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スリーピングナイト  作者: 深崎藍一
1章 出会いと呪いの交錯
12/18

1章ー10話 昼下がりの食堂にて

大体物語進める土台が整い終わる気がします。

「いい加減話を始めてもいいかい?」


 少し苦笑した顔で提案を促してくるのはアルカナ。先程の脅威の年齢暴露と俺の二度目の絶叫からすでに十分ほどが経過している。


「確かに年齢詐欺はよく言われるけどね、ここまで騒がれたのは君が初めてだよ」


「いや、でもその見た目で五十代は詐欺すぎだろ。どう見ても二十代、譲歩しても三十代前半までだぞ、どうなってんだ」


「それ喜んでいいのか微妙なところだね」


 明らかに、見た目は好青年にしか見えないのだが、なんとその正体は心優しい足長おじさんなのだからさもありなん。

 

 説明によれば魔力が高ければまれにあるらしい、魔力何でもありかよ。と思った瞬間である。


「というわけで、私の食事も一段落したわけだし、少し質問させてもらっていいかなー?」


「なんで、笑っていいとも的なノリなのかはわかんないけど、いいともー」


 恐らく張り詰めた空気にさせないための配慮なのだろうが、その配慮がアットホームすぎて逆にびっくりしてしまう始末である。


「まず最初に、それとなくエスメラルダ様から聞いてはいるけど、君はどこの出身でどういう経緯で王都でエスメラルダ様と関わることになったのかな?」


 早速中々核心を突く質問が飛んでくる。何とか動揺を表に出さないようにしながら正直に答える。


「出身は、日本。で、なんでエスメラルダと関わることになったかは...そうだな、幼女を助けようとして助けられた」


「うーん、初っ端から理解の範疇にない言葉が出てきて困惑しちゃうね。出身地に至っては聞いたことないね。確か東にあるんだっけ?なら、ユキノ聞いたことないのかな?」


 アルカナが後ろに控えるユキノに話を振るがユキノは少し考えた後に首を振る。それもそのはず存在しないのだから知っているはずがないのだ。


「すいません、ご存知の通り私の村も含めて春の国には小さな村や集落が乱立してるので聞いたこともない地名なんてゴロゴロあります。二ホンという地名も聞いたことないですね」


「ふむ、それは仕方ないとして、髪から見ても春の国から来たっていうのは間違いなさそうだね。黒髪は春の国にしか見られない特徴だからね。それに、概ね出会った経緯も聞いてた通りみたいだし次行こうか」


「意外とぬるいなこの質問会!」


 出身地は、完全に嘘から出た真状態だし、まさか、出会った理由があれでオーケイとはなんともふんわりとした空気から抜け出せない会である。


「それを質問してる本人の前で言っていいのかは分からないけど、次行くよ?今話してみて分かったけど、その語彙力、それに体つき、手、そして治療した時の服装から見ても、一般市民ってわけじゃないだろう?貴族の出だったりする?」


「いや、まぎれもなく一般家庭です」


「あれえ!?」


 本当のことなので俺が即答するとアルカナが素っ頓狂な声を出す。それとこの男話していてわかってきたが意外と悪ノリするタイプらしい。初見のイメージ違う人が多すぎる気がするのは俺だけなのだろうか。


「いや、さすがに一般家庭では通らないよ。見た目もさることながらさっき、侍従長に聞いたよ?朝からグレイと剣術で勝負してエスメラルダ様にどやされたらしいね。しかもグレイと引き分けたらしいじゃないか。そんな剣を一般の家庭の人間が持てるとは思えないんだけど、どうかな?」


 さっきよりも心なしか眼光を鋭くして質問してくるアルカナだが、俺も臆さずありのままを答える。


「一般家庭だぜ?剣に至っては事情が特殊だな、爺ちゃんが剣を教える仕事しててな。剣はそこで学んだんだ、これで納得できるか?」


「なるほど、家が剣術指南の家だったわけだね、それ一般家庭って言って良いのかは疑問だけど。その君のお爺様は凄いね。まさか、剣の四大貴族の子息に匹敵する剣を教えるなんて。それとも君の筋がいいのかな?」


「剣の四大貴族?」


「もう驚かないよ、君の常識欠如は凄いね?お爺様にそこだけは文句を言いたい気分なんだが。剣の四大貴族っていうのはね、剣帝を輩出する四大貴族のことだよ。一人の例外を除いて剣帝は毎回その四家のどこかから排出されてるからね」


「君はもうそのうちの二家の人間に会ってるよ?まずは、王都で君たちの助力をしてくれた今代剣帝『血濡れ』のアストロ家のグラン・アストロ。それに、ほら」


 そう言ってアルカナは俺のすぐ横を指さす。俺が恐る恐るそっちを振り向くとグレイが少しはにかんだ表情で返してくる。


「いや、自己紹介の時に名乗った時点で分かってくれてると思ってたんだ。まさか、あの時はツヅミがここまで、その...常識に疎いとは思って無かったから」


「ま、まじか」


 それを見てアルカナが少し面白そうに、仰々しく紹介してくる。


「それで、彼が剣帝を最も多く輩出している『蒼天』の名を冠するセレスディア家の嫡男グレイ君だよ」


『おおー!』


 唐突かつ大仰な紹介が入り部屋の中、さらにキッチンから謎の拍手が送られる。少し恥ずかしそうにしながらもグレイが言ってくる。


「と言っても、僕は次男で兄さんが立派な騎士やってくれてるから好き放題出来てる訳なんだけどね」


「へえ、お兄さんがいるのか。お兄さんが騎士ってことはやっぱりグレイも騎士を目指すのか?」


「今のところはその予定だよ。だから毎日剣を振る毎日だよ」


 ここ数十分の間に驚きのカミングアウトが多すぎる気がするが最早驚くことに慣れてきたので感覚がマヒして大貴族の子息という普段なら腰を抜かすワードに対しても余り驚きはない。

 話が一段落したタイミングでアルカナが一つ咳払いをする。


「さて、盛り上がるのは良いんだけどそろそろ次の質問していいかな?」


 俺が小さく首肯すると、アルカナは三つ目の質問を切り出してくる。


「そもそも、なんでそんな常識の欠如した君が王都に居たのかな。そもそも、なんで家を離れたんだい?それに王都まではどうやって来たのかな?」


 ーーー正直痛い質問だ。王都に来た目的に至っては皆無だし、来た方法と言えば自宅で寝てドアを潜ったら気づいたら着いていた。家を出た理由はもちろんないし、むしろ家から出たくなかった人間である。


「ーーー」


 俺が少し答えに窮していると、やはりアルカナは少し訝しげな顔をする。


「どうしたんだい?まさか気づいたら王都に居ました、なんてことはないだろう?」


 ーーーそれが正解なんですよ。


 妙なところで勘の鋭さを発揮して来るアルカナだが、その通り過ぎて一層言葉に詰まってしまう。どうしたもんかと何とか頭をフル回転させる。


「...家を出たのは単なる家出だよ。、何にも教えてくれない爺ちゃんたちに嫌気がさしてな。来た方法は王都って知らずに街を転々としてたら着いてた」


(どうだ...?)


 出来るだけ表情を崩さず先程と変わらない少しだけおどけた口調で、でも内心では冷や汗をかきながら頭をフル回転させアルカナ達からの今の自分へのイメージと、出来るだけの真実味を乗せ口に出す。


「ふむ...」


 次の言葉までの数秒の沈黙が限りなく重い。生きてきた中でかなり上位の心労を数秒の中に味わうが以外にも次に続く言葉は軽いものだった。


「王都を王都と気づかないなんて、最早さすがと言う他ないね。実家は君のこと捜してるんじゃあないのかい?」


「それはないな、大人になったら自分の目で世界を見て回れって言われてたから。いい機会だと思われてるんじゃないか?」


 これは本当に爺ちゃんに言われていた言葉である。意図せず本当にまだ見ぬ世界を見て回ることになった訳だが。


「なるほど、大体君という人間が分かったよ、ということは行く当てはないんだろう?どうかな、少しこの屋敷に留まって世界のことを学んでみては。」


「それは願ったり叶ったりだけど、いいのか?」


 アルカナの口から出た提案は行く当てもなく、この世界で生きていくための知識を全く持たない俺からしては夢のような提案だ。しかし、アルカナからすると何のメリットもない提案。

 その都合の良すぎる提案をありがたく思う反面少し訝しんでしまう。


「ああ、いいとも。これからどうするのか指針が定まるまでは屋敷に留まってくれて構わない。エスメラルダ様や愚弟を救ってくれた恩人だし、幸いグレイもフランも君を気に入っているようだしね」


 だが、その気持ちは悪い癖だと、言葉に甘えることにする。


「...じゃあ、しばらく世話になる。よろしく頼む」


「ああ、今日からよろしくね。そういえば、まだ自己紹介すらしてなかったね。知ってると思うけど私の名はアルカナ。アルカナ・グレイスだ、さっきも言った通りアルカナで構わない」


 そう言えば周りの反応から正体を察しただけで自己紹介をしても、されてもいなかったことを思い出しこの世界に来てから何度目かの自己紹介を口にする。


「姓は高宮、名は皷。ツヅミと呼んでもらえれば幸いにござる、っと。これからしばらくよろしく」


「随分パンチの利いた硬派な自己紹介をありがとう、ツヅミ君。聞き慣れない語尾だけど特有の方言かい?」


「まあ、そんなようなもんだな」


 そんなやり取りを最後に、俺への質問タイムが終了する。そのまま食事も終了し、解散。となるはずだったのだが、食事が始まってからの内容が濃すぎて忘れかけていた重要事項を思い出す。


「そうだ、フランにアルカナ。ちょっといいか?」


 俺の急な問いかけに、アルカナと既に本の世界に戻っていたフランが不思議そうにこちらに視線を戻す。


「そういえば、ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど頼めるかな?」


「場合によるけどね...」


 アルカナは小さく頷き、フランは若干めんどくさそうに了承してくれる。読書を邪魔したフランには悪いがこっちも夢の案件なので涙を呑んで欲しい。


「俺、自分の中に魔力があるかどうか知らなくてな。今からあるかないかって調べてもらえたりする...?」


 すると二人ともが「またか...」といった顔で溜息を吐く。出会って数時間で常識知らずを諦められるという何とも形容しがたい状況に自分で苦笑してしまう。


「普通は生まれたときに調べられるレベルだよ?一度君のお爺様とゆっくり話をしてみたいものだよ」


「でも、まあボクたちからしたら簡単だよ、ちょっとの間動かないでね。アルカナは祝福を視てくれると助かる。」


 そう言って席を立ち俺が座っている椅子の前まで来るとフランが俺の心臓付近に手を当てる。


「少し異物感を感じるかもしれないけど、我慢してね。」


 その言葉と同時に体に何かが注ぎこまれるような感覚に襲われる。体にいつにない倦怠感が押し寄せ気分が悪くなるが何とか耐えて見せる。

 耐えること数秒の後、フランが胸から手を放す。それを合図に体から倦怠感と異物感が抜けていくが感じたことのない感覚を味わい、息が荒くなる。


「ど、どうだった?」


 肩で息をしながら尋ねフランの顔を見ると、そこには恍惚といった表情を浮かべている少女の顔があった。


「フ、フランさん?」


 その表情に、何となく嫌な雰囲気を感じ恐る恐ると名前を呼ぶ。フランの顔から先程ののめんどくさそうな表情は消え失せ、今も熱にうなされたような表情を浮かべ何かつぶやいている。

 しかし、フランは上気した顔を仰ぎ手を掲げて叫び始めた。


「素晴らしい!素晴らしいよツヅミ。魔力があるどころじゃあない!こんな魔力初めて見たよ、ねえ、ちょっとでいいからさ、魔力を分けてくれないか?ちょっとでいいんだ。そうだ!この後少し実験室においでよ、試したいことが山ほどある!今すぐ行こう!早k...」


 堰を切ったように詰め寄って早口でまくし立ててくるフランに若干、というよりドン引きしていると後ろからエスメラルダがフランの口を塞ぎ落ち着かせようとする。

 その、混沌すぎる状況に周りも呆気にとられていると思いきや、周りを見渡すと、周りのメンツはもう慣れたといった顔でフランが落ち着くのを見守っている。


ーーー数分後。


「すまない...」


 エスメラルダに取り押さえられ、終いには額に冷気を浴びせられ赤くなった額をさすり、ようやく落ち着いたフランが澱んだ目で謝ってくる。

 顔に「またやってしまった」と書いているため余り言及しないが恐らく癖のようなものなのだろう。こちらとしては断固直していただきたい癖だが。


「何があったんだよ、完全にあの時マッドサイエンティストの目と言動してたぞ。」


「うっ...」


 小さく呻き下を向くフランに代わって、少し疲れた顔のエスメラルダが説明してくれる。


「えっと...フランは珍しいものとか、研究に役に立ちそうなものを見つけると、さっきみたいに周りが見えなくなっちゃうの。」


「すまない...」


 顔を赤くし、再度謝って来るフランだが説明を聞く限りマッドサイエンティストの素質で満ち溢れている気がする。


「しかし、フラン。君がそこまで反応するってことはよっぽどのことだろう?一体ツヅミ君の魔力ってどん何色だったんだい?それとも保有魔力がえげつないとか?」


 アルカナが、興味深そうに尋ねる。またしても忘れかけていたが、俺の魔力の話題だ。当然俺も気にならないはずがない。

 胸をときめかせながらフランを見ると、再び眩しいほどの笑顔で口を開く。


(赤か、それとも青か?いや、爽やかな黄色と緑も悪くない。出来ればエスメラルダとお揃いの青がいいかもしれないな。)


 そうやって、エスメラルダと共に氷を使い戦っている姿を幻視し、未来に思いを馳せフランの言葉を待つ。


「なんと、ツヅミの魔力は元から黒なんだ!こんなの聞いたことないよ」


『黒!?』


 フラン以外の面々が盛大にハモりながら驚きの声を漏らす。


「なんだ黒って、主要四色じゃないの!?」


 グレイから聞いていた魔力の色の種類は確かに四種だったはずだ、なんだ黒って。


 全く想定外の状況に陥り、ガードしていたところとは全く別の所にパンチを打たれたような感覚を存分に味わっていると、エスメラルダとグレイも驚いたという顔をしてフランに尋ねる。


「主要四色以外が基本の色って初めて聞いたよ。そんなことあるの?」


「私もびっくりしちゃった、フランとかアルカナみたいに魔力を何色か使える人は混ぜて色を変えられるのは知ってるけど、元から違うのは初めて聞いた気がする...」


 フランだけでなく、二人も少しだけ興奮したように興味を示し、フランもそれを見て興味深いといったような面持ちで、俺を見据えながら首を傾げる。


「そこなんだよ、ボクみたいに魔力を混ぜて別の色を作り出すことはできる。それでも国に数人しかいないかなりレアな特権だ。ボクも黒の魔力を作るだけなら作れるけど、とても実戦で使えるような代物じゃない」


「どうして?確か混合した魔法は魔力の消費は大きいけど、それに見合うリターンがあるでしょう?」


「そうだ、確かに混合た魔力で作る魔法は消費する魔力に見合うだけの強力さだったり、特殊性が付与される」


「なら...」

 

 何か言いたげなエスメラルダの言葉を遮りフランがその欠点を指摘する。


「でもそれは、二色、限度で三色までの場合だ」


「あ...」

 

 そのフランの指摘にグレイもエスメラルダも何かに気づいたように、声を漏らす。俺は既に話に着いて行けていない。


「つまりどゆこと?違う色の魔力を混ぜて色を変えられるのもわかったし、混色の魔力で作った魔法が強いのもわかった。でもなんで黒の魔力は実用性がないんだ?」


「簡単なことだよ、黒の魔力は四色すべての魔力を合成させないと作ることができない。しかも、不通の四倍の魔力を食う割には魔法の範囲が狭くて魔法使いには需要が少ない。唯一効果範囲が広くて使える魔法も魔力を食いすぎて使い勝手が悪いしね、強力なことは強力なんだけどね」


「なんだその、テンションが降下しかしない説明」 


 説明を聞くに俺の魔力は、働いた量に見合わない時給のようなもんで、魔法使いにとっては消費魔力に見合った効果が得られないらしい。


「でも、だ」


「でも?」


「それは、普通の魔法の四倍魔力を消費するからの話だ、その点君はその四分の一の消費魔力で魔法が使える。しかも、黒系統の魔法は君みたいな剣が使える人間にとって相性が抜群だ」


「おおお!」


 さっきまでの心配が杞憂だったかのように押してあげてくるフランの言葉に、再び目の奥に輝かしい未来が見えるような気がしてまたしても目が光を取り戻す。

 実に感情の起伏が激しい日である。


「でも...」


「でも!?」


 フランの口から再び出た逆接の言葉に、まだ何かあるのかと目を剥く。しかもどう見ても今度は明らかに負の雰囲気を感じるため嫌な予感しかしない。再び気分が沈み始める、落として上げてさらに落としてくるスタイルに愕然とする。


「で、なんだ?そろそろ俺の理解力とメンタルは限界だぞ」


「これで最後だから頑張ってほしいね、主にメンタルの方が。じゃあ行くよ確かに君は黒系統の魔法を合成する必要がないまま発動できる。でもそれを差し引いても黒系統の魔法は消費魔力が絶大なんだ。それでなんだが...君は見たところ余り魔力が多くない、だから魔法はあまり使えないかもしれない。初めから黒ってことは他の魔法使えないからね...」


 つまり、俺に余り魔法の才能はないということだ。せっかく異世界に来たのなら魔法をガンガン使ってみたかったものだが無いものねだりをしても仕方ない。

 しかしこの世界で生きていく以上強さがあるに越したことはないので若干先行きが不安になるが。


「ちなみに、私が視たところ祝福も持ってないね」


 そこにさらに追い打ちをかけてくるのがアルカナだ。しかしそれ以前に先程から気になっていたのは聞き慣れない単語。


「俺にないのは分かったけども、祝福ってなんだ?」


「祝福っていうのはね、生まれた時から持っている少し特別な力のようなものだよ。この部屋の中にも持ってる人はいるよ?例えば、エスメラルダ様は『雪精の祝福』それに君が王都で会ったグラン・アストロ君、彼はちょっと特殊だけど二つ祝福を持ってるよ。『剣神の祝福』に『矛盾の祝福』と言った風にね」


「へえ、それ持ってるとやっぱり違うのか?」


「んー持ってる祝福によるかな。祝福にも位があって、神の名を冠する祝福、それにはちょっと劣るけど精霊の名を冠する祝福なんかはなかなか反則だよ?グラン・アストロの剣神の祝福は本人の剣才を限界まで引き出してるし、エスメラルダ様も雪精の祝福で氷系統の魔法の威力五割り増しぐらいになってるはずだよ」


 想像以上の効力に無いものねだりの感情が舞い戻るが、もうそろそろ慣れてきた自分がいてそれもまた嫌なのだが。


「はあ...」


 理解が追い付くのがやっとのこの世界での常識と目まぐるしい感情のアップダウンでさすがに疲れが出始めため息が出る。

 それを、落ち込んでいると取ったのかフランが慌た様子で慰めるように言ってくる。


「ええっと...うん。そんなに落ち込むことはないよ?魔力があるだけで凄いことなんだよ?そうだ!今度ボクが魔法のレクチャーしてあげるからさ、剣士向けのやつを!」


「いや、大丈夫。別に魔法云々で悲観してるわけじゃないよ。あ、でも魔法は教えてくれ。」


「あれ、そうなのかい?それは良かったし、了解したよ。ただ、ボクの講義は厳しいよ?」


 その言葉に俺が「うげえ」と顔をしかめると食堂に笑みが広がる。それを皮切りに時刻を確認したアルカナが解散を提言し、俺はグレイとエスメラルダに庭園を案内してもらうために席を立ち食堂から退出する。


 そして、食堂に残った三人にーーー


***********************************


「どうだった?フランもユキノもあの子の感想は」


「特段何も、辺境から飛び出してきた常識知らずのボンボンと言った風にしか見えませんでしたけど」


「同じくだね」


「どこだかの刺客といった可能性はないというのは私も同感だけど、家のことを聞いたときは若干嘘の気配を感じた。これは、ちょっと調べないとダメかな、何もなければ手放すには惜しすぎる存在だしね。」


「それは同感です。現時点でグレイさんと引き分ける剣力に、魔力も持っているとなると戦力としても期待できますし、それに見たところエスメラルダ様にべったりといった雰囲気でしたし条件は揃ってるように感じます」


「ボクも同意だ。それにあの魔力は絶対に手元に置いておきたいしね」


「フランの個人的な趣味は置いておいたとしても、彼は戦力になる。幸いエスメラルダ様との仲も良好だしね」


「ーーーいずれ始まる継承戦に向けて戦力はいくらでも欲しいからね」


 昼下がりの食卓で、そんなやり取りがあったことも記しておく。




エスメラルダの出番がツヅミ君がひどい目に遭う回までねえ!しかもこの章多分ユキノメインの話になる気がしてきたし...どうしよ。メインヒロインなのに。

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