episode:002 果てしなき時間の流れ
約1カ月の予定だったコールドスリープ。しかし、実際に船内時間では200年が経過していた。そして、船外時間では・・・
船内は肌寒かった。簡易な下着以外身に着けていないのも原因かもしれない。
思考も鈍くまだ状況が把握できていなかった。
「うさちゃん!」
私は、私専用のサポートボット(サポートロボット)を呼び出した。
「はい、ミライ様」
耳元で、声が響き。目の前にウサギのぬいぐるみが姿を現す。
どうやら、彼女は私の覚醒と同時に、起動しているようだった。
彼女に実体はない。
脳内で処理され、そこにいるかのように「視えて」いるだけだ。
あくまでも私の生活などのアシストをしてくれる補助機能でしかない。
彼女の姿は、私の脳に直接映像と音声を送り、生活のサポートをしてくれるのだ。その本体は、私の小指の先よりも小さく、脳内に埋め込まれているため外すこともできない。生体電気をエネルギーとしているため、極論、私が死ねば彼女も死ぬ。
「現在の状況を確認して」
「はい、わかりました」
うさちゃんが、船内のネットワークにアクセスする。
どうやらネットワークは生きているらしい。
「船内状況、各センサーの故障多数。
生命維持装置、稼働率12%、エネルギー交換率7%。
有機転換炉および自己修復装置はシステムエラーにより現状を把握できていません。
本船は現在も亜光速で航行中です。
銀河座標特定。時間軸測定できました。
絶対基準時で、外部時間では、おおよそ9,460億秒が経過しています」
9460億秒・・・地球の時間に換算して3万年!
絶対時間軸、宇宙船の光速、亜光速による時間の差異にとらわれず、銀河の運行を基に算出される時間基準。
それによれば、宇宙船が「地球」を出発してから、既に、3万年という時間が経過しているというのだ。
「・・・・!」
絶望的な数字。私はその場に崩れ落ちそうになる。
船内時間だけでも既に100年が経過していた。船外では既に3万年もの時が流れていたのだ。
移民船は、その性質上地球への帰還を前提としていない。その航路の単位が10年単位、100年単位だからだ。
しかし、3万年という時間はそれを度外視しても異様だった。
何かの計測ミスの可能性もなくはない。その可能性もあった・・・そう信じたかった。
「地図にアクセス。制御室までのルートを」
「アクセスしました。
ルート確定不可能。
データの破損によりルートを確定できませんでした」
「ルートが分からないのは・・・厳しいわね」
うさちゃんの言葉に、落胆を隠せなかった。
「体温の低下を確認。コールドスリープの影響かと思われます。
ただちに、衣服を身に着けて下さい」
うさちゃんの提案に私は賛成する。
服はすぐに見つけることができた。
私のいた船室はそれほど広くなく。すぐに収納ボックスに辿り着くことができた。
収納ボックスを開けると、男物とも女物ともいえない白い服が上下一着。靴までそろっていた。
簡易のリュックもある。何かしらの道具があれば、これに入れればいいのだ。
服も靴も身に着けるとしっくりしたので、もしかしたら私用にあつらえられたものなのかもしれなかった。
「とにかくこの部屋を出ましょう。ここにいても仕方ないわ。まずは、食料と水の確保よ」
「ミライ様の意見に賛同します」
・ミライ 性別:女 年齢:16歳
所持品 靴1足
簡易リュック
■相対性理論
アルバート・アインシュタインが提唱する理論の一つ。光速で動く物体において時間の流れは異なる。
光速で飛ぶロケットの内部では、時間がゆっくりと過ぎ、外部では時間は早く過ぎるというもの。
浦島効果とも呼ばれる。
光速に近い速度で飛行する宇宙船の内部では一日時間が経過しても、宇宙船の外では100年もの時間が経過している。という現象が起こる。