まることなくすでに10分近くも行われている。一方は焦りに顔を染めながら、もう一方は高揚と興奮で顔を歪ませながら自らの武器をふるい続ける。


 その舞台に奇しくもも選ばれてしまった応接間はすでに原形をとどめていない。壁には二桁に届くであろう穴が開き、至る所に鎖の跡が走り、さらにはエスメラルダの氷結魔法によって家具や床が凍り付いている。


 つい先ほどまでの、華美な印象は見る影もなく既に廃墟の一室のような出で立ちへと早変わりしてしまっている。


「っつ...!」


 当然そんなことを気にしている余裕はエスメラルダにはなかった。ただでさえ、実力が拮抗しており、目の前の男を斬り伏せるのは相当の魔力と時間を要すると判断しているのに、こちらには焦りが生じているために精神的有利は圧倒的に相手にある。


 そのために必死に自分を落ち着けようとしているのだが、性格的に考えてこの少女には無理だった。誰かが危機に瀕しているとわかった上で自分を落ち着けられる程エスメラルダは器用な性格をしていなかった。 

 自分を落ち着けようとすればするほど先ほど廊下から響いたうめき声にも似た悲鳴や、先ほどから感じる妙な魔力のことが頭をよぎり、より一層焦りが生じてしまう。


それに対して相手の男は、この戦闘を心の底から楽しんでいるであろう戦闘狂バトルジャンキーである。何より厄介なのはこの男が余裕をもって戦闘に臨んでいることだ。つまり相手は最悪今は足止めで良い、そう思いながら戦っている。 

 恐らくは、他にも仲間がいるのだろう、その仲間が恐らく屋敷内の殲滅を担って最後にツヅミとアリバーズさんを仕留めてこっちに向かってくれば確実に仕留められる。そう思っているからこその余裕、相手に意外に目的を見失わない冷静さと、頭があることに歯噛みしながらも剣を振るう。


 そうなのだ、もしも仲間が来て、多数対一の状況になれば確実に命をさらわれる。その事実がさらにエスメラルダの心から余裕を奪って行く。この状況を作り上げたのが相手だとまでは思わなくても、この状況はエスメラルダにとっては最悪に近い状況だった。


 そんな中だった、再び苦悶の声が聞こえた。自分が巻き込んでしまった何の関係もなく、何の罪もない少年の声が。それを聞き何とかこらえていた感情がついに爆発する。


「そこをっ、どきなさいっっ!」


 体からは無意識に冷気が発せられ、振るう剣も力強くなる。その瞬間再びアリバーズ邸に衝撃が走る。響いたのは声ではなくただの音。

 しかしそれは、エスメラルダに最悪を予感させるには十分なものだった。再びエスメラルダから凍えるような魔力が溢れ出し部屋の大気が震える。


 しかし三度、アリバーズ邸に轟音が鳴り響く。今度はすぐ近くで。一瞬の静寂ののちにその原因がわかる。巻き起こった煙の奥に人影が見える。そしてゆっくりとこちらへと向かってくる。


 万事休すか、と思いせめて最後まで戦おうと覚悟を固め人影を睨みつける。


「え...?」


 煙の中から現れたのは...


***********************************


 目を閉じた瞬間轟音が鳴り響く。薄れゆく意識を押して目を開けると先程までアリバーズさんの方向にゆっくりと向かっていた男が吹き飛ばされていた。

 状況がわからずに視界をずらすと、一人の黒髪の少女が、壊れた壁の前に佇んでいる。


 俺はようやく状況を理解する。信じがたいが佇む少女が壁をぶち抜き白髪の男を蹴り飛ばしたのだ。その現実離れした光景と少しの光明に閉じかけていた目を必死に開く。


すごく、落ち着いた印象を醸し出す少女だった。長いサラッとした黒髪に、目を隠すように伸びた前髪、しかし、顔は驚くほど整っておりエスメラルダといい勝負だ。 

 わずかに前髪の中から覗く瞳は髪と同色の深い黒。服は派手でもなく、かといって地味では決してない黒と白のツートンの侍女の装い。衣装は洋風ながらも思わず大和撫子という言葉が真っ先に浮かんでしまう。


 その見た目から、一人の人物の名前が浮かんでくる。


「ユキノって人なのか...?」


 そのつぶやきが聞こえたのかは分からないが少女はこちらを無表情で一瞥すると、何事か言葉を発しようとする。


 しかし少女の言葉が発せられる前に、俺の声がそれを塗りつぶす。


「危ねえ、後ろ!」


 少女がこちらを向いた一瞬の隙を狙って、吹き飛ばされた白髪の男があり得ない速さで少女の後ろに回り込みナイフを振り上げていた。思わず今日何度目になるかわからない叫び声をあげる。


 すると少女は後ろを振り向くことすらせずに小声で詠唱して見せる。


「...ウィンドブロー」


 その瞬間、凄まじい風が吹きすさび再び男を弾き飛ばす。しかし男は全く怯まずに着地すると口元を緩ませる。それを見てあの不可避のナイフ攻撃が飛んでくると察し再び声を上げかけるもそれは杞憂に終わる。


 不可避のはずのナイフが甲高い音を立てながら弾かれ、四方に散り壁や床に刺さる。さすがに男もこれは予想外だったのか。初めて顔を曇らせる。それを見て、少女が先んじて口を開く。


「なんで、と言った顔ですね。簡単なことですよ、こんな奇妙な魔力が漂っている場所で魔力的干渉を警戒しないわけがないじゃないですか。体を風の魔力で作った鎧で包んでおきました。」


 それを聞きさらに男の表情が変化し驚愕へと変わる。その反応からそれが恐らくとんでもないことなのだろうと察し、この世界で出会った人間たちの力のインフレ具合に吐息を漏らす。


 すると男はついでにという風に質問を投げかける。


「その容貌、あのお姫様の護衛の風魔族だろ?だったら、お姫様とはぐれたのをこれ幸いと思って差し向けた刺客はどうした、こんな短時間で戻って来れるほどヤワじゃないはずなんだが。」


 すると、少女は嫌なことを思い出すように顔をしかめながら答える。


「ええ、本当にめんどくさいことをしてくれましたね、エスメラルダ様を探そうと探知魔法を使おうと目を閉じた瞬間に転移魔法を使われて郊外に飛ばされたと思えば三桁近い敵に囲まれていたんですからね...」


 顔は笑っているが、よほどひどい目に遭ったのか心なしか笑顔が黒く周りの大気が震えるような気がするほどだ、しかしその表情を再び無表情に変え、しかしと前置きすると言い放つ。


「ただし、飛ばす場所が悪すぎたんですよ。さぼり騎士様の根城の近くだったみたいですので。」


 その言葉が終えられた瞬間、またしても今日何度目になるかわからない破壊音とともに閃光がほとばしる。それと同時に何か黒い影がすさまじい勢いで飛んでくる。それは人。


 先ほどまでエスメラルダと戦闘していたはずの鎖の男がこちらに弾かれたように飛んでくる。それを白髪の男が受け止める。するとやたらと澄んだ声が響き渡る。


「ひどいな、剣の修練をして襲われてる女の子を助けたのにそれをさぼりと称されるとはね。」


 奥から現れたのはまるで輝いているかのように錯覚させるような男。白を基調とした衣服に身を包み一目見れば忘れられないような整った造形をした顔には目を合わせただけでもどんな女性でも見入ってしまうであろう深く情熱的な紅。

 そして頭にはちょうどいい長さに丁寧に整えられた金髪が輝いている。まさに騎士の鏡といったような男だった。その手には恐らく先ほどの衝撃を生んだであろう大仰な騎士剣が握られている。


 そしてその後ろには、少しの傷はあるもののほぼ無傷と言って言っていいエスメラルダの姿。安堵で再び保っていた意識が飛びそうになるも、物語の結末を見逃さないために残る気力を振り絞って何とか意識を保つ。


 そんな中、任務の王城の警護やってないから一緒でしょ、とぼやく少女の言葉を笑顔で受け流しながら男は


「エスメラルダ様は、アリバーズ卿とその少年に回復魔法をお願いします。後のことは僕にお任せください。ユキノさんも下がっていいよ。」


 そう述べると、やはりユキノと呼ばれた少女が動けない俺を抱えてエスメラルダとアリバーズさんと合流したのを見届けると男たちに向き直りこう言う。


「君たちは、その鎖使いに白髪のナイフ使い、王都の騎士の中でも有名だよ。鎖使いのイドとナイフ使いのエゴ。やたらと強い殺し屋がいるってね。先日も騎士団が数名返り討ちにされたって聞くよ。」


 すると少年は少し目つきを鋭くすると堂々と宣言する。


「さて、そんな君たちには選択肢がある。一つ目は、大人しく投降すること。僕としてはそうしてくれると非常に助かる。そして二つ目これはあまりお勧めしないけど、僕を相手に仕事を推し進めるか。」


 どうする、と男が続ける前に二人の暗殺者は返答替わりといった風にナイフと鎖で攻撃を仕掛ける。しかし男は微動だにせずその強力な一撃を傍観するだけだった。


「な!?」


 その自殺行為にも等しい行動に絶句するも横でユキノは冷静に諭してくる。


「大丈夫よ、彼の場合はあれは全く効力をなさないから。」


 その言葉の通り男は全くその場から一切動かず逆にナイフは砕け鎖は粉々になっていた。さすがに予想外だったのかイドとエゴは少しだけ焦りを顔に浮かべる。


 男は涼しい表情を崩さず、再び宣言する。


「見ての通り僕にこういう攻撃は利きません、そういう祝福を持ってますので。今のうちに投降することを勧めますが。」


 しかしもちろん、二人はその忠告には応じない。しかし、彼らの表情からは焦燥が抜けきらない。彼らもわかっているのだ。この状況は割と詰みに近いということも、目の前の男との実力差が絶望的だということも。


 エゴが呪詛を込めるように呟く


「くっ、まさか円卓十二剣の一翼、しかもグラン・アストロ。アストロ家の次期当主にして今代の剣帝が介入してくるとは。しかし今代の剣帝は噂通りのバケモノっぷりですね。」


 グランと呼ばれた青年は、不敵に笑い、目つきを鋭くすると剣を振り上げる。すさまじい威圧感が周りに立ち込め先ほどと同じような閃光が周りを包み込む。


「僕のバケモノの力は君たちみたいな冒涜者を裁くためにある。君たちもいい加減観念して罪を償う時だ。」


 裁きの剣が振り下ろされるその瞬間、その裁きの中心に新しい人影が舞い降りる。


「それは少し困る。」


 何の気配も感じさせずいとも簡単にこの手練れぞろいの空間に降り立った人影に一同は反応が遅れる。ローブを被ったその人物は性別さえも判断させない声色でこう言い残す。


「まだこいつらを失うのは困る、残念だがここは痛み分けとしよう。」


 その瞬間俺の横で事を見守っていたユキノがいち早く反応し、すぐさま風の魔法を放つ。


「あいつ、私に転移魔法をかけた...そうはさせません!ウィンドブラスト!」


 男のしようとしていることを察し、無数の風の刃を放つが一歩遅い。風の刃は空を切り壁に無数の切り傷を刻み込むだけに終わる。


「...油断しました。まさかこの期に及んで第三者が介入してくるとは。」


 心底悔しそうにしているユキノに対してグランが声をかける。するとユキノは無念そうながらも終わったことを気にしてもいられないのだろう。首を大きく振り悔しさを振り払うと無表情を保つ。


 それを見届けたグランは恭しく腰を折るといまだ俺とアリバーズさんに回復魔法をかけ続けているエスメラルダに言葉をかける。


「申し訳ありません、エスメラルダ様。あなたを傷つけた不逞の輩をみすみすと逃してしまいました。この僕の一生の不覚です。この罰はいかようにでも。」


 そのセリフを完璧な所作で言い終えたグランを見て。エスメラルダは呆れたように

 

「そんなに公的な場所でもないところで畏まらなくていいわよ。それに助けてくれた相手に罰なんて与えるわけないじゃない。」


 するとグランも恐らくはただの形式上のほんの儀礼のようなものだったのだろう。すぐに顔を上げると次は少し真剣な顔を作り直し聞く。


「エスメラルダ様、あまり申し上げにくいのですが恐らくこの襲撃は後継者争い関係のものだと思います。何か心当たりなどはありませんか?」


 すると、珍しくエスメラルダは顔を曇らせ下を向き小さな声でこう答える。


「うん、私もそうだと思う。あの鎖の男も最初から狙いは私だって言ってたし。私のせいでアリバーズさんや関係のないツヅミにまでこんなひどい目に合わせちゃった。」


 そうとても悲しげな眼でつぶやくと俺のほうを見てその揺れる瞳のまま俺に謝罪してくる。


「ツヅミ、ごめんね?こんな目に合わせちゃって、きっと私やアリバーズさんを助けるためにこんなに頑張ってくれたんでしょう?全部私のせいなの。私には敵が多いから本当にごめんなさい...って痛い!」


 俺はエスメラルダの長い謝罪を途中でかろうじて動かせるようになった手を動かし額を小突いて止めると、驚くエスメラルダの目を見て告げる。


「なあ、エスメラルダ。前にエスメラルダが言ったんだろ?俺も一緒だ。謝ってほしいから助けたんじゃないよ。もっと便利な言葉があるだろ?」


 そう言うとエスメラルダは笑った様な泣いた様なそんな表情を浮かべて笑ってこう言った。


「ありがとうね、ツヅミ私たちを助けてくれて。」


 その笑顔の美しさに呆けながら、口を開こうとするが今度こそすさまじい睡魔が襲ってきて意識を保つことができなくなり次第に瞼が落ちていく。そしてやがて瞼が完全に閉じるまで俺はエスメラルダを見ていた。


***********************************


「寝ちゃったか...」


 そう私が呟くとユキノが待ちかねたという風に声をかけてくる。


「エスメラルダ様、色々と言いたいことはありますがひとまずはご無事で何よりです。」


 そうやって、先ほどの騎士と同じように腰を折る従者を見て苦笑しながら先ほどから姿の見えない騎士の所在を訊ねる。


「グランは?」

 

ユキノは顔を上げるといつもの無表情で淡々と告げる。


「グラン様なら先ほど出ていきましたよ、さすがにこれだけ派手にやりましたからね。そろそろ、衛兵が押しかけてきてもおかしくないということで、事後処理とあの男達の捜索に手配を全て行うと言って大急ぎで詰め所に向かっていきました。あのローブの男のことも気になるようですし。」


 そして、ツヅミの方を一瞥すると訝し気に聞いてくる。


「...一体この少年は?」


 無理もないだろう、はぐれる前、つまりほんの少し前までは姿も形もなかった少年がいるのだ。少しは怪しむのも仕方ない。


「装いを見たところ、どこかの貴族の箱入り息子という風にも見えます。しかし、アリバーズ卿の客人という風にも見えません。いったいどういう経緯でここへ?」


 何と答えるべきか。そう迷って出てきたのはこんな言葉だった。


「わからないわ。」


「わからない?」


 眉をひそめて聞き返してくるユキノには申し訳ないと思いながらもそんな言葉しか出てこないのだ。本当に不思議な少年だった。急に私の前に現れて、人探しから始まって本当に必死になって会ったばかりの私を助けてくれた。


「...それで、その少年の身柄はどうしますか?詰め所に任せることもできますが。」


 表情で何かを察したのか、それとも聞いても無駄だと思ったのか。恐らく両方だろうが会話を切り本題を聞いてくるユキノに私はもちろんこう答える。


「もちろん、屋敷に連れていきましょう。お礼も済んでないし。」


 そういうと、ユキノは呆れたように一つため息をつくと、畏まりましたと一言だけ言葉をこぼし今後の予定を告げてくる。


「アリバーズ卿も屋敷もこんな有様ですので顔見せどころではなくなりました。なのでその方へのお礼もかねて一度アルカナ様の屋敷に戻りましょう。もちろんアルカナ様にこのことも報告しなければなりませんし。」


 私が思っていたのと同じプランだったので大きく頷くと、では帰りの手配をしてきますねとだけ残しユキノは場を去っていく。ユキノの姿が見えなくなったあたりで私の横で眠る少年に向き直り、もう一度だけ小さな声でお礼を呟く。


「ありがとね。」


 そうやって、高宮皷の激動の一日は終わりを告げたのだった。



やばいですね、新登場のキャラを一気に出しすぎて自分でもよくわかんなくなってきた。次から数話はわりとほのぼのとこの世界の設定とかのお話が続きます。ここからが本番と言っても差し支えないので頑張っていきますので応援よろしくお願いします。

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