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神の頼み

とある世界のとある時代、『賢者』とも『英雄』とも謳われた1人の魔術師がいました。

その魔術師はとても強く、強く、強く────勝てた者は誰1人おらず、並大抵の相手ではまともに戦う事すら出来ませんでした。

魔術を極め、世界を幾度も回り、あらゆる知識、称号、力、仲間、地位を得た魔術師にとってその世界で生きる事は幸せであったと共に退屈でもありました。

自分の知らぬ事はもうない、これ以上極める事もない、このまま退屈な余生を生きるよりも新たな命にでも転生しようかと考えていた時────







「どこだ、ここは?」


世界最強にして知識の宝庫とも呼ばれる魔術師────ルア・バージア、それが俺の名前である。

しかし、そんな俺でも今いる場所がどこなのか分からない。

上下左右、どこを見ても真っ白な空間。今いる場所も床と呼べるものなのか分からない。まるで透明な床の上に立っているような感覚であり、そこを爪先で軽く叩けば不思議な音が鳴った。


「……ふむ」


自分の姿を確認してみる。自分でもどのくらい生き続けたのか忘れたものの、相変わらず20歳前後にしか見えず、白い波のような模様が描かれた黒いコートを纏った姿である事に変わりない。

痛覚や聴覚、味覚なども試してみたが、どれも普段と変わりない。

つまり、この謎の場所は自分の精神空間や夢などではないという事だ。現実であるならば、ここから脱出する方法は幾らでもある。


「……あな、たが……ルア・バージア……です、か?」

「ん?」


魔術を発動しようとしたが、すぐに止める。

声が掛かってきた方を見れば、そこには腕や足、体の一部を失ったボロボロな女性が立っていた。

なんとも酷い姿だな。何故こんな……ん?


「お前、神か?」

「!……わ、分かるのですか?」

「気配が似たような奴に何度か会った事があるからな。しかし、まさか神が1人ではなかったとはな」

「私は……フィルア、と申します……貴方に、頼みがあり、ます……!私の世界を、どうか、救って、ください……!」


世界を救うとかの前に、まずはお前の怪我からだろ。


「回復魔術────【治癒(ヒーリング)】」

「特殊魔法────【修復(リペア):服】」


失っていた腕や足を元へと戻し、傷や汚れも跡を残さずに全て消していく。ついでに破れていた服も直してあげれば、そこにいるのは真っ白なドレスを着た金髪の女性へと変わった。

ふむ、ちゃんと魔術も使えるみたいだ。


「あ、あの……あ、ありがとうございます」

「怪我だらけの姿でいてもらっても困るからな」


しかし、世界を救ってください────か。つまり、彼女の世界が危機的状況にある為に俺を頼ってきたという事で間違いないだろう。


「お前がさっき言った事、もう少し詳しく教えてくれないか?」

「……私の世界は突如現れた魔王によって支配されました。私も魔王からの攻撃であのような姿にされてしまって……」

「それでどうして俺を頼る?いや、何故俺を知っている?」


これらはどうしても分からない。何故彼女は自分の事を知っているのか?彼女と会った事などなければ、話した事もない。

自分の強さが他の世界にまで広まっているというならば、自分を誇れると共に納得もできるが。


「貴方の活躍は、私の世界では伝説となっています。私は貴方の存在は人間が生み出した空想の人物だと思っていましたが、貴方の世界の神から実在する事を耳にしたのです」

「……なるほど」

「お願いです……私の世界を救ってください」

「いいぞ」


俺の返事にフィルアは「えっ?」と唖然としたような表情をとった。何だ、少しは躊躇ったり、断るとでも思っていたのか?

しかし俺は退屈なのだ。知らない他の世界に行けるんなら、それは退屈を潰す為の絶好のチャンスだ。


「暇で暇で仕方なかったんだ。魔王と戦えるなんていい暇潰しじゃないか」

「っ……そんな、暇潰しなんて……あの者を倒す事は容易ではないんですよ!?命を懸けなければ勝つ事など────」

「なら確かめてみるか?俺の強さを」

「……ええ、失礼ですが確かめさせてもらいます」


フィルアが俺には聞き取れない不思議な言葉を紡いだかと思うと、人を模したと思われる敵が床から何十体も現れた。

全員が剣や槍、腕が変化したハンマーや鎌などを俺に向けてくる。

生きているというわけではなさそうだな。つまりこれらはフィルアが生み出した人形か。

あ、俺に向かって走ってきた。


「雷魔術────【落雷(サンダー)】」


どれ程の強さなのかを知る為、とりあえず雷魔術の初歩的な魔術、【落雷(サンダー)】を唱えた。

上空に展開された複数の魔法陣からは、魔法陣と同じ数の雷が放たれる。次々に人形へと命中し、ほとんどの敵はその一度の攻撃だけで消滅してしまった。


「脆いな」

「なっ……神が作り出した存在を倒すなど、ありえないはずなのに!」


この程度で驚かれても困るんだが……まぁ、初歩的とはいえ、俺が使えば威力は中級魔術と同等かそれ以上になるが。

さて、後は残った人形を倒すか。


「炎魔術────【火炎球(ファイアボール)】」


手の平から次々に放つ炎の塊は人形を焼き尽くしていき、消滅させていく。

背後から攻撃しようとする人形もいたが、そんなものはとっくに気付いている。目の前で放った【火炎球(ファイアボール)】で消滅させた。


「これで全部だな。しかし、この程度で良かったのか?もっと強くても俺は問題ないが」

「っ……!」


そんな信じられないような目で見られても困るんだが……いや、確か神が作り出した存在を倒すなどありえないとか言っていたな。


「これ程の力があるならば、大丈夫でしょう。すみません、貴方を疑ったりして……」

「謝らなくていい。俺も言葉が悪かったからな」

「いえ、こちらから頼んでおきながらあのような事をしてしまうなどあってはならない事です」


謝るフィルアに自分の非を認め、謝罪を止めようとするが、彼女は自分のした事が許せず、止める気はない。

どうしようかと悩んだ末、話を変える事にした。疑問に思った事をフィルアに「ところで」と尋ねてみる。


「魔王に支配されたと言っていたが……抵抗する者はいないのか?」

「います。絶望してしまっている者も少なくはありませんが、種族同士で協力をしたり、勇敢な者は配下である魔物と戦ったりしています」

「種族……?住んでいるのは人間だけじゃないのか?」

「はい。私の世界には人間以外にもエルフやドワーフなど、そちらの世界では伝説となっている者達がこちらにはいます」


魔王だけではなく、自分が書物でしか見た事がない伝説上の存在にまで会えるのか……これは実際に会ったら退屈などきっと出来ないな。


「それから……最近、人間達の中から『勇者』と呼ばれる者が旅に出たそうです」

「『勇者』?」

「はい。『勇者』とは、魔王を倒す者────そう伝えられています。しかし、その者だけで魔王を倒せるかは分かりません。故に、貴方には勇者と共に魔王を倒してほしいのです」


『勇者』────その言葉、昔どこかで聞いた事があったな。

しかしどこで聞いたのか、その『勇者』という言葉がどのような意味を持っていたのか思い出せない。


「貴方は私達の世界では唯一の魔術師となります。魔術を恐れる者もいると思いますが、貴方は希望────どうかこの世界をよろしくお願いします」

「ああ、魔王との戦いを楽しませてもらうよ」


そう言うと、俺はフィルアの力によって一瞬にしてその場から消え去った。

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