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スリーピングナイト 作者:長川夜

1章 出会いと呪いの交錯

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1-1 影へ向かって。

あの時あの扉を開いていなければ。また違った未来があっただろうか。自分で進むべき未来を選べただろうか。それとも今のほうが幸せだっただろうか。

なぜ俺がこんな非現実的な思考を巡らせるに至ったかというとそれは少し前に遡る。


***********************************

俺、高宮皷(たかみやつづみ)という人間を端的に表すとすれば、中学の時に剣道で全国三位に輝くも(剣道は強制的にさせられていた祖父が他界したためやめた)長めの黒髪に、少し目つきが悪いと評されることもある猫目で身長は何と全国平均ぴったりとごくごく普通の少年である。少し特筆することがあるとすれば高校で盛大にやらかしクラスで空気になり引きこもり気味ということである。

その生活が早数か月。今日も一日盛大に食っちゃ寝し、眠りについた。

ここが人生の分岐点になるとも知らずゆっくりと、ゆっくりと眠りの底に落ちていった。

声がする。きれいな声だった、聞いたものをつかんで離さない魅惑的な声。その声を追いかけて暗闇の中をふらふらと進んで行く。まるで虫が揺らめく蝋燭の火に飛び込んでいくように。

進んでいくと現れたのは扉だった。簡素な扉だ、どこにでもある木造の扉。声を追ってドアノブに手をかける。

ドアを開けると飛び込んできたのは、溢れんばかりの光だった。思わず目を細める。目が慣れ、目を開くと一つ違和感に気づく。

「夢じゃない...のか?」

光があふれてきたときはただ朝が来たのだと思った、しかし目を開いた先にあったのは、中世のようなレンガ造りの街並みに、目の前には噴水が印象的な広場が広がっている。

なにより驚愕すべきは

「獣人...みたいなもんか?」

引きこもり生活の退廃的な生活の中で読み漁った漫画や、ラノベのお約束である獣人が目の前を平然と通り過ぎていくことに場違いな感動を覚えると同時に、残りの違和感を消化しなければならないと思い、焦りをひた隠しにしながら、噴水に腰掛ける。

深呼吸をし、落ち着き、まず、状況を整理する。

一つ目の違和感は服の変化だ。明らかに寝る前に着ていた寝間着とは違い黒のジーンズ、黒い長そでの服の上に、地面に擦るギリギリの長さの外套をまとっている。

そして二つ目の違和感の正体は、噴水を覗き込んだと気に気づいた。目の色が変化している。元々の漆黒の瞳の色は消え失せ、黄色に変化している。

往生際悪く夢の可能性を信じベタに、頬をつねってみても、ただただ無情な痛みがやってくるだけだった。自分が転生される理由を考えてみてもそんな覚えは一切ないし、正直なことを言うと異世界ライフは開始10分で詰みだった。

「何だってんだよ...」

肩を落とし、悪態をついてみるものの、そんなことをしても事態はまったく好転しない。

転生特典の勇者の剣もなければ、自分を召喚し助力を乞うてくる美少女もいなかった。これから先の人生に割と絶望していると、ふと視界の端によたよたと明らかにきな臭い路地裏に一人の少女が入っていくのが写る。

イベントの気配への期待と、厄介ごとフラグの気配への恐怖に一瞬ためらってしまうも首を振って恐怖を振り払い少女が消えていった路地裏に駆け出す。

「くっそ、まずったかな、これ...」

路地裏に入ってからすぐ、少女は見つかった。ただし、少女を連れ去ろうとしている怪しい男をセットにしてだ。

そこからは簡単だった。近くにあった木材でその男を得意の剣道で胴を打って気絶させたのはいいのだが、直後に、流れるようなお約束で音に気付いた仲間が集まって、逃走を図ったのはいいのだが何しろこちとらまったくと言っていいほど土地勘がないのだ。表に出ようとしても道がわからず、おまけに抱えた少女の鳴き声で居場所がバレバレなのだ。

すぐさま、土地勘のある相手に誘導されるように、少し開けた場所におびき出され5人程の人間に囲まれ、今に至る。

「しっかし、バカだなぁ兄ちゃんも黙って見過ごしてりゃこんな痛い目見ずに済んで、安心しておうちに帰ってぐっすり眠れたのによ。」

男達のうちの一人が半笑いで同情するように、両手を広げて首を振るような動作をしながら言ってくる。

「馬鹿野郎、こちとら絶賛おうち帰れなくて頭抱えてんだよ。帰れたとしても幼気な少女見捨ててベットの中入っても寝覚め悪ぃから寝られるかよ。そっちこそ改心しておうちに帰ってくれるって選択肢あったりしない?おうちでお袋さん泣いてるぜ?」

その問いに対する、男たちの返答は実に簡素だった。男たちは笑いながら声をそろえてこう言った。

「ねえな!」

「だよね!」

その返事を皮切りに、男たちが四方から襲い掛かってくる。男たちの顔には無事で帰れると思うなよと書いてあるためいくら剣道の腕に自信があるとはいえ、少女を背にかばいながら5人相手というのは無理がある。

割と病院搬送を覚悟し木材を上段に構え、腕に力を入れた瞬間、薄暗い路地裏には似合わない凛とした声が響く。

「そこまでにしておくことね。」

美しい少女だった。言うまでもなく整った顔に、きらめく銀髪をひとつにまとめ、肩から横に垂らし、切れ長の目には、透き通ったサファイヤブルー。その双眸に見つめられただけでどんな男でも息をのんでしまうだろう。

その、スラっとしながらも、女性らしさに富んだ肢体を澄んだ空色のワンピースで包み、その上から薄いながらも確かに身を守れるだろうと少し見ただけでわかる琥珀色の鎧をまとっている。腰には一目で業物とわかる白金色のバラの装飾が施された剣が差さっている。

一声で場の空気を換えた少女に全員の視線が吸い寄せられる。吸い寄せられて離すことができない。少しの静寂の後、少女は続ける。

「あんまり多勢に無勢は感心しないわ。立場上無勢のほうにつくけど、あなたたちはどうするの?」

男達は数秒アイコンタクトを交わした後、少し恨めしそうに男たちは去っていく。

ほっとしたのか俺は腰が抜け、少女はまた、泣き出してしまった。

白銀の少女は、満面の笑顔でこう言った。

「探したわよ、ユキノ早く行かなきゃ!ほら、はやく...?」

二人の間になぜか気まずい空気が流れる。そして少女はつぶやく。

「ええっと...誰?」

「さ、さぁ?」

詳しく話を聞いてみるとこういうことらしい。この少女は、侍女である少女とはぐれてしまい街を探し回った末に、ふと路地裏を見ると黒髪の人間が路地裏に入っていくのを見て(ユキノという侍女さんも黒髪らしく、その上黒髪はこの世界で希少らしい)路地裏を走り回って今に至るらしかった。

「で、あなたはこんな所で何してたの?」

「あ、ああ。実は...」

後ろの少女をチラッと見やり、事情を説明していく。少女は呆れたような顔をしていたがそれでいて少し微笑んでくれていたのは俺のうぬぼれでなければいいなと思った。

その後、少女の協力を経て少女は、親元に帰った。少しその親を恨めしく思わなくもなかったが、母親の胸に飛び込んだ少女の笑顔を見て毒気など飛んでしまった。

「さってと、良い事したし、気分がいいな!」

少女はそれを見ると可愛らしくクスりと笑う。思わず顔が赤くなり顔をそむけると、少女はよーし、と言うと

「これで私は、お役御免みたいね。くれぐれももう無茶はしないように。」

そう言って手を振って去っていくが、俺の未練がその手を取って引き留めてしまう。驚いた顔の少女に向けて俺は言い放つ。

「待ってくれよ、人探してんだろ?それなら一人より二人のほうが捗るだろ?手伝うよ」

少女は少し戸惑いながら考えた風に尋ねてくる。

「なんで、そこまでしてくれようとするの?初対面の人間に何でそこまでしてくれるの?」

その問いに俺は、少女の目を見てはっきりと告げる。

「んーそうだな...借りは返す主義なんだ」

少女はまた愛らしく笑い、また俺の目を見て告げる。

「変な人。そこまで言うならお願いするわ。私の名前はエスメラルダ。よろしくね。あなたの名前は?」

俺は二カッと笑うと高らかに宣言した。

「俺の名前は、高宮皷!よろしく!」

そういって二人は歩き出す。二人の歩き出す先に影が差しているのに気づかない。誰も気づけなかった。

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