episode:001 目覚めー暗闇
移民船カルネアデス。コールドスリープから目覚めた少女ミライは、目覚めてすぐに周囲の異常に気付く。
目が覚めた時、そこは薄暗い闇の中だった。
ここが、コールドスリープのカプセルの中だということは、おぼろげながら覚えている。
タイムレコーダーは2545年2月2日を示している。
しかし、これは宇宙船内の時間軸での話であり、相対的な時間しか示していない。
地球を出発したのが、2330年だったと記憶しているから、船内時間で200年程経過していることになる。
2世紀!
私は自分の認識を再確認した。
コールドスリープに入る前、予定は確か一か月だったはずだ。
それがどうして、200年ものロングスリープになってしまったのだろうか。
何かの異常が起こったとしかいいようがない。
現段階で、何故目覚めたのか、船内がどうなっているのかまったく分からなかった。
航路がどうなっているのかは、制御室に行かなければ確かめることができない。
一般船員でしかない私が行ったところで、制御室に入れるかどうか怪しいが、ここで手をこまねいているわけにもいかなかった。
最悪、航行不能になっている可能性があった。
私が目覚めたのも、何か理由あってのことだろう。
そう思いたい。
しかし、私が目覚めたところで、何かの役に立つとは思えなかった。
私は、女、16歳。ただの学生でしかない。
サポートボット(補助ロボット)なしでは、自力で生活することすらできないごく普通の女子だ。
ピッ、と電子音が鳴り。コールドスリープのカプセルが開く。
室内に明かりが灯り、周囲を照らし出した。
飾り気のない床と天井。
ただ、壁だけは半円状のものが所狭しと並べられている。
このすべてがコールドスリープ用の「スリーピングベッド」だった。
この一つ一つに船員が収められ、深い「眠り」についている・・・まずだった。
しかし、どのベッドも「不在」を示す赤いランプのみが点いている。
一人でも「眠り」についていればこのランプは緑に光っているはずなのだ。
私は、ゆっくりと起き上がった。
長時間のコールドスリープの影響か、体がやけに重い。
それ以外、床も壁も天井も真っ白。
コールドスリープの影響か、しばらくの間、眩しくて目を開くことができなかった。
部屋の中央の制御パネルにアクセスすれば、壁にあるどのベッドも出すことができた。
私の眠っていたベッドは「強制覚醒」となっていた。
何らか(または誰か)の命令によって、私は覚醒させられたのだ。
試しに、ベッドの一つを「排出」させる。
音もなく、カプセル状のベッドが排出され、私のベッドの隣に音もなく降りてくる。
試しにカプセルを開けてみたが、中には誰も入っていなかった。
それにしても、周囲に誰もいないことが気がかりだ。
いかに技術が向上し、コールドスリープが宇宙技術の中で確立されたものだったそしても、立会人の一人もなく覚醒を行うということは考えられないことだ。
「とにかく、何が起こったのか確かめないと・・・」
しっかりとした声が出た。
それがーーー。
200年のコールドスリープから目覚め、初めて発した私の言葉だった。
■コールドスリープ
冷凍睡眠。長時間の宇宙航行の際に、生命維持、エネルギーなどのエネルギー消費を抑え、また老化を抑制する手段として用いられる。20世紀初頭、夢物語としてSFに登場した技術。以前は冷凍した後の解凍技術が確立しておらず、解凍・蘇生が困難(というよりも不可能)であったが、現在(2330年)では確固とした技術として定着している。
西暦2330年。移民船カルネアデスは、2億人3の移民希望者を乗せ資源の枯渇した地球を離れ、新天地を目指し出航している。