ラッキーアイテム
「これ、どうぞもらって下さい。幸運のハンカチです」
札幌の地下歩道(略してチカホ)で、声をかけられ、
私は、強引にハンカチを渡された。
「え?ちょっと待って。私、こういう手のものは・・」
いきなり無料で物を渡すのは、催眠療法とかいう詐欺か、
新手の宗教勧誘に違いないと思った。
あわてて返そうとしてた。たった今の事なのに、
ハンカチをくれた女性は、もういなくなっていた。
大通駅のチカホは、人が多いから見失ったのかな。
私ー千堂 さやかーは、H大に通う3年生。
今は、母と二人でN公園近くのマンションで暮らしてる。
今日は、夏用のバッグの下見に、ススキノまで続くチカホ・Pタウンを
ブラブラ歩く予定。
もらったハンカチは、大判の白い木綿のハンカチで、隅に四つ葉のクローバー
の刺繍がしてあった。
予想に反して、ハンカチの入っていた袋には、なんのチラシも入ってなかった。
ハンカチも、いたって普通の木綿だったし。
(まあ、いいか)私は、ハンカチをバッグに入れ、Pタウンの中を進む。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
札幌の4月は、郊外にはまだ雪が残っているけど、中心街だけは春のようだ。
地下にいると、季節がわからなくなる。
pタウンの両側は、市場のように、いろんな種類の店が並んでいる。
覗いて歩くだけで、楽しい。
まず、最初にバッグなどの小物を売ってる店をのぞく。
さすがに、夏のバッグは時期が早いかな。
バッグをみてると、夏用のバッグを一個だけ見つけた。
麦わらで編まれた外側。内側は、可愛い布がはってあり、ポッケもあった。
これはいいと思ったけれど、買えるだけのお金の持ち合わせがない。
店員さんが、ニコニコしながら近寄ってきたので、そ知らぬふりで店をでた。
店員さんは、なんと追いかけてきて、
「このバッグ、内側に少しシミがあるので、見切り品で1500円なんですよ。」
即、買った。包んでもらうと荷物になるので、値札だけとってもらった。
正規の価格は8000円だ。
これって、ハンカチ効果か?
なんて思って歩いていると、斜め向かいのペットショップの店員から、
「新発売のペットフードの試供品です。
これが子猫用で大人猫はこれです。どうぞ」
と、手渡された。
ウチ、猫、飼ってないんだけど、マンションの管理人さんが、猫飼ってるっけ。
帰ったら、あげよう。
あの猫なら、なんでも食べるだろう。体重5kgはありそうだ。
今日の私は何かのオーラを出してるのかもしれない。
その後、化粧品の試供品やらティッシュやら、なんだかたくさん貰った。
もう少しでPタウンの終わりっていうところに、蒲鉾屋があった。
通り過ぎる時、
「さやかちゃん、さやかちゃん」
同じゼミ仲間の、田中健介だ。
「田中君、何してるの?」
「愚問じゃ、バイトしてるんだよ~ん。」
確かに、愚問だった。ここは、イートインもない店だ
「ね、同じゼミ仲間のよしみっつうやつで、蒲鉾買ってって。今日は売れ行き悪くてさ」
ううm、母に買っていくか。おかずになるだろうし。
”ちょっと困ってる”って顔の田中君に、つい、ほだされ買ってしまった。
蒲鉾をレジ袋ごと、買ったばかりの夏用バッグに入れ、地上に出た。
バッグの中は、いろんな小物でガサガサなってる。
どうも、変な日。
N公園が見えて来た。家まで後少し。
歩いた分、少しはダイエットになったかもしれない。
4月とはいえ、藻岩山は、まだ雪が多く残っている。
山から吹く風は冷たい。
その風にのって、聞きおぼえのある鳴き声が聞こえて来た。
”あお~ん、あお~ん、お~~ん”
だみ声で独特の節回しで鳴いてるのは、管理人さんの飼い猫”シャルル”ちゃんだ。
巨漢のトラ縞猫、鍵シッポ。私は、オンちゃんと勝手に名づけ、
見かけたら、頭を撫でてやったりしてた。人懐こい猫なのだ。
声のする方へ行くと、オンちゃんいやシャルルちゃんが、
足をひきづって私によってきた。
後左足が、ひどい怪我で、血が出て腫れている。
どこかで休んでた所、蒲鉾のニオイにつられて出て来たのかもしれない
これは、オンちゃんを抱いて帰るしかないか。管理人さん、きっと心配してるだろうし。
でも、抱こうとすると、、プイっと横を向き、離れる。そしてまた鳴きだす。
(何?なんかある?)
オンちゃんの顔が向く方向をよく見ると、低木の茂みの下に、
歩くのがやっとのような、子猫がいた。白に黒いブチ猫だった。
この子猫も一緒にって事かな?オンちゃんに、とりあえず聞いてみた。
「お~ん (そうだ)」と、私には聞こえた。
子猫を、今日、買ったバッグにいれて、オンちゃんを抱っこする。
無理、無理、家まで重くてもたなない。
オンちゃん、ユメピリカ5kgの米袋より重い。今日買ったバッグにオンちゃんも
入れていくことにした。
そっと、オンちゃんの怪我した足を、”幸運をよぶハンカチ”で、つつんだ。
傷口が、直接、バッグにあたると痛いだろうと思って。
抱っこしても、カバンにいれても、やっぱり重い。
やっとの事で、マンションにつくと、管理人室へ直行。
管理人さんは、60代の背の低い小太りのオジサン。
「まあ、シャルルちゃん、どこへ行ってたの。すっごく心配したのよ。」
オンちゃん=シャルルちゃんは、安心したのか、何度も鳴いて、
管理人さんに甘えてる。
「3階の千堂です。たまたま、足を怪我して動けなくなってるのを見つけたので」
その言葉で、管理人さんは、真っ青になって、オンちゃんの足を見た。
「本当だ、大きな傷跡がある、さっそく、獣医さんへ行かないと。
千堂さん、本当にありがとう。一昨日の夜から帰ってこなくて、専門の
ペット探偵の人を頼もうを思っていた所なの」
”あとで、もう一度、お礼に伺います。本当にありがとうございます”
管理人さんは、涙目でオンちゃんを抱きしめてる。
これから、すぐ獣医へとんでいくのだろう。
それにしてもわからない。今見たオンちゃんの足は、
確かに傷跡はあったけど、綺麗だった。
私が見た時は、その傷口がパックリわれていて、血はダラダラ、少し膿も出てた。
だからハンカチで足をくるんだのに。
そういえば、あのハンカチはどこへいったのだろう?
床には落ちてない。バッグの中には、子猫が丸まってねてるだけ。
そうだ子猫だ。なんとかしないと。私は母のまつ部屋へ、駆けこんだ。
大騒動になり、結局、その子猫はウチの家族の一員になった。
”幸運のハンカチ”・・ラッキーアイテム。対象は猫だったようだ。