episode:009 前進
ミライは「庭園」へとたどり着いた。
吹き付ける風に、私は思わずその場にうずくまる。
周囲を見回すと梯子があった。
かなり腐食しているが、何とか大丈夫そうだった。
梯子を伝い下へと向かう。
「このまま下へと向かうわ」
「庭園に関するデータは、確認できません。
出港時のデータによると、半径50kmの円形、面積にして約7,850平方km、中央部には人口光を造りだす光柱があります」
広さの事を言われてもあまりピンとこなかった。
しかし、とてつもなく広いということは分かる。
管はいったん下の方へとのび、そこからまた中央部へと向かっていた。
梯子を伝って一旦下へと降りてから、再びパイプの上を歩き出した。
管の上には、検査用の通路があり、落下防止用として手すりが設けられていた。
下に降りようかとも考えたが、眼下に広がる世界は、どうみても密林のジャングルだ。
高さにして200m程だろうか。時折強い風が吹き、吹き飛ばされそうになる。
手すりも所々が腐食し、下手に体重をかけるとへし折れてしまいそうだった。
ここはしばらく管の上を歩き、広い場所を見つけた方が得策と言えた。
管には蔦が絡まった場所があることは遠目から見ても確認できている。
つまりは管を支える支柱があるということだ。それを伝って下のジャングルに降りることも可能だろう。
本来であれば、長期にわたる航海の間、移民たちの心の拠り所として機能するはずだった庭園は、今では管理する者もいなくなり、荒れ果てた状態になっている。
改めて200年もの時間の経過を実感した。
人の手を加えなければ、自然はこうも活き活きとするものなのだろうか。
■自然
宇宙船内において、自然の定義は不確定なものになる。
地球上、自然界においてのエネルギー源は「太陽」である。
当然のことながら、宇宙船内で光の存在は絶対条件となる。庭園のような自然環境を維持するためには光も大切だが、大気循環を促す「熱」も大切な要素だ。
光が生命にエネルギーを与え、熱が水や大気に循環を与える。
それらが交互に作用しカルネアデスの庭園は機能している。
その機能を果たしているのが「光柱」の存在だ。
庭園の中央部に存在する光柱は、高熱源体が柱の外部を上下することによって、昼と夜を造りだす。
これが機能しなくなると、庭園は自然界の環境維持ができなくなる。