episode:006 機関部へ
なんとか食料の確保は出来たミライだったが。まだ水の確保は出来ていない。水を求めミライの探索は続く。
扉を開けると今までの雰囲気とは異なり、無機質な冷たい空間が広がっていた。
床は金網、手すりはあるが所々点検用にない部分もある。
天井からの明かりは最低限で、足元は注意していないと分からないくらいだ。
今までの清潔な雰囲気は一変し、無機質で武骨な場所になった。
床も天井も、壁にもすべて管が這い奥へと続いている。
手で触れるとわずかに振動を感じた。
耳を澄ますと、液体の流れる音がわずかだが聞こえる。
間違いない、この施設は「生き」ている。
これは大きな意味を示していた。
船は現在確認している限り乗組員を失い、しかも機能の大半が機能していない。
それが何者かの意図によるものなのか、不慮の事故によってそうなったのか定かではないが、少なくとも船の機能の一部は稼働し、最低限のライフラインは確保できているということだ。
しばらく進むと大きな広い空間に出た。
動くものはない。
作業ロボットの一台でもいるかと思ったが、それもなかった。
私はしばし考え込んだ。
目覚めてから、まともに動くものを見ていない。
船内は静かだった。
無音と言ってもいい。
うさちゃんがいなければ寂しさのあまり発狂していたかもしれなかった。
それだけ何もない。
誰もいない。
そういえばと改めて考える。
移民船「カルネアデス」の想定移民数は、たしか2億人だったはずだ。
それが忽然と消えてしまった。
いったいどこに行ってしまったのだろうか。
2億人といえば、その当時の人口の2%に相当する。
資源が枯渇し、人類の起源とまでされる星を去ることに、当然のことながら様々な理論が沸き起こった。
しかし、2330年の地球は戦争で疲弊していた。瀕死だったといてもいい。
地球、月、火星を含め200億いた人口は半分の100憶にまで激減し、居住不可能な汚染地域が地球上では38%も占めていた。
移民船と銘打っているが、実際は放逐と言えなくもない。
2億人ともいわれる移民は、希望者と人工知能による選定が行われ選ばれた。
その大半が、マーズノイド、ムーンノイドで占められ、地球出身者はほとんどいない。
それは、地球から人間を運ぶよりも火星や月から人間を運ぶ方がコスト的に安上がりなのだが、他にもマーズノイド、ムーンノイドに対する差別的な見地からこの計画は行われたと思われる節もあった。
計画の準備期間は50年、自動工作機械によって資源掘削用の小惑星が解体され、宇宙船に組み上げられた。
2億人ともいわれる移民たちは、カルネアデスに乗り込むとすぐにコールドスリープの準備を行い次々に「保管」されていったのだ。
次々とカルネアデスにドッキングする小型の宇宙船を私は父親と一緒に見ていた。
父はエンジニアとしてカルネアデスに乗り込んでいた。
何度も父にこの計画について説明を受けていた。
幅200km全長100kmの「カルネアデス」は、ちょうどキノコのような形をしていた。
キノコの傘に当たる部分は居住区、つまりは人間の保管部と機能維持のための主要機関が集中している。
傘は、12区画に別れ、万が一機能が停止した場合でも、隔離することで被害を最小限にできるようになっていた。
柄にあたる部分は、全長100kmもの推進器機関部・惑星開拓用の資材部となっており、亜光速に飛行を可能とする出力を出すことができた。
他の区画では、もしかしたら他の船員たちがいるかもしれない。
私のいる区画だけが、何らかの理由で機能停止に近い状態となり、放置されている。
そう考えると納得がい私った、そう納得することにした。
この先に行けば、何かが分かる。
そう自分に言い聞かせ、私はさらに足を進めていった。
■テラ・フォーミング(惑星地球化計画)
地球以外の惑星の環境を人為的に変化させ、人類の住める星に改造すること。「 地球化」、「惑星改造」、「惑星地球化計画」とも言われている。
2330年代、火星と月が居住可能となっていた。
月は、重力が弱く惑星として大気を保有することができなかったが、地下に居住区を作ることによって居住可能な星としている。居住可能な状態にするために主に用いられたのが自動工作機。大型の対消滅エンジンを搭載し、半永久的に作業を行うことができる。
移民船「カルネアデス」も、この自動工作機械によって建造された。
火星は太陽系の惑星の中で最も地球に環境が似ており、一世紀ほどでテラ・フォーミングをすることができた。火星移住が可能となり2世紀が経過した2330年において、マーズノイド(火星人)に対する偏見や差別から、地球と火星との対立が勃発しており、100憶ともいわれる犠牲者を出した「惑星間戦争」の引き金ともなっている。