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スリーピングナイト 作者:長川夜

1章 出会いと呪いの交錯

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1-3 温かさの力

目の前の光景に、頭が追い付かない。そして、先ほど受けたであろう絶対的な暴力の余韻に首を抑え、思わず胃液がこみ上げそうになるも何とか押しとどめるも、脳が機能を停止したような感覚がして視界がぼやける。それ程までに今目の前に広がる光景は受け入れがたく、非現実的なものだった。

意識が定まらない俺の耳に妙に響く声が飛び込んでくる。

「どうした?兄ちゃん。ビビりすぎて声も出なくなっちまったのか?だとしたら可哀そうになあ...でも容赦はしねえしする気もねえぜ。」

男の一人がそう言うと周りの連中は耳障りな声でげらげらと笑い出す。男達は一通り笑うと満足したのか去っていく...といったことはなく全員目の色が変わり例のごとく今にも襲い掛かって来そうだ。

訳が分からないまま手に握ったままになっている木材を上段に構えてじりじりとにじり寄って来る男達と距離を取ろうとする。すると背中に温かい感触を感じる。ハッとして後ろを向くと、涙ぐんだ少女が俺の外套の裾を握っていた。

「くっそ、そうだよな、そうだったよな」

心のどこかで信じていた、微かな可能性。アリバーズ邸での出来事の犯人の正体がこいつらで俺は気絶させられてここに連れてこられた...という現実逃避にも似たそれが、後ろにかばった少女の存在に否定され、一気に脳が加速する。

認めるしかない、この状況。恐らく俺はあの場で一度命を落とし何らかの方法、もしくは能力でこの場、この時まで戻ってきたのだ。

原因やどういったものなのかなど疑問は尽きないが、今はそれを考える時間も働かせる頭も足りない。

一度命を落とした。その事実を体が認識した瞬間、普通の人間が人生で一度だけ、そしてその人生の最後にしか味わうことのない人の最も大事なものを喪失する感覚が再び体に蘇り、再び嘔吐しそうになるが不屈の精神で何とか平静を保って見せる。

そんな思考を、巡らせている間にもにじり寄ってくる男達との距離はどんどん縮まっており、今にも四方から攻撃を仕掛けられそうであり首筋を冷たい汗が伝い、もう一度腕に力を込め直し眼前の敵を見据える。

その時だった。

「そこまでにしておくことね。」

路地裏に、青空のように透き通った凛とした印象の声が響き渡る。その場の全員の視線を吸い寄せられる。その吸い寄せられた視線の先には、白銀の少女が立っていた。

その光景はつい、少し前に見た光景の写し直し。なのになぜだろう。それを見て視界がにじみ、体が硬直していた。そんな俺を置いて少女は続ける。

「あんまり多勢に無勢は感心しないわ。立場上無勢のほうにつくけど、あなたたちはどうするの?」

その宣言を聞きやはり男たちは、少し恨めしそうにこちらを睨みながらもエスメラルダの覇気に押されて去っていく。

「探したわよ、ユキノ早く行かなきゃ!ほら、はやく...?」

そして記憶通り気まずそうにしながら聞いてくる。

「ええっと...誰?というかあなた...なんで」

エスメラルダは不思議そうに前回はなかった言葉を告げてくる。

「なんで...あなたは、泣いてるの?」

「え...?」

言われていることがとっさには理解できず、口からは乾いた声が出るだけだった。そして、その乾いた声とともに何か熱いものが頬を伝っていることに気づく。

「あれ...なんだろこれは、ちがくて...」

自身の涙に気づいた瞬間、こみ上げてきた感情は少しの人前で泣いてしまった恥ずかしさと、抑えていた死の苦しみと恐怖。

そして、自分でも驚くべきことに真っ先に、そして心の大部分を占めていた感情は。

「よかった、ほんとによかった。君が無事でいてくれて。」

しゃくりあげるように、早口でまくし立てる俺に驚いたのかエスメラルダも最初は、ええっと、そんなに怖かったの?も、もう大丈夫だから。などと慌てた様子だったが。少しすると、無言でこっちに近づいてくると驚くことに、おもむろに頭をなで始めた。

「なっ...」

驚いて飛びのこうとした俺を優しく、抑えながら、大丈夫だからと諭すように繰り返すエスメラルダの優しさに顔から火が出そうになるが不思議と心が休まっていく。

すると不意に頭の上にもう一つ、温かい感触が加わる。後ろを見ると背にかばっていた少女が泣き止んで俺の頭をなでてくれていた。

少女は笑顔で頭をなで続ける。前からも後ろからも温かさが伝わってきて心が落ち着いていく。少しだけ自分を甘やかしもう少しだけ温かさを存分に味わった後、立ち上がり二人の手を取り礼を言う。

「ありがとう、本当にありがとう。もう俺は大丈夫だ。」

そう言った後に嬉しそうな笑顔を浮かべる少女の頭をなで返し、もう一度感謝を伝えた後にエスメラルダに向き直る。

エスメラルダは首をかしげるが、対する俺の表情は硬く顔も真っ赤なことだろう。それをきっと女の子の前で泣いてしまった羞恥心のせいにして抑え込みできるだけ表情を悟られないように心掛けエスメラルダの目を見据えて言葉を交わす。

「エ...君も本当にすまない。あいつらから助けてもらっただけでも申し訳ないのに、目の前で急にその...泣き出したりして...」

そういえば、まだ名前はまだ聞いていないはずだったので、少し危なかったものの簡潔に何とか感謝を伝えるとなぜか前を見るとエスメラルダは頬を膨らませこちらを睨んでいた。理由がわからず恐る恐る尋ねる。

「えっと...ごめんなにか気に障った?」

するとエスメラルダは、さらに大きく頬を膨らませた後俺を睨み言った。

「それ!私は別に謝ってもらうためにこんな事した訳じゃないの。伝えるならもっと便利な言葉があるのに。」

それを聞いて、俺はようやくエスメラルダがむくれている理由を思い当たる。そうだったこういう少女だったなと、納得し、自然と頬が緩んでしまう。その横でエスメラルダは何笑ってるのよ!などと息巻いていてそれでさらに僕の笑みは深まってしまう。

俺が笑ってしまったことでさらにそっぽ向いてしまったエスメラルダの目と再度目を合わせると、僕は間違いを訂正した言葉を伝え直す。

「ありがとう。俺を助けてくれて、えっと...」

僕の目を見て言いたいことを察知してくれたのだろう。エスメラルダは僕の回答に満足げに、よろしい。とだけつぶやくと輝くような笑顔で言ってきた。

「私の名前はエスメラルダ。よろしくね。」

その笑顔に見惚れながら、僕も二度目の自己紹介をする。

「俺は、高宮皷。ツヅミって呼んでくれていいぜ。よろしく。」

お互いに自己紹介を終えた後、路地裏に入った経緯を話すとエスメラルダは前回同様呆れながらも少し微笑んでくれていた。その際に彼女は俺が泣いた理由などについては一切触れなかった。どこまでも心根が優しい少女である。

そのあとは、前回と同じ道をたどり少女を親元まで送り届けた。その際一つだけ前回と違ったのは少女が別れ際に

「バイバイ、お兄ちゃん。私フレデリカっていうの。守ってくれてありがとう。」

と、花が咲いたような笑顔で言ってくれたという嬉しいことだけだった。最後にもう一度頭をなで、母親と手をつなぎ、手を振りながら去っていくフレデリカと惜しみながらも別れた。前回のように少しも母親を恨めしくは思わなかった。

そのあと、その場で別れようとしてきたエスメラルダを同じ理由で引き留め、侍女さん探しに加わった。その後はただひたすらに前回と同じことを繰り返そうとしたが、一つだけ気になることがあった。

それは、前回俺を含めアリバーズ邸の大部分を殺害したであろうあの声の主が一体誰を狙ってあの屋敷を襲撃したのかといううことだ。

もし、アリバーズさんを狙っていただけなら今すぐアリバーズ邸に向かえばアリバーズさんが殺される前にアリバーズ邸にたどり着きさえすれば警戒を促すなりエスメラルダに頼んで侍女とはぐれたから衛兵を呼んで探してほしいという名目で衛兵を屋敷に呼んで警備を固めるなりやりようはいくらでもある。

しかし、もしあの男が今日この日アリバーズ邸を訪れる誰か。つまりはエスメラルダを狙っていた場合迷ってしまうのだ。エスメラルダをあの屋敷に行かせていいのか。アリバーズさんを犠牲にしてでもエスメラルダの安全を確保するべきなのか。

そこまで考えたところで、頭を振ってその考えを振り払う。そんな理由で人の命をそうやすやすとあきらめていいわけがないと自分に言い聞かせ早急にアリバーズ邸に向かうことを決意する。

そこから先は、簡単だった。前回無駄に捜索に費やした数十分に前回と同じようなやり取りをして親交を深めたのちに前回グロッキー状態になっていた頃の時間を見計らい、前回と同じくアリバーズ邸に向かうことを提案する。もちろんエスメラルダも賛成したためすぐさまアリバーズ邸に向かう。

そしてたどり着いた二度目となるアリバーズ邸。すでに、凶行の後というのが最も恐れていたケースだったが一目でその心配が杞憂だということに気づく。

なぜなら前回と違い、門を開けるとすぐに使用人らしき人物がお待ちしておりましたと初々しく頭を下げてきたからだった。一瞬使用人に値踏みするような目で見られたものの、着ている衣服とこの世界では上流階級の人間に見えると言わしめた外見のおかげだろう。対して疑われることもなくエスメラルダとともに屋敷内に案内される。

玄関を開けると、多数のメイドさんが迎えてくれやはり凶行が行われる前にたどり着けたというう確信が得られ安堵する。そしてアリバーズさんが待つという応接室に案内される。

その途中で例の図書室らしき部屋が目に留まり少し気分が悪くなるものの二人の少女のぬくもりを思い出し平静を保つ。

そうこうしているうちに、気づけば豪勢な応接間の扉の前に立っていた。

初老の使用人さんが丁寧にノックしドアを開けるとそこは元の世界なら明らかにマンション一部屋分はある広い部屋に、一目で高級品とわかる家具や調度品をこれでもかと詰め込んだ豪奢な部屋だった。

その中でも、ひときわ目立つ大きなテーブルとソファに腰掛けるのは間違いなく、あの時天井から吊り下げられていた初老の老人。アリバーズさんだ。

アリバーズさんは、エスメラルダと軽い挨拶を交わすと俺のほうに視線を向けてきた。

「この方は?」

当然の疑問だろう。侍女と来ると聞いていた少女が男を連れてきたのだから。

するとエスメラルダから紹介が入る。侍女とはぐれて困っていた時に助けてくれたこと、そのお礼がしたいことを告げるが、こっちからすればそれよりもはるかに大きな借りがあるので胸を張れないのだが。

すると、アリバーズさんは笑顔でどうぞくつろいでくれと握手を求めてきた。もちろん笑顔で応じ手を握り返す。そしてお言葉に甘えてくつろぎたいところだがそうもいかない。俺としてはここからが本番なのだ。

まずは、敵がアリバーズを狙っていることを想定し、侍女さんを探してもらうという名目を装い、エスメラルダに衛兵を呼んでもらおうと提案する。するとエスメラルダも侍女とは早く合流しておきたいのかすぐさまアリバーズさんに提案しようとする。

「アリバーズさん、さっきも話した通り侍女とはぐれてしまってるの。本当に申し訳ないのだけど衛兵さんに頼んで探してもらえない?」

と頼むとアリバーズさんはお安い御用だとでもいうように近くの使用人に衛兵を呼ぶように伝える。

その時。

「それは困るなあ、ハハッ。うん、困るよ」

部屋の外からそんな声が聞こえる。そして扉がゆっくりと空いていく。警戒をあらわにするエスメラルダに倣い立ち上がり臨戦態勢をとる。

そして扉の向こうから現れたのは、血が滴る鉄鎖を握りしめた。笑顔を浮かべた黒装飾の男だった。

皷の二度目のアリバーズ邸での決戦が始まった。

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